11話 予定と違う
「き、君もクシャルナ神話が好きなのかい?」
と、話しかけてきたのは……作中で逆行前に婚約していたはずの青年。
フランツ・ファル・ランスだった。
彼の手にはロゼルトから取り上げたクシャルナ神話の本が握られている。
途端リシェルお嬢様の目が輝いた。
「は、はい!大好きです」
「あの僕はフランツ・ファル・ランスです!
もしよかったら友達に!!!!」
と、身を乗り出す。
ちょちょちょ!?ちょっと待って!!!
このままだとお嬢様はフランツと婚約ルートじゃない!?
私が何か言う前に間にシークが入る。
「お付きの方は?
申し訳ありませんが貴方の言葉だけでは身分を証明できません」
と、割って入った。
「も、申し訳ありません」
と、フランツ。ランス家は身分は伯爵家だ。
公爵家の令嬢お付きのシークがちょっと強く出たところで問題にはならないだろう。
「シ、シーク。ここは貴族しか入れない場所です。
嘘をつく理由も見当たりません」
お嬢様が抗議の視線を向けるが
「お嬢様。まだ婚約前のご令嬢が、人目のある場所で男性と無闇に話すのははしたない行為としてとられる事もあります」
と、私もシークを援護射撃する。
「……はい」
しょんぼりするお嬢様に
「リシェル様も神話に興味があるならもしよろしかったら、うちに来てみませんか?
クシャナ神話由来の書物やら遺跡から出土された魔道具やらがありますよ。
もしリシェル様がよろしければ正式にカーシェント家から招待状を送らせていただきます」
と、フランツの援護射撃したのは……ロゼルトだった。
ロゼルトお前。
未来の嫁を友人に売る気か!?
何友情ぶってるんだよ!?リシェルお嬢様は未来のお前の嫁だよ!?嫁!!
私が心の中で毒づいていれば
リシェルお嬢様が物凄いキラキラした目で私を見つめてくる。
全身から行きたいオーラを発するお嬢様を見て……私は心の中でため息をつくのだった。
■□■
なんだかよくわからない展開になってしまった。
私はガタガタと馬車で揺られながらげんなりした。
目の前には本を片手に嬉しそうにしているお嬢様の姿がある。
結局あのあと、お嬢様の行きたいオーラに負けOKを出してしまい、ロゼルトの家のカーシェント家からの招待をうけることになった。
いま王都にあるロゼルトの家の別荘に向かっているところだ。
あらぬ噂を呼ばぬように、ロゼルトの妹からの招待という形になっている。
本当は止めたかったが
同年代の人と神話のお話ができるなんて夢のようです!
と、目をキラキラさせて喜ぶお嬢様を止めれるわけもなく。
押しに負けて結局招待をうけることになった。
……にしても、あのロゼルトとフランツの会話からするに、フランツはお嬢様の気をひくために神話の話をもちだしただけで実際はあまり興味はないらしい。
ということは神話に興味があるのはロゼルトなのだ。
もしかしたらロゼルトの方とそのままゴールという形だってあるかもしれない。
というか、そうなって貰わないと困る。
だが問題は……ロゼルトが友人応援モードにはいっていることだ。
これで恋愛小説なら友人の好きな子を好きになってしまった!と萌える展開になるのだろうけれど。
ロゼルトの性格だと……友人に譲りそうで怖い。
何よりまだリシェルお嬢様に気持ちがむいていないというのが一番痛い。
やばいやばいやばい。
私がうろたえて立ち止まってしまったため歴史がかなりかわってしまった。
いや、歴史通りになってしまったというべきなのか。
フランツとはエンカウントさせないつもりだったのに。
一番最悪な未来に突き進んでいるのは気のせいだろうか。
魂が半分抜けた状態で私は馬車に揺られるのだった。
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