20話 精神的勝利
「なるほど。婚約ですか」
マルクさんの家で。私はマルクさんに相談に来ていた。
鬼畜は優雅にティーカップを置きながら尋ねてくる。
「はい。グエン様なら私からお話しすれば恐らく許可していただけると思います。
血筋も性格も問題ありませんし、ロゼルトの爵位なら婿となるのが一般的。
お嬢様を長く手元に置いておくことができます。親馬鹿の旦那様なら喜ぶでしょう。
旦那様が反対する理由が見当たりません」
「若干旦那様の評価に気になる所はありますが。
まぁおおむねその通りでしょう。
問題は……飛翔の翼が許すかどうかですが。
今貴方に行動を起こすように指示はあるのでしょうか?」
「いえ、特にありません。
セバスもお嬢様とロゼルトが仲がいいのは知っています。
もしこれが不都合な事だったら既に何かしら指示があると思うのですが」
「貴方の知る未来でも、違う御子息と婚約していたはずですね。
彼ら的には現時点の婚約は問題視していないということでしょうか」
「そうですね。むしろ婚約者がいたほうが王子がリシェルお嬢様を毛嫌いする原因になりますから。
マリアを正妻にするため好都合と思っているのかもしれません」
私がお茶を飲みつついえば、鬼畜の目がまた光る。
……。
やばい。これはまた尋問のはじまる前触れだ。
そういえば王子が毛嫌いする理由は話してなかったかもしれない。
「さて、今まであなたの言っていたことは全て本当でした。
紅蓮の炎を離脱したジャミル達も既にこちら側の手駒として手に入れてます。
今更貴方の事を疑う理由はありません。
ですので洗いざらい話すなら今のうちですよ?」
と、鬼畜がにっこり微笑むのだった。
■□■
「では貴方は予知能力をもつ異世界人ではなく
小説としてこの世界の顛末を読んだ異世界人ということでしょうか?」
鬼畜がいままでにないポカンとした表情で聞いてくる。
ふっ。尋問する前に話してあげましたとも。
鬼畜の今までしたことのないようなポカンとした表情に勝った!!と何故か勝ち誇る私。
尋問怖いから先にバラしたわけではない。そう断じて。
「そうなります。
そんな事流石に言えるわけがないでしょう?」
私の言葉に鬼畜はふむと頷いて
「なるほど。わかりました。それなら納得出来ることも多々あります。
考えを整理する時間はいただきたいですが……」
「とにかくそれなら特に問題はないのでしょう。
彼らの家が両方伯爵家であまり発言権がないところから別れさせるには問題ないと見ているのかもしれません。
現に、貴方の知る物語でもお嬢様が相手にされなかった理由が先に男性がいたから、という理由なら婚約したほうがいいと踏んでいるのかもしれませんね」
「では、早速話を進めてきます」
「そうですね。あまり時間もないことですし」
と、お茶を飲みつつ言う鬼畜。
「時間がない?」
私が聞き返せば。
「イフリートによる奇襲の件です。
忘れていたでしょう?」
と、答えられた。
……忘れてました。
「その奇襲。
本当に偶然だったのでしょうか?」
「え?」
「本当は内から手引きしていた者がいたのでは?」
マルクさんの発言に私は思わず顔を青くする。
確かに、物語は後半は急展開でそういった事にまったく触れる事なく打ち切りかよ!というペースで終わってしまった。
作中で触れられていなかっただけで……セバス達が手引きしていれていたのかもしれない。
うちの領地の発言力を落とさなければいくら王族といえどずっとお嬢様を城に拘束しておくことなどできない。
領地の力を弱める必要があったのかも。
「私たちが思っているより時間はないと思ったほうがいいでしょう。
恐らく奇襲に関しては密偵を放置したままグエン様に話せば敵側に筒抜けになると思ったほうがいい。
恐らくセバスの他にも密偵はいるでしょうから」
「ではどうしましょう?」
「それなのですが……貴方はお嬢様のために命をかける覚悟はあるのでしょうか?」
言って微笑む鬼畜の顔は。
菩薩のように穏やかだった。
……絶対ろくでもないことを考えてる。
私は心の中で泣くはめになるのだった。
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