32話 逆襲
どこか夢心地だった。
月明かりの下で。
私は鬼畜と二人で歩いていた。
王都にある神殿の中庭だ。
私たちはエルフの長と話をすませ、諸々の手続きが終わったら、鬼畜は王都に残り神殿の反エクシス派の一掃を。
私は愛しのお嬢様に会う為にエルフの里に行く事になっていた。
だから二人でいるのは今日が最後のはずだった。
なのにこれはどういう状態だろう。
私は何故か鬼畜と仲睦まじく月夜の道を歩いているのだ。
あれ?何でこんな事になっているのだろう。
神殿の中庭の噴水の前で、私と鬼畜は足を止めた。
月明かりで噴水の水がとても綺麗に浮かび上がるその景色をバックに、私と鬼畜が見つめ合う。
「マルク様……お慕いしていました」
私の口から紡がれる言葉に、マルクが嬉しそうに目を細めた。
私はそれをまるで第三者が見るような視線で見ているのだ。
そう――。
身体は私なのに。告白しているのは私じゃない。
本物のリンゼだ。
何でこんな事に。
やっと平穏を手に入れたのに。
最後の最後で、私はリンゼに身体を乗っ取られたのだ。
■□■
話は遡る事、1日前。
「何であなたばかり上手くいくのよ!!!!」
白い空間で忌々しそうに叫ぶリンゼ。
相変わらずリンゼの姿は子供だ。
なんだか疲れて神殿で疲れて自室でぐっすり寝ていたら、久しぶりに本物のリンゼに話しかけられた。
「何でって、貴方何もしなかったじゃない」
答える私。
そう――リンゼは現状を変えようだなんてしなかった。
むしろ嬉々としてお嬢様を操っていたのだ。
命懸けで状況を変えようとした私とは全然違う。
それをうまくいくの一言で済まされては流石にカチンとくる。
「仕方ないじゃない!!貴方みたいに特別な知識があるわけじゃないんだから!!」
そこはまぁ同情はする。
私も現地人だったら、リンゼのように言いなりになるしかなかったかもしれない。
どことなく夢心地で、物語の中だから!と、他人事で好き勝手動けたからこそ出来た事だと思う。
「だからって、小さい子供を自分の思い通りに動かして楽しんでいた事実はかわらないでしょう?
多少なりとも罪悪感があれば同情したけど、貴方ひとつも悪いと感じてなかったじゃない」
「それが……むかつくのよ」
「は?」
「みんな、リシェル、リシェル、リシェルって!!
なんであの子ばかり可愛がるわけ!!
私は可愛がってなんてもらえなかったのに!!!」
ああ、そうか。
リンゼは幼い時の自分と比較していたのか。
「てか、お嬢様の年齢くらいのときは、あんただって可愛がってもらってたんじゃないの?」
私の記憶ではまだその頃は、金持ちでチヤホヤされていたはずだけど。
「与えられたのはお金だけ!!!
私は愛情なんてひとつももらえなかった!!」
と、拗ねらせた事を言う。
んーー。私の知ってるリンゼの記憶では、周りはかなりヨイショしている。
あまりお嬢様と環境は変わらないように見える。
それを言うなら周りに嘘つきリンゼやらセバスがいたお嬢様だって環境は変わらないはずだ。
あれか。自分は悲劇のヒロインと思い込むタイプなのだろうか。
「あんた本当性格悪い」
私がジト目で言えば。
「ええ、そうよ!!どうせ性格が悪いわよ!!
みんな消えてしまえばいいんだわ!!
あんただけ幸せになるなんて絶対許さない!!
私の体であんただけ幸せになるなんて、絶対許さないんだから。
貴方の大事な者を全部奪ってやる――」
そこで――私は身体を乗っ取られるのだった。
■□■
ああ、何で身体の主導権が常に自分にあると思い込んでいたのだろう。
異世界転移の乗っ取りだから、身体の主導権は私にあると思い込んでいた。
本当に馬鹿だ。
意識はあるのに身体を動かすのは本当のリンゼで私じゃない。
きっとリンゼはマルクを殺すつもりだ。
そして私に身体を戻せばーー命が助かる事も計算した上で。
私の手には毒針が潜ませてある。
マルクが少しでも隙を見せれば毒針で殺るつもりだ。
なんとか、身体の主導権を取り戻さないと。
「私もです。貴方の事を愛しています」
言って、マルクの手が私の背に廻る。
まてぇ!!マルク!!お前そういうキャラじゃないだろう!!
私に抱きついたら最後、首に手を回されて毒針でやられるから!!
やばいやばいやばい!!
身体を取り戻さないと!!
鬼畜が死ぬ!!
動け身体!!お願い動いて!!!!
今にもいい雰囲気になりそうなリンゼとマルクを見つめ、私は必死にもがく。
どうしよう。自分のせいで鬼畜が死ぬなんて絶対嫌だ。
なんだかんだ、口ではネチネチ責めてきたけど。
結局は最後は私を信用してくれたから、事件だって解決できた。
鬼畜がいなかったら、私は何もできなかっただろう。
あんな胡散臭い話を信用してくれて。
私に手を差し伸べてくれた。
ああ、お嬢様の時と一緒だ。
結局鬼畜は人がいい。
自分の元にくるものを拒まずきちんと話を聞いてくれる度量がある。
彼が受け入れてくれたから、全てが解決して。
彼が受け入れてくれたから、こうして今の自分があるのに。
不可抗力とはいえ、私のせいでマルクが死ぬの?
お願い。やめて。動いて身体!!!!!
私が必死にもがいた瞬間。
どすんっ!!!
と、鈍い何かの感覚に、私は倒れ込んだ。
「え?」
状況がわからず私が視線を外に戻せば
いつの間にか。私の身体は魔法で束縛されている。
「なっ!?」
本物のリンゼが魔法で束縛されて驚きの声をあげた。
「で、貴方は誰ですか?」
言って微笑む鬼畜の顔は……いつもの鬼畜度を10倍増しにした怖い笑みだった。
うん、やっぱり流石鬼畜だわ。
私は心の中で安堵のため息をつくのだった。
誤字脱字報告&ポイント&ブクマありがとうございましたー!!!
そして自分の中で当たり前すぎてハッピーエンドタグをつけ忘れてたのでつけました><
〜どうでもいいキャラ同士の会話(ギャグ風)(苦手な人は気を付けてください)〜
グエン「皆、無能扱いするが、雇っていたものが薬漬けにされ買収されたのだから、気づかないのも仕方がなかったと思うのだが(´・ω・`)」
マルク「はいぃ?」
リンゼ「言い訳ですね」
ジャミル「言い訳だな」
グエン「(;ω;)ウッ」











