005 学友
チュンチュン(少年少女が学校の門を潜る)
ガヤガヤ(教室内で生徒たちが駄弁っている)
ガラガラ(教室の扉が開く)
カイ「あっ、チースとニー、おはよう!」
ニー「おはよう、カイ」
チース「ムニャ…」
タンタン(ニーとチースが教室に入る)
チース「…ねみぃ…。学校だりぃ…」
カイ「チースの方は、今日は一段とおネムだね」
ニー「昨日は夜遅くまで、チャンバラの特訓なんてしていたから…」
チース「つぅかよぉ、黒い影が出現した翌日は学校休みになれってんだよ…。不審者出現してんだぞおぃいいい…」
ドサ(チースが自身の席に座る)
カイ「だって黒い影のこと、この街じゃ創造主とボクたち八人以外は誰も知らないし」
チース「何でだよぉおおお、認知しろよぉおおお」
ビタン(チースが机に突っ伏す)
ニー「無関係な人を巻き込んだところで、かえって街の混乱を招くだけだからね」
ニー「創造主からもきつく念押しされてるでしょ?諦めなさい」
チース「オレらん所はともかく、サトシん所の影とかクッソ凶暴なんじゃねぇのかよぉおおお」
チース「ねみぃよぉおおおだりぃよぉおおお」
ビタンビタン(チースが机を両手で叩く)
カイ「ほら、駄々を捏ねてないで早く席に…」
ガラガラ(教室の扉が開く)
カイ「…あ、ルイコとミナミ。おはよう」
チース「!!」
ベレー帽を被った少女ルイコ「おはようございます、皆さん」
三つ編みの少女ミナミ「おーっす、おはようさーん」
タンタン(ルイコとミナミが教室に入る)
ニー「おはよう、二人と
チース「ミナミちゃぁあああん!!おはよぉおおおおお」
ドドドドド(チースがミナミに駆け寄る)
ミナミ「おはよ。相変わらず元気やな自分」
ニー「さっきまでの省エネモードが噓のように…」
チース「ったりめぇだろうが!!一度ミナミちゃんに声を掛けられれば、このチース!!」
チース「たとえ千年の眠りからだろうと、目を覚ますぜぇ…」
カイ「くっさ」
ニー「弟ながら調子のいい奴…。ごめんねルイコ、朝から騒々しくて」
ルイコ「いえいえ、いつも楽しませてもらっていますよ」
ルイコ「先日のコンクールでの入賞も、皆さんから頂いたインスピレーションがあったからこそですし」
カイ「コンクール?」
ニー「少し前に、街中心部の方で、絵画のコンクールが開催されていたんだよ」
ニー「そこへルイコが応募した結果、ルイコの作品が、コンクールの最優秀賞に選ばれたんだって」
ミナミ「最優秀賞!?」
チース「一番ってことか!?」
ニー「この街ではね。近々地方代表として、全国大会にも出場するんだとか」
カイ「全国!?」
ニー「もしかしたら、世界大会にも…」
カイ「世界!?」
ルイコ「さ、流石にそれは言いすぎです…!」
ミナミ「常日頃から、上手い絵描くなあとは思っとったけど…」
ミナミ「なんや、凄い子が身近におったもんやなあ…。おめでとう」
カイ「おめでとう、ルイコ!」
チース「オレもオレも!!オレもおめでとう!!」
ルイコ「あ、ありがとうございます、皆さん」
ペコ(ルイコがはにかみながら頭を下げる)
ニー「ルイコ、コンクールに向けて毎日練習してたもんね」
ルイコ「はい…。努力が実る結果となって、嬉しい限りです」
ルイコ「ですがそれだけでなく、入賞の要因は、先ほども言った通り、やはり皆さんと過ごした日々によるものが、大きいと思っています」
ミナミ「え、ウチら?」
カイ「そんな、ボクたち何もしてないよ!」
アワアワ(カイが両手を左右に振る)
ルイコ「何も、理由もなく言っているわけではないんです」
ルイコ「実は、私は、以前にも数多の地区コンクールや絵画展に、自身の作品を出展していました」
ルイコ「ですが結果はどれも、良くて佳作止まり。最優秀賞どころか、代表選出なんて夢のまた夢」
