10話 少女漫画的展開
「大きな図書館ですね」
お嬢様と王都につき国立図書館についた途端。
嬉しそうに声を上げた。
馬車でついたのだが日本のちょっと大きめの私立大学くらいの大きさがまるまる図書館なのだ。
リシェルお嬢様の目がキラキラと輝いている。
「リンゼ。儀式がおわったら、ずっと王都にいるのですからここに毎日これるのですよね?」
馬車から身をのりだしそうなほど図書館を見つめ嬉しそうに言うので
「はい。予定は特にありませんから」
と、言えばお嬢様が「嬉しいです」と、笑顔になる。
こうやって素直に感情をだせるところがお嬢様はすごいと思う。
本来の身体の持ち主のリンゼとは大違いだ。
そこまで考えて、私ははたと動きを止めた。
何故今リンゼと比べたのだろう。
「リンゼどうかしましたか?」
私が黙りこんでしまったのを見て不思議そうにお嬢様が顔を覗き込んでくる。
その仕草が可愛くて
「何でもありませんよ。お嬢様。
お目当ての本があるといいですね」
といえば、リシェルお嬢様は「はいっ」と元気よく答えるのだった。
■□■
「シーク。決してお嬢様を一人にしないでください。
特に青髪の貴族の御子息が近づいてきたらなるべく話をさせないように」
図書館につくなり私がシークにお願いすれば
「……わかりました。ですがその青髪の子息について、何か事前に情報でもあるのでしょうか?」
シークに真顔で聞かれたので、私は女性を口説く子息がいるのですと適当に嘘をついておく。
流石にロゼルトとくっつけたいからフランツとは話をさせたくないとは言えない。
お嬢様といえば、あらかじめ読みたかった神話の本を嬉しそうに席で読みふけっていた。
に、しても。
私はチラリと別の席で熱心に神話の本を読みふけっている貴族の男の子に目を向けた。
素人のweb小説なのでもちろん挿絵などあるはずもなく、ヒーローのロゼルトについて分かっているのは金髪のみなのだが。
もしかしてあの子がそのロゼルトなのではないだろうか。
護衛もつけず一人で本を読んでいるためどこの貴族か確認できない。
せめて護衛がいれば勲章でわかるのに。
私がやきもきしていると
「ロゼルト。こんなところにいたのか」
と、青髪の男の子が親しげに金髪の少年に話しかけ
「お、フランツお前もきてたのか」
と、答えるロゼルト。
……ん?ロゼルトとフランツって!?
ちょっとまって。作中では触れられてなかったけれどこの二人知り合いだったのか!?
私がなるべく気づかれないように聞き耳をたてていれば
「またお前神話の本なんて読んでるのか。好きだなぁ」
と、フランツ。
「いいだろ。俺の領地は遺跡の観光地なんだ。
ちゃんと知識を身に付けておくのは悪いことじゃない」
と、ややふてくされて答えるロゼルト。
「ロゼルトは神話だけは熱心に勉強するよな」
と砕けた口調でフランツが言う。
……ん?
ちょっと待って。
フランツとリシェルお嬢様が仲良くなった理由はお互い神話好きだったからじゃないだろうか。
なのに今の話だとまったく興味なさそうなんだけれど。
「リンゼどうかしましたか?」
お嬢様が顔をあげた。
「い、いえなんでもありません!?」
慌てて答える私。
「お嬢様。そろそろお屋敷に戻る時間です」
まったく空気を読まないシークが告げた。
確かにそろそろ帰る時間だが、いま図書館を出ようとすればフランツとロゼルトとエンカウントしてしまう。
けれどお嬢様が私の心配など知るはずもなく
「はい。そうですね。
戻りましょう」
言って本を一冊手にとった。
「今日はこの本を借りていきます」
と、大事そうに抱え込む。
この世界まだ印刷技術は確立されていない。
そのため本は全部写本なため結構な貴重品である。
お嬢様も親バカの旦那様がお嬢様のためにかなりの本を揃えてはいるが、そもそももう写本していなくて売っていないという本も数多く存在する。
図書館には数多くそういった本がおいてあるのだ。
「次来るまでに全部読んでおかないとですね」
リシェルお嬢様がにっこり微笑み歩きだし――ロゼルトとフランツの横を通りすぎる。
そして私は見逃していなかった。
リシェルお嬢様を見て顔を赤くするフランツを。
これはよくある一目惚れというやつだろう。
そして問題なのはロゼルトの方は無反応ということだ。
作中でロゼルトがリシェルお嬢様に好意をもつのは一目ボレではなかった。
国のために毅然と闘うお嬢様に惚れたのであって外観で好きになったわけではない。
そのためか、赤くなったフランツを見てにんまりするだけなのだ。
やばい。マジやばい。
もしかしてこれはよくある友達のために恋愛応援するモードなのか!?
このままだとロゼルトがフランツを応援してくっつけようとするベタベタな展開になってしまうかもしれない!?
え!?ちょっと待って私がいるがために本来くっつくはずの二人がくっつかないとか物凄く罪悪感なのですけれど!?
「リンゼ、どうかしましたか?」
つい立ち止まってしまった私にリシェルお嬢様が振り返った。
「あ、いえ、別にたいしたことでは」
「?
ならよかったです」
と、微笑むお嬢様に
「あ、あの!!!」
と、声をかけてきたのは……フランツだった。