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24話 刺繍

「リンゼ、この部分はどうやるのでしょうか?」


 屋敷で、ロゼルトのマントに刺繍を縫いながらリシェルお嬢様が尋ねてきた。

 流石毎日習っていただけあって10歳なのに、日本人だったころの私より全然上手い。


 あれから、ロゼルトとの婚約の話を進めるためにお嬢様は舞踏会への出席をとりやめ領地に戻ってきた。

 書類の関係上、婚約はまだ正式には決まってはいないが、婚約が決まってから作っていたのでは間に合わない!とお嬢様は一生懸命ロゼルトのマントに刺繍を施している。

 旦那様もロゼルトの両親も同意してるので、手続きが終わればすぐに婚約の儀になるだろう。

 私はお嬢様の刺繍を手伝ったり、相変わらず偽の愛を囁きにくる鬼畜に魔法を習ったりと忙しい生活を送っている。


 鬼畜は相変わらず鬼畜なので、修行はきつい。

 なのでこうしてお嬢様と過ごせる時間は心休まる時間であるわけで。

 お嬢様の一生懸命刺繍を縫う姿に私はニコニコ顔になる。

 二人きりの時間は至福の時だ。

 まぁシークはいつもいるけど空気だし。

 ほくほくと私はお嬢様との時間を楽しむ。


「ここはこうやるんですよ」


 と、リンゼの知識で教えてあげれば


「はい!ありがとうございます!」


 と、にっこり微笑んでまた刺繍する作業に戻る。


「お嬢様は本当に嬉しそうですね」


「はい。嬉しいです!ロゼルトに喜んでもらえるでしょうか」


 言って嬉しそうにマントの刺繍を見つめるお嬢様マジ可愛い。

 こういう隠さない所が可愛いなぁと思いながら私はにっこり微笑む。


 素直に全力で愛情表現できるというのは素晴らしいことだと思う。

 私には絶対ない要素だわ。

 私が男の立場だったらメロメロになる自信がある。

 まぁ、それが重いという男もいるだろうけれど。

 ロゼルト君なら大丈夫だろう。きっと幸せにしてくれるはずだ。


 と、何故か旦那様を差し置いてお父さん気分になる私。


 ……それにしても。


「ところでお嬢様」


「はい?」


「プロポーズのお言葉をお聞きしても宜しいでしょうか?」


「そ、それはだめです!?

 リンゼでも教えられません」


 と、顔を真っ赤にして顔を伏せた。

 横でシークも視線を逸らしたところをみるとかなり臭い台詞だったのだろうか。


 やばい。聞きたい。マジ聞きたかった。

 

 ち、シークは護衛だからきっと聞いてるんだろうな。


 私も一緒に聞きたかったのに。


「それなら仕方ありません。

 それにしても楽しみですね。婚約の儀」


 ニコニコとお茶を出しながらいえば、リシェルお嬢様が嬉しそうに顔を輝かせた。


「はい!王都でやるとお父様が言っていました!

 エクシス様が担当してくれるそうです!

 リンゼももちろん一緒に来てくれますよね?」


「ええ、もちろ……」


 私が答えようとしたその時。


「いえ、リンゼは今回出席できないかもしれません」


 と、シークがメイドから受け取った手紙を差し出すのだった。


 ■□■


「リンゼの家族が病気?」


「はい。申し訳ありませんお嬢様。

 少しの間お暇をいただいて家に戻ります」


「それなら仕方ありませんね……

 私の事など気にせず大事にしてあげてください。

 お父様に頼んで腕のいい治療師をお願いしましょう」


 お嬢様が寂しそうに微笑む。


 勿論リンゼの実家など本当はもうなくなっているのだが。

 お嬢様が知るはずもないので嘘をつくことにする。


 私が王都に行かないのはもちろん作戦だ。


 これから先はお嬢様は旦那様とシークで守り、私とマルクとジャミルはラムディティア領に残る。


 そして屋敷の中にいる黒幕を暴く事になる。

 私を餌にして。


 薬を飲ませるはずの私がグエン様直々に専属メイドから外され、屋敷の一角へと幽閉される。

 そして、神官エクシスが婚約の儀を行おうということになれば、敵も動かざるを得ないだろう。


 なぜなら薬を飲ませなければ神殿の聖女の石が反応してしまう。

 そしてリンゼが薬を飲ませていたのが旦那様にバレているとなれば――聖女を貶めようとしたとして神殿が動き出す。

 王子派の悪行もバレてしまうかもしれない。

 自分たちが関わった証拠を消しにかかるはず。


 そう――命を狙われるのは私とセバス。

 そして館にいる密偵20人。

 それらを全員餌にして犯人をあぶりだすのだ。


 あまり気乗りはしないが、時間を考えると文句は言っていられないだろう。

 イフリートの奇襲が来る前に内部の敵を一掃しておかないと。


 念のため、旦那様が不在の時にラムディティア領に何かないか見張るためにマルクの私兵が国境を見張っている。


「婚約の儀までには必ず王都に行きます。

 刺繍が得意な侍女も呼んでありますから。

 婚約の儀楽しみにしていますね」


 私が手を取り微笑めば、お嬢様も微笑んだ。


「はい!リンゼが驚くくらい素敵なマントに仕上げてみせます!」


 と、熱意のこもった視線で頷く。


「はい、楽しみにしてますね」


 私も絶対生きて戻らないと。

 お嬢様の笑顔を見ながら私は心に誓うのだった。

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