29話 似合わない
「意外と可愛いところもあるんだな」
散々泣きじゃくって落ち着いたところで……ジャミルに茶化された。
五月蝿い。五月蝿い。五月蝿い。
「今まで生死のやり取りなんてしたことのない平和な世界にいたんですよ!?
あんな殺されるかもしれない状況、怖くないわけないじゃないですか!!」
「それなのに、考えなしに友のために突っ込んで行くところが貴方らしいと思いますよ」
隣に立っていた鬼畜にニッコリ突っ込まれる。
「うーるーさーい。そうやって人をからかわないっ!!」
ああ、もう穴があったら入りたい。
絶対この鬼畜とジャミルはずっとこのネタで私をからかうはず。
あーもう。一番見せちゃいけない相手に弱みを見せてしまった。
私がめそめそしていれば
「ふざけてませんよ。
お嬢様といい、今回のメイドの件といい。
貴方が命をかけてまで守ろうとする所は素直に凄い事だと思います」
真顔で言われて、私は思わず顔が赤くなる。
ちょ!?何で鬼畜がイケメンモードに入ってるかな!?
君は鬼畜でそういうキャラじゃないはずだ!?
「え、いや、別にそんな……」
私が慌てて反論すれば
「はいはい。いちゃつくなら後にしてくれ。
とりあえずこっちはさっさと仕事をすませるぞ」
と、ラオスをジャミルが担ぐ。
「いちゃついてなんかなーい!!!」
私の声が辺に響くのだった。
■□■
事態は……たぶんいい方向に進んだと思う。
私はぼけーっと鬼畜が用意してくれた館で、何故かメイド付きという高待遇で過ごしていた。
騎士団長のラオスを捕まえた事で。
かなり全容があきらかになったらしい。
そもそも……本物のラオスは死んでいたっぽい。
ラオスは元々グエン様と幼少期に『血の誓い』を誓っていた。
だからこそグエン様も疑う事もなかったのだが。
ラオスが偽物だったことで血の誓いも効果がなかったわけで。
姿を魔道具で変え、魔力の質も偽装できるようなのは神の使徒レベルでなければいない。
「思っていたより……ずっと大物が釣れそうです」
今までの事情を説明しにきたマルクがお茶を飲みながら私に語る。
「大物?」
「はい。まだ不確定なので口には出せませんが……」
「例えば帝国皇帝とか神殿の大神官とか?」
私が冗談まじりに言えば、かえってきたのは無言の笑みだった。
大体鬼畜のこの笑いの時は肯定のときである。
ええええ!?まじで!?
「な、なんでまたそんな事を?」
「偽聖女をランディリウムに押し付けて、本物の聖女を囲いたかった等、考えるべきことはあります。
ですが……それだと、貴方の記憶でリシェルお嬢様が殺されてしまったことに説明がつかない。
それだけの大物が本格的に関わっていたのなら、お嬢様が殺される前に誘拐するくらい容易かったはず。
真相はもしかしたら……」
「もしかしたら?」
マルクがお茶を飲んだあと息をつき
「とてもくだらない理由なのかもしれません」
「は?」
「必死に考えました。
貴方の話と。現在得た情報。誰が利益を得、誰が損をするのか。
ですが、将来リシェルお嬢様は殺される。
利益を得るはずの人物が、それを放っておくわけがない。
こんな大掛かりな事を何年も前からしていてですよ?
それだけのことをしているのに、お嬢様が殺されている。意味がわかりません。
聖女を殺し、世界の滅亡を望んでというのなら、騎士団長ならいつでも殺せたはずです。
ですがそれすらしていない。
本当に意味がわかりません」
マルクがらしくなくガシガシと頭をかく。
うん。マジでわからないらしい。
「神器の魔族が関わっているということはありませんか?」
マルクが救いを求めるような目で見てくるので私は思わず吹き出しそうになる。
「……何か?」
「あー、いえ、何でもありません。
貴方でもわからないとテンパる時があるんだなぁと」
言われて、鬼畜は少し顔を赤くして。
「貴方は本当にいつも一言多いですね」
と、いつもの鬼畜スマイルを浮かべた。
「……はい。なんだかすみません」
にしても魔族かぁ。
なんか最後あっさり、リシェルお嬢様に騙されて、封印されちゃった記憶しかないんだけど。
三流悪役みたいでそこまで考えてるような、魔族じゃなかったと思う。
魔族の独白もラストにあったけど、そんな高度な事を考えている頭のいい魔族じゃなかった。
マジやられ役で出てきましたー☆
という、web小説によくあるやられるためだけに出てきた三流悪役だ。
この物語を考えていた作者がそこまですごい悪役を用意していたとは思えない。
私がそれを説明すれば
「魔族でもない……ですか。
いや、ですが一度封印をとかせる事に意味があったとしたら?
逆行させることにより別の魔族が得をするなどという理由があるのかもしれません」
ブツブツ深刻な顔で考えるマルク。
マルクがお嬢様の事を「バカの考えはわからない」と言っていたがマルクもその傾向があるような気がする。
こんなに手の込んだ事をしていたのだから、何か凄い裏があるはずだと、決めてかかっている。
まぁ実際そうなのかもしれないけれど。
なんだか前進したようで実は後退しているのだろうか。
「エクシス様には話したのでしょうか?」
「いえ、まだです」
言ってマルクはため息をつく。
「とにかく、貴方はゆっくりしていてください。
あとは私たちで何とかします」
言って鬼畜が立ち上がる。
「………」
「何ですか、その顔は」
鬼畜が優しい言葉をかけた!?という驚きが隠す事なく顔に出てしまったらしい。
「いえ、あなたの事だから次を手伝えというのかと」
私が言えば、鬼畜は大きくため息をつき、
「私は本来の貴方が一般の女性という事を忘れていました。
危険な目に合わせてしまった事を謝ります。
既にグエン様もこちら側で動ける以上、貴方に危険な事はさせられません」
言って微笑む。
「………マルク様」
「はい?」
「優しい言葉が物凄く似合いません!!!」
しばしの間。
「そういう事は思うだけにしておいてください」
いつもの威圧的なスマイルで微笑まれ、やっぱりこの人はこれだな、と私は安心するのだった。
誤字脱字報告&ポイント&ブクマ本当にありがとうございましたー!!多謝です>人<)











