12話 応援モード
「フランツは詳しいのですね!」
ロゼルトの館について、一通り挨拶を終えたあと、やっぱりというか何というかロゼルトとその妹はフランツ応援モードに入ってしまい、フランツが一生懸命リシェルお嬢様に遺跡から見つかった魔道具についての説明をしている。
そしてその様子を後ろから私とシークが黒いオーラを放ちつつ見ている格好だ。
フランツなんてお嬢様の気を引くために興味もない神話の話をしているだけですから!!!
と、訴えてもよかったのだけれど……それをやると私が身体を乗っ取る前のリンゼとやってることが同じようで出来なかった。
自分の都合のいい相手以外とは付き合わせない。
手のひらで都合良く踊っている悲しい人形。
それではダメ。お嬢様が見るもの付き合うものを制限しすぎるのは。
やってることがリンゼと変わらなくなってしまう。
「この遺跡はラムウ前歴に作られたもので……」
フランツの説明にお嬢様が嬉しそうに聞き入っている。
っていうか。フランツもお嬢様が好きだからかなり前知識を身につけるのを頑張ったのはわかる。
あれだけスラスラ言えるということは、かなり猛勉強したのだろう。
ロゼルトの件がなければ、普通にいい子だなーと微笑ましい光景ではある。
けれど!解せないのはそれをニコニコ顔でみてるロゼルト!!
ちょ!?何応援モードに入ってるんだ!未来の嫁なのに!
私が理不尽な怒りを込めた目でロゼルトを見れば、ニコニコしながら冷や汗をかいている。
どうやらこちらの殺気は感じ取ってくれてるらしい。
「フランツそろそろリシェルお嬢様も帰る時間なんじゃないのか」
と、どうやらはやく帰らせろと勘違いしたらしく、ロゼルトが冷や汗をかきつつフランツにツッコミをいれた。
「あ、ああ、ごめん。
楽しかったからつい」
フランツが言えばお嬢様もにっこり微笑んで
「はい。私も楽しかったです。ありがとうございます」
と、天使の笑をうかべた。
うん。お嬢様天使マジ天使。
「ロゼルトもサルシャもお招きありがとうございました」
いって、お嬢様がちょこんとドレスの端をもっておじぎをすれば
「また遊びに来てくださいね」「待ってます」
と、ロゼルトの妹サルシャとロゼルトが微笑む。
初めての同年代の子供たちの遊びはリシェルお嬢様は嬉しかったようだ。
……本来なら。
お嬢様に同年代の友達をつくってあげるのは周りの大人の仕事だった。
けれどグエン様はそういった知識はまったくなく、母親は死別。
側に仕えるメイドと家を取り仕切る執事が敵側なのだからわざと友達も作らせなかったのかもしれない。
リンゼは仕方ないにしても。
何故執事まで敵側なのだろう。
彼はグエンの父の代から仕えていて誰もその忠誠を疑っていない。
公爵家を裏切ってまでマリアの実家の伯爵家?だか身分の低い家に裏切る意味がわからない。
考えられるのは……人質か麻薬か借金漬けにでもされたか。
はたまたマリアの家のバックにエクシスと対立している神殿関係者が潜んでいるかだろうか。
別れを名残おしそうにするお嬢様を見つめ私は思うのだった。
■□■
「リンゼ、サルシャとフランツとロゼルトとお手紙のやりとりをする事になりました!」
お嬢様が帰りの馬車で嬉しそうに報告してくる。
「それはよかったですね」
と、微笑む私。もちろんそのやりとりは一部始終見たのだから知ってはいるけれど。
こういうのは子供は話したいだけだから聞いてあげるのが大人というものなのだと思う。
にしても。
一応フランツだけとやり取りするわけじゃないようなので、ギリギリセーフかもしれない。
これでフランツとだけ手紙のやりとりをしていたら本来の歴史通りになってしまう。
ロゼルトもフランツと手紙のやり取りをさせたいがために、自分もやりたいと名乗りでた所はあるけれど。
一応3人でやり取りすることになったのでセーフとしておこう。
「はい!帰ったら早速書こうと思います!」
「こういうのは一週間空けるのがルールですよ。お嬢様」
「そうなのですか!わかりましたそうします」
言ってニコニコ微笑むお嬢様は歳相応で。
このあと理不尽な監禁生活と拷問が待っているのかと思うと眩暈を覚える。
なんとしても未来を変えないと。