15話 事件
「リシェル君も来てたのか」
王立の図書館でお嬢様が神話の本を読み漁っていれば声をかけてきたのはフランツだった。
鬼畜マルクに脅されてからすでに何日か経過している。
今日はお嬢様が借りていた本が読み終わり新しい本を借りにきたところだ。
偶然を装って話しかけてくるフランツに白々しいと思うが、顔には出さず軽く会釈をする。
「はい!フランツも本を読みに?」
「うん。今日はこの本を借りにきたんだ」
「それはラムウ歴の始まりの歴史の本ですね!
私も読んだ事があります」
と、お嬢様とフランツの会話がドンドン盛り上がっていく。
やばい。
このままだと本気でフランツルート突入じゃない。
本来のヒーローのロゼルトは何やってるし!
私が視線だけ動かして探してみるが来ていないようだ。
お友達応援モードで邪魔しないようにしているのだろうか。
フランツに関しては誘惑系のスキルのせいで敵役のマリアといちゃついていた情報しかないのでいい人なのか悪い人なのかよくわからない。
確実に幸せになれるのはロゼルトの方なのだ。
出来る事ならロゼルトとくっつけたいという願望はある。
でも私がお嬢様の人間関係をコントロールしてしまっては、リンゼ達とやってることが変わらなくなってしまう。
どうしようもないジレンマに私は心の中でため息をつくのだった。
■□■
それから何日かすぎ、お嬢様とフランツが仲良くすごし、時々ロゼルトも会話に参加するという関係が続いた。
このままフランツルートか!?と私がやきもきしているとき。事態は動く。
10歳の貴族が皆受けるファルデーネの儀をすませ、仲良くお嬢様、フランツ、ロゼルトで一緒にお嬢様の馬車にのり帰宅途中におきたのである。
私は馬の手綱を握る人の隣に乗り、シークは馬で馬車の隣を併走している。
市民の住む地区の街道を通っていた時だった。
がしゃぁぁぁぁ!!!!
貴族の馬車が暴走し、商品をふみ倒した。
露天の売り場の女性が馬にふっとばされて、倒れ込む。
直撃したのか馬にけられた女性は頭から血を流し、倒れ込んでいた。
ちなみに馬は無傷だ。
サラブレッドのように足が細い馬なのに無傷とか馬頑丈すぎるだろう。
サラブレッドなんてちょっとつまづいただけで骨折するのに
流石Web小説世界の馬はファンタジーと私がよくわからない感想をもっていれば。
「貴様っ!!!よくもうちの馬車に傷をつけたな!!!」
と、馬を引いていた従者が倒れた女性を鞭で叩き出した。
店の中にいた女の人に馬車が突っ込んだのであって謝るなら馬車の方だろう。
それでも。この世界では貴族の方が立場が上。
理不尽なことでも一般市民は耐えなければいけない世界。
可哀相だと思うが私が動けば公爵家の方に迷惑がかかってしまう。
相手の馬車の紋章をみれば王家側ではなく王子派の貴族。
ガルシャの母派の貴族の伯爵家の紋章だ。
揉め事はできるだけおこしたくない。
違うルートを通るように指示しようとしたその瞬間。
「怪我人になんてことをするのですか!?」
と、馬車からでて止めにはいったのは……お嬢様だった。
うん。しまった。
世間知らずのお嬢様に貴族と平民の身分の差を教えるのを忘れていた。
■□■
「一体何の騒ぎだ!!」
相手の馬車からも執事らしき男性がでてくる。
「そ、それが馬車の行く手を阻む平民を折檻していたところにこのお嬢様が」
従者もまさか貴族のお嬢様が割り込んでくるなどとは考えていなかったらしく慌てて執事に告げる。
執事がちらりとお嬢様を観れば、お嬢様は女性を介抱し、シークがその前にどしんと構えていた。
お嬢様に攻撃したらただじゃ置かないぞオーラを全身から発しながら。
「これは……ラムディティア公爵の紋章。
貴様一体何をしているんだ!!!
これはこれは大変申し訳ありませんでした」
執事がシークの着る鎧を確認し慌てて従者を怒鳴りつけ馬車から降りてきた。
その馬車からリシェルお嬢様と同じくらいの10歳の女の子も降りてくる。
って、ここで私がでていかないでいつでていくのだろう。
「お嬢様!!大丈夫ですか!!」
私が慌てて駆け寄れば相手方の執事が頭を下げて、
「お見苦しい所をお見せしてしまって申し訳ありません。
こちらも先を急いでいたため、少々強引な方法をとってしまいました」
執事が言えば
「あれはっ……」
「いえ、お気になさらないでください。
たかが平民風情に時間を割かれるのが惜しかったお気持ちわかります。
こちらこそ、お手間をとらせてしまって申し訳ありません。
お気になさらず。
後ほど正式に謝罪させていただきます」
何か反論しようとしたお嬢様を遮って、私が口を挟んだ。
途端リシェルお嬢様が悲しそうな顔になるが……。
こればかりは仕方ない。
この世界は貴族絶対主義世界。
貴族が戯れに平民を殺しても、仕方ないねーですんでしまう世界なのである。
貴族に仕える使用人・商家などは平民であってもまた扱いがかわってくるが今回は関係ないので割愛する。
「そう言っていただけると有難いです。
こちらこそ進路をふさいでしまったことをお詫び申し上げます。
後ほど正式な謝罪を。
すぐに片付けさせますので」
言って馬車に付き従っていた護衛に片付けるように指示をだし、何ども頭を下げて馬車で去っていった。
なんとかその場は収まった。
私がほっと胸をなでおろしていれば
「リシェル!やめないか!」
ケガをした女性に一生懸命回復魔法をかけていたリシェルお嬢様をとめたのは……フランツだった。
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