30話 婚約の儀
カーン。
カーン。
カーン。
盛大に鐘がなる。
王都の外れに位置する大きな教会で。
リシェルとロゼルトの婚約の儀が開かれていた。
婚約の儀には、ラムディティア家とカーシェント家の貴族達が一同に介している。
「リシェル・ラル・ラムディティア。
貴方はここにいるロゼルト・エル・カーシェントを
病めるときも、健やかなる時も。
富める時も、貧しき時も、
婚約者として愛し、敬い、
慈しむ事を誓いますか?」
豪華な壁画の前で。
エクシスがかつて初代聖女ソニアが伝えたとされる誓いの言葉を述べた。
リシェルの手には、ロゼルトに貰った誓いの指輪が輝いている。
「はい、誓います」
ロゼルトの顔を見ながらリシェルは微笑んだ。
まだ若い二人の門出にエクシスは微笑む。
こうして何ども幼い子供達の婚約の儀に立ち会っているがやはり心安らぐものがある。
この若い二人が末永く幸せに暮らせるように。
エクシスが心の中で呟いたその瞬間。
けたたましい爆音が響いた。
「なっ!???」
エクシスが慌ててまだ若い青年と少女を庇うようにマントを広げる。
エクシスに追随してきた神兵達も一斉に構えた。
響く怒号と悲鳴。
厳粛なはずの神殿でいきなりの襲撃で会場がパニックになる。
が。
景色が一転して白黒化し、周りから人ごみが消えた。
エクシスと若い婚約したての二人の貴族を除いて人がいなくなったのだ。
「これは、空間術」
エクシスが声をあげれば
「ど、どうなっているのでしょう、エクシス様」
「これは一体」
リシェルとロゼルトもエクシスの側に近寄り不安そうに当たりを見回した。
「わかりません。まさか神事の最中襲ってくるなど」
エクシスが結界を張り、二人を守るようにマントの中に隠す。
理由はわからない。
だが敵襲だということだけはわかる。
一体誰を狙ってきたというのだろうか?
恐らくこの貴族の少女と少年ではないはずである。
このように神殿の行事の時に、襲えば神殿すら敵にまわす。
国家よりも強大な勢力をもつ神殿を敵にまわすということは、死をも意味する。
それだけ神殿は、敵とみなしたものには容赦ない。
小国の貴族二人を殺すために、わざわざ神殿行事中に襲うのはありえない。
……狙いは私か?
だとすると、自分はこの二人を巻き込んでしまったのだろうか。
咄嗟に庇ってしまったが、そのせいでロゼルトとリシェルの二人も空間術の中に巻き込んでしまったのかもしれない。
申し訳なく思うが今は謝っている状況ではない。
この状況を打破して二人をなんとしても無事送り届けないと。
「二人とも離れないでください。この結界の中なら敵も攻撃はできません。
ここは神殿内です。すぐに援軍がきます」
「はい。わかりました」
「リシェル俺の側に」
言ってロゼルトがリシェルを自分の隣に手を引っ張る。
そして次の瞬間。
ニョキと気味の悪い音が響く。
地面から黒い何かが伸びてきて、人の身体を形どりはじめた。
「こ、これは!?」
「ドームという魔物です。結界は破れないはずです。
下手に倒そうとすれば結界を解く事になります、ここは無視して援軍を待ちましょう」
言ってエクシスは結界の力を強めた。
空間術の中で動くのはかえって危険だ。
この術は、現実世界と、精神世界の間に仮初の世界をつくり、そこに隔離してしまう術である。
術者には空間内で起こっていることは全て把握されていると思ったほうがいい。
神殿の者達が、駆けつけて術者を倒してくれるのを待ったほうが懸命だろう。
がしんっがしんっ!!!
黒い人型のような何かが結界を叩く。
「ロゼルト……」
「大丈夫。エクシスの結界がある」
幼い少年少女は不安を打ち消すかのように二人で寄り添っていた。
「大丈夫です。すぐ援軍が」
エクシスが二人を慰めたその時
ザッシュ!!!!
黒い何かが剣で切り裂かれるのだった。
■□■
「大丈夫ですか!!エクシス様!!!」
言って現れたのはエクシスの側近達だった。
「ミュール!これは一体どういう事でしょうか?」
援軍が来たことにエクシスはほっとする。
「エクシス様?」
リシェルが不安そうにエクシスを見るが
「安心してください。彼らは私の部下です」
「どうやら反教会団体の襲撃だったようです。
すでにこちらで制圧しました」
言ってミュールが神殿特有の挨拶のポーズをする。
「そうですか。もう大丈夫ですよ。二人とも」
エクシスがバリアを解こうとしたそのとき。
「待ってください。エクシス様」
「え?」
リシェルに止められてエクシスはバリアを解くのをやめる。
「なぜ、敵を制圧したのに空間魔法が解けていないのでしょう?」
「……!?」
エクシスが慌てて顔を上げれば
「まったく小賢しい」
ミュールが軽く舌打ちした。
「……どういう事ですか?」
「貴方にはここで死んでいただきます。そちらの少女はこちらで貰い受けます」
言ってエクシスの側近だった4人が構えた。
「まさか、貴方たち四人がこの事件を起こしたと!?」
エクシスがバリアの力を強めればミュールがうすら笑いを浮かべ
「今更気づいても遅いのですよ。貴方には死んでいただきます」
「何故ですか!?なぜあなたが裏切……」
「それは言えません……が、貴方は用済みということですよ」
言って、かつてエクシスの部下だった4人が結界を解くべく構える。
エクシスも魔力は強い……が、四人相手に結界を解く術をかけられて、耐え切れる自信はなかった。
それでも――ミュールの言葉では、ミュール達はこの少女も狙っている。
なんとか自分が持ちこたえないと。
エクシスがさらに結界に力をこめた瞬間。
「「聖女への忠誠を!!!!」」
一斉にエルフの騎士が現れ、ミュール達を捕縛した。
驚くミュール達。
「罠にかかったのはそちらですよ」
そう言って、ニヤリと微笑んだのは……リシェルだった。
「リシェル様?」
エクシスが驚きの声をあげれば、リシェルの姿が若い女性の姿に変わる。
そう――ラオスがもっていた変化の魔道具を使ったリンゼだったのである。
「これは一体………」
エクシスが驚きの声をあげれば。
「さて、貴公の聖女に対する忠誠を示してもらおうか」
と、エクシスの前にエルフの里の長。クリフォス・ラル・サウスヘルブが現れるのだった。
誤字脱字報告&ポイント&ブクマ本当にありがとうございました!!
いつもありがとうございますー!!
おかげさまで最終話まで書き終わりました!!
35話で完結+エピローグ予定です!











