3話 よくあるチート
指紋チート。
そうweb小説の推理もので最初によくやるのがこれである。
リンゼの薬を隠す魔道具は素手で魔道具に触れて呪文を唱えければ開かない隠し金庫だ。
つまり薬を補充している人物も手袋なし魔道具に触れているわけで。
手のひら全部を触れないといけないので手の形がばっちりわかる。
こちらの世界には指紋捜査などというものは確立されていないので警戒すらされないはず。
ここでWeb小説ならおなじみファンデーションやら小麦粉なのだが……。
この世界もっと便利な魔法の粉がある。
まぁリンゼがそういった方面の知識が豊富だからこそ知っていることなのだけれど。
どうもリンゼの知識もきちんと継承しているらしく、私は薬に異様に詳しい。
皮脂の油に反応して光る魔法の粉があったりするのだ。
これは人間に使うというよりも主に魔物の足あとなどを追跡するために開発された魔法の粉だ。
この粉が凄いことは平らな所じゃなくても足型が取れるという便利グッズ。
なぜこんな便利なものがあって指紋捜査が発展してないのかは謎なのだけれど。
私の世界でも指紋が一人一人違って証拠能力があると発見されたのは江戸時代だったらしいから、おかしくないのかな?
とにかくその魔法の粉をふりかけて形をとり、そのまま紙を貼り付けて転写する。
早速自分で試してみればばっちり自分の手形がとれた。
これで毎日魔道具を磨いて、手形をとればそのうち犯人の手形もとれるだろう。
物語が動きだすのはかなり先。
お嬢様が10歳になってからだ。
現在8歳だからまだしばらく余裕があるはずだ。
一番近いイベントは、この領地が他国から侵略をうけるはずだが、それも4年後のはず。
それなりに余裕はある。
薬の補充は一週間~二週間に一回だから半年くらいは、指紋採取に全力を注ぎたい。
内部にいる人物がひとりとは限らないのだ。
何人いるかも一応把握しないと。
ただ問題は、この指紋をとっておいた紙を一体どこに隠すかだ。
部屋に入ってこれたということは確実にこの部屋は家探しされる可能性が高いわけで。
マジックアイテムで見かけよりずっとアイテムの入るバッグはあるけど庶民が手をだせる金額じゃない。
ここのメイドのお給金は高いほうだけれど、それでも手が届く値段じゃない。
毎日自分で持ち歩くのが一番だろう。
私はいそいそと服に隠しポケットを作り出すのだった。
■□■
「旦那様。お茶をお持ちしました」
深夜になり帰ってきたこの家の当主であるリシェルの父グエンにお茶をだす。
帰宅したらリンゼがお茶をいれて菓子でもてなすのは慣例となっていた。
旦那様にお茶とお菓子を差し出せば、「うむ、ご苦労」とナチュラルに鑑定スキルを発動する。
スキルを発動すれば光り、鑑定結果が表示されるので私からもまるわかりなのだ。
私がだす食事も欠かさず鑑定スキルを発動するあたり、この世界毒殺の多い世界なのだろうか。
にしても鑑定スキルあるしな。
癖かなにかなのかもしれない。
まぁ、リンゼの毒は二つの食べ物を食べてやっと発動する毒のため鑑定スキルスルーするんですけどね。
もちろん。暗殺者ギルドに指示され入れていた毒はお茶に入れていない。
グエンとリシェルが飲まされていた毒は二種類。
それを食べ続けると依存してしまう麻薬のような物質。
もう一つは長期間摂取すると精神が不安定になり魔法とギフトを無効にしてしまう毒のこの二種類だ。
麻薬の成分のある毒は、摂取をやめると禁断症状がでてきてしまうため、量を減らして入れてはいるが、魔法とギフトが無効になる毒は抜いてある。
もちろんお嬢様の分も。
毒の粉末は使わないでこっそりとお菓子をつくり、こねた破棄する材料にまぜて捨てている。
減らさないと怪しまれるし。
にしても、旦那様は家を空けることが多い。
つまり、家にいないことが多く、リンゼはグエンに同行していないのだ。
その間は別の人物が毒をもっているわけで……。
グエンに毒を飲ませる事ができるということは、かなりグエンに近い人物がリンゼを操っている黒幕という事になる。
これはなかなか辛いものがあるな。
下手に旦那様にお嬢様を狙ってる人がいますなどと言えば、その黒幕に話がいってしまい私の首が飛ぶのは確実で。
誰が黒幕かある程度目星はつけておかないといけない。
なんとかこの状況を打破しないと。
お茶を煎れて、そのまま一礼して部屋をでる。
それがいつもの事だから。
そして部屋の外に控える旦那様の護衛騎士二人にも挨拶をして私は部屋をあとにした。
旦那様の護衛騎士のグランゼとラルシル。茶髪と赤髪の好青年風の男性二人だ。
この二人も要注意人物と思ったほうがいいだろう。
とりあえず自分とお嬢様以外の人物は全て疑ってかからないといけない。
さて、今日の一仕事は終わった。
あとは……。
私はるんるんでお嬢様が寝ているか確認にいく。
これも私の仕事だから。
決して可愛い寝顔を堪能しに行くわけではない。うん断じて。