33話 告白
「つまり、本物の方のリンゼに身体を乗っ取られたと?」
「はい……そうなります」
今だ魔法で束縛されたまま、エルフの里の長クリフォスの問いに私はトホホと答えた。
あれからマルクに鬼畜な尋問をされたら、本物リンゼはあっけなく音をあげ、身体の主導権を私にもどしたのだ。
あとは、身体の自由を奪われてクリフォス様、エクシス様、鬼畜、ジャミル、他、エルフの神兵の皆様の前で吊るし上げにあっている形である。
ちなみに、エルフ達も王都の神殿の粛清に力を貸しているので、現在王都の神殿にいる状態だ。
「魂を二つ内包しているとは聞いたことのない例ですね」
エクシス様がクリフォス様に言えば
「ふむ。確かに。エルフの文献でもそういった記述があったことはない」
「ええ!?じゃあリンゼを抑え込む魔道具があったりはしないとか!?」
「恐らく存在しないだろう」
クリフォス様の答えに私はがっくりと首を下げた。
えええ、じゃあ私はこれからリンゼにいつ身体を乗っ取られるかわからない状態で、ずっと過ごさないといけないわけ?
せっかく事件が解決したのに?
「しかし、何故今まで身体を乗っ取られる事がなかったのに、急に乗っ取られたのでしょう?
もしもっと以前に身体を奪う事が出来たなら、侍女のクレアを助けに行くときに止めていたはずです」
と、マルクが顎を抑えながら考える。
確かに。命の危険の時に出てこなかったのはおかしい。
身体を乗っ取るには、魔力を使いすぎた後などの条件があるのかもしれない。
「それは賢者に調べさせよう。
だが、リンゼ殿。
貴公には申し訳ないがそなたを聖女様の側に置くわけにはいかぬ。
理由は言わなくてもわかるな?」
クリフォス様の言葉に私は頷く。
いつ本物リンゼに乗っ取られるかわからない状態の私をお嬢様の側に置いておくなんてもっての外だろう。
私だって絶対反対する。あいつお嬢様のこと逆恨みしてるし。
あーあ。せっかくお嬢様の側にいられると思ったのに。
最後の最後で本物リンゼに抵抗されるとは思ってなかった。
■□■
「変化の魔道具で魔力を使いすぎたのでしょう」
クリフォス様に紹介されたエルフの賢者に話をすれば帰ってきた返事はそれだった。
「魔力の使いすぎ?」
「はい。貴方の場合、魔力調整できませんから、魔力を無理に大量に送り込む事によって魔道具の効果を作動させていました。
その為魔力を使いすぎて切れた状態になっていたのでしょう。
普段は押さえ込んでいた、身体の魂が魔力切れによって表に出てきてしまった、と考えてください」
言ってエルフの賢者はメガネをくいっと直す。
「魔力と魂って関係あるんですね」
「魔力が魂依存な事を考えれば当然かと」
言って小馬鹿にしたように見下ろした。
基本エルフって人間を見下してるって話だけど、こうも露骨だと逆に怒る気もしない。
この人はこういうものだと距離をおけばいい話。
「魔力が回復する薬です。これを飲んで魔力を使いすぎないように」
言って薬を渡された。魔力を使いすぎたらすぐに飲むようにと。
私は嫌そうに渡すその袋をにっこりと受け取るのだった。
■□■
「原因がわかっただけでもよかったですね」
賢者の部屋をでると、鬼畜が待っていてくれた。
「はい。助かりました。
貴方には迷惑をおかけしました。すみません。
それにしても、よく中身が違うってわかりましたね」
「はい。理由は多々ありますが、対策をされても面倒なので言いません」
言ってニッコリ微笑む。
「確かに。それもそうですね」
リンゼが身体の中で聞いているのだから、敵に手のうちを教える事もないだろう。
にしても……
「でも、どこらへんから気づいてたんですか?」
「はい?何故でしょう?」
言って微笑まれる。
「あ、いや、何でもないです」
言って私は顔を背けた。
デートに誘ってOKしてくれたのは、やっぱり中身がリンゼだと気づいてたからなのだと自分を納得させることにする。
「あれが、本当の貴方だったら嬉しかったのですけれどね」
ポツリと鬼畜が言った言葉に私は思わず顔を見上げた。
「……は?」
「はい。貴方が誘ってくださったのなら、喜んでこちらからプロポーズしたのですが」
ニッコリ言う鬼畜に思わず顔が赤くなる。
「ま、またまた。そういうご冗談を」
「冗談ではありませんよ。
もう、そのような冗談を言う年齢でもないと思いますが」
言って立ち止まる。
た、確かにマルクも私も貴族より結婚の遅い平民とはいえ、結婚適齢期を少しすぎている。
「え、いや、その……」
私は思わずたじろいだ。
いや、不意打ちすぎる!?
こんな普通の道端で告白するか普通!!!
い、いやいやいや。それより鬼畜だよ!!相手はまごうことなき鬼畜だよ!!!
「いやいやいや。
だって私地雷付きですよ!?
いつ本物リンゼが貴方を殺そうとするかわからないんですよ!?」
「ああ、それなら問題ありません。
見分ける術はありますから」
「いや、いやいやいやいや。
無理です。私が無理です。
いつ殺すかわからない状況で人と付き合うなんて!」
「ならその問題を解決出来れば、お付き合いを考えていただけると?」
「え!?
いや、そういう事じゃ!?」
「ですが、断られないということは少しは望みがあると思ってもよろしいでしょうか?」
「そ、それは……」
「返事はすぐにとは言いません。考慮していただけると嬉しいです」
言って鬼畜はニッコリと微笑むのだった。











