13話 マルク
「お久しぶりです。リンゼさん」
言って、王都にある別荘に顔をだしたのは。
マルクさんだった。
舞踏会に着ていくドレスを納品にきたのである。
「わざわざマルク様が届けてくれたのでしょうか?」
「はい。こちらに所要がありましたので」
言って微笑むマルクさんは……作中では触れられてなかったがなかなかのイケメンだ。
オールバックのいかにもやり手商人という顔立ちではある。
「お嬢様がおての空いている時にでも、ご試着いただけると幸いです」
言って従者っぽい男の人が綺麗な箱に納品されたドレスを持ってくる。
「はい。わかりました……あ、マルク様」
「はい?」
「今日でなくても構わないのですが、いつかお時間をとっていただきたいのですが。
できれば王都にいるときにでも」
私が言えばマルクさんは笑みを深くして微笑んだ。
■□■
絶対あれは見透かされてる。
お嬢様が授業を受けている間、ドレスを仕舞い私はため息をついた。
あの人は頭のいい設定だ。
中身がかわったのを見抜かれてしていそうで怖い。
でも、こちらも黒幕を突き止めたはいいがそれ以上は進めずにいる。
執事のセバスが敵だった。もう誰を頼っていいのかわからないし、下手に素人がカマなどかければすぐ殺される。
頼れるとしたら作中で味方だったマルクさんくらいしかいない。
100%味方であるのがわかっているのがマルクさんだし。
話す覚悟を決めないと。
今は王都だ。領地内でないので周りのスパイを余り気にしなくてすむ利点もある。
勿論転生者などと話すつもりはないけれど。
さて、どうやって話を進めよう。
■□■
「さて、貴方は本当は何者なのでしょうか?」
マルクさんの屋敷についてから、部屋に通されまっ先に聞かれたのがそれだった。
窓際で紅茶をもったまま優雅に微笑んでいる。
が、位置取りが絶妙だ。
逃げられる準備もしつつ壁にかけてある剣が手に届く範囲。
こちらが攻撃したら逃げられる準備もしているのだろう。
あのティーカップがミスリル製で攻撃も受け止められるとかいっても私は驚かない。
……うん。やばい。いきなりバレてる。
お茶を手にしつつ私は冷や汗をうかべた。
確かにこの人は有能設定だったと思う。
エクシスとかいう神官がでてきてからは後半空気で出て来なかったけど。
「何の事でしょう?」
「私は、常にこの人ならどのような行動パターンをするだろうと先読みする癖がありまして」
「はい?」
「貴方はある時を境にその行動パターンががらりと変わりました」
「おっしゃっている意味がよくわかりません」
「そうですね。
こちらも手の内を明かすような事はしたくはありませんが」
言っていきなり間近に迫られ剣を抜きつきつけられる。
私はそれを隠していたダガーで受け止めた。
ちょっと!!!
あぶないしっ!!!!
何するかなこの人!?
「この攻撃はたかがメイド如きでは反応できないはずです。
それなのに対応できた。それが何を意味するのかわかりますか?」
「そ、それは……」
「今の貴方は『そちらの人間』というのを隠すのをお嬢様の前では怠っているところがあります。
お嬢様に接する態度も以前とはかなり違う。
そして私に対する態度もある時からガラリと変わった。
一体どういう心境の変化なのか。
教えていただけると嬉しいですが」
言って微笑むが。
瞳からは明らかに答え次第では容赦しないと物語っている。
「そのような理由でこのような事を?」
「おや、気づいていないと思いましたか。
申し訳ありませんが、貴方がお嬢様の菓子を作成時に捨てていた材料を鑑定させていただきました。
もうこれ以上は言わなくてもわかりますよね?」
言うマルクさんの目は、マジお前殺すぞ?と言わんばかりに冷たい。
うかつだった。
まさかリンゼの暗殺者ギルドの他に、マルクさんの密偵まで紛れてんのあの屋敷。
確かにあの毒の粉は火を入れないと鑑定で毒と出てしまう。
その状態で捨てていたのは私のミスと言っていい。
に、してもちょっと警備ザルすぎない?
密偵入りたい放題じゃない。やばいよ公爵家。
当主のグエン様を小一時間説教したい。
「公爵家のメイドにそのようなことをして、ただですむとお思いで?」
「生憎ここは王都です。どうとでも理由はつけられます。
こちらを見くびらないでいただきたい。
抵抗しても無駄ですよ?
既に部屋の外にも窓の外にも全てに警備の者を待機させています。
ああ、先日面白い薬を手に入れました。
貴方なら何の薬かもおわかりでしょう?」
言って微笑む。
それ絶対飲まされると自白したあと発狂して死ぬとかいう薬ですよね。
怖い怖い。この人怖い。
あーーー。どうしよう。
下手に嘘ついたらそこはおかしいとか絶対つっこんでくる。
そういうキャラなのだろう。
作中ではリシェルには友好度マックスだったから優しそうないい人キャラに見えたけれど。
マジ容赦なさすぎる。
私はトホホと泣きたい気持ちを抑えるのだった。