17話閑話:リシェルとロゼルト
「私のせいでごめんなさい」
グエンに経緯を説明し、リシェルの部屋に戻る途中。リシェルはロゼルトに謝った。
平民を守った事により、リシェルとロゼルトはグエンに説教を受ける事になってしまった。
それほど強い言葉で怒られたわけではないが、懇懇となぜ貴族と平民とで立場が違うのかを説明された。
「いや、治療に勝手に加わったのは俺だし気にするなよ」
と、ロゼルトがわざとおどけて笑ってみせる。
結局あの後。
女性の治療を終えてみれば、目を覚ました女性にお礼は言われたが一目散に逃げられた。
治療中も誰一人として手伝おうとする者は現れずみな足早に逃げてしまっていたのだ。
平民にとって貴族がどれほど嫌われている存在だというのはリシェルにもロゼルトにもショックだった。
関われば殺される。
それほどの不条理がまかり通っている現実に眩暈を覚えた。
「にしても、王都は随分平民に嫌われているんだな。
俺の領地はここまでひどくない」
ポリポリと頭をかきながらロゼルトが言えば
「はい。それだけ貴族が横暴を働いているという事でもあるのでしょうね」
と、リシェルも目を逸らす。
魔力の高い貴族がいるからこそ。
王都など魔物が入れないようにする結界等が維持されその国は繁栄し、平民たちも暮らしていける。
貴族が大事にされる理由はわかる。
平民と貴族が争って貴族を裁いていたら、貴族の数が減り国が立ち行かなくなる。
これもわかる。
けれど。
あのように貴族が悪くても一方的に平民が殺されてもいいという現状に納得できないのも事実だった。
世界は理不尽の固まりで。
納得できない事も納得しなければいけないのだろうけれど。
目の前でいまにも消えてなくなりそうな命を、放置していくのが本当に正しいことなのだろうか。
「リシェル」
「はい?」
「その、なんだ。
確かに貴族としてはダメな行動だったけれど。
俺はお前のそういう所は偉いと思う。
これから大人になって、同じような場面で例え見捨てる事になったとしても。
心の中で何も罪悪感を感じないような貴族には俺はなりたくない。
他の誰が批判しても俺はお前の味方だ」
言われてリシェルは思わず顔を赤くした。
同じ歳の青年にこのように言われたのははじめてで、自分でも胸が高鳴ってしまっているのがわかるくらい、心が動揺してしまっている。
もし、本に書いてある恋というものが本当にあるのなら。
この気持ちをいうのだろうか。
「……ロゼルト」
「うん?」
「……その、ありがとうございます」
言って赤くなって俯いた。
これから大人になって。どんなに理不尽と感じても我慢しなければいけない事ばかりになるのだろう。
今回リシェルの行為が許されたのは、リシェルの家の方が相手より強い立場にいただけにすぎない。
貴族社会を批判して貴族の決まりに守られている自分に今回の事を批判する権利なんてきっとない。
それでも。
気持ちまでも封印してしまうのはきっと違う。
「うん。俺こそありがとうな」
微笑んでくれるロゼルトにリシェルも微笑むのだった。
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