ルイコ「当時の私も、ここが自身の限界なのだろうと思い、作品の出展も諦めてしまっていました」
チース「……」
ルイコ「けれど去年、この学校で皆さんと出会ってから、それまでの私という人間が、いい意味で崩れ去ったんです」
ルイコ「どんな常識にも囚われず、己の道を歩み続けるチースさん。不慮の事故から見知らぬ星にやってきて、それでも前を見て生きるカイさん」
ルイコ「毎日が宝物だという気持ちを露に、いつも笑顔を絶やさないミナミさん。そして、私に友情を教えてくれたニー」
ルイコ「皆さんと過ごした日々が、私が抱いていた気持ちに、新たな方向性を示してくれた。例えばこうして、今一度コンクールへの応募が決意できたように」
ルイコ「もし皆さんと出会うことがなければ、私は今も、限界の壁を背に座り込んでいたことでしょう」
ルイコ「だからこそ、私に限界を超える勇気を与えてくれた皆さんこそが、この入賞を現実のものとした功労者なのだと、私はそう、確信をもって言えるんです」
カイ「ルイコ…」
(カイがルイコを見つめている)
ルイコ「…全国大会では、地方の時とは異なるテーマに沿った作品を、期間中に仕上げる必要があるそうです」
ルイコ「概要はまだ知らされていませんが、テーマが何であれ、皆さんから頂いたインスピレーションを胸に、全力で作品と向き合う所存でいます」
ルイコ「なので皆さん、」
ペコ(ルイコが深々と頭を下げる)
ルイコ「いつも私の友達でいてくれて、ありがとう」
ルイコ「そしてこれからも、よろしくお願いします」
チース「……」
ニー「……」
カイ「……」
ミナミ「…や…」
ミナミ「何や…」
ミナミ「何やこの天使はあああああ!!」
ガバッ(ミナミがルイコに抱き着く)
ルイコ「わ…っ!?」
ミナミ「ルイコちゃん、いっつもそんなこと考えとったん!?何やその純粋培養、あり得へんやろ!?」
カイ「聖人すぎる…」
ドバア(カイが号泣している)
ミナミ「友達でいてくれてありがとう!?ウチらの方こそ、あんたの優しさにはいっつも助けられとるんやで!?」
ミナミ「ウチの癖の強い喋りにも、必死に付いてきてくれたり!」
カイ「高くて手が届かない所にある物を、代わりに取ってくれたり」
チース「忘れた宿題を、写させてもらったりな!」
ニー「それ初耳なんだけど」
ドン(ニーがチースの背後に立っている)
チース「げ」
ニー「宿題は模写せず、自力でやりなさいって…」
ニー「いつも言っているでしょう、チース…?」
ゴゴゴ(ニーの手がチースの体に伸びる)
チース「よ、よよよ要するにオレら全員、いつも互いに助け合ってるっつぅことだな!!」
チース「んじゃなお前ら、オレは席に戻るぜ!!」
ビュン(チースが自身の席へ走る)
ニー「あっ、こら!全くもう…」
ミナミ「よおおおし、こうなったらクラス中、いや、学校中にポスターを貼って、みんなでルイコちゃんを応援や!」
ルイコ「ポスター、ですか…?」
ミナミ「せや!"ルイコちゃん地区大会優勝"ってのと、"全国大会出場決定"って字をデカデカと書いてな!」
ミナミ「当日は生徒教職員揃って、ミナミちゃんを応援するんや!ええ案やろ?」
カイ「学校のみんなが、一丸となってルイコを応援する…。凄くいいと思う!」
ミナミ「せやろせやろ!んじゃ早速、下書きの作成に…」
キインコオン(学校のチャイムが鳴る)
カイ「あっ、もうこんな時間…。残念だけど、続きはお昼にしようか」
ミナミ「せやな…。んじゃルイコちゃん、改めておめでとう、楽しみにしとってな!」
ルイコ「何から何まで…。本当にありがとうございます…」
ミナミ「気にすんなって!ウチら、友達やろ?」
ルイコ「ッ、は、はいっ!」
ミナミ「ほなまたな!」
タンタンタン(ミナミたちがそれぞれの席に着く)
ガタ(ルイコが自身の席に着く)
ルイコ「…ふう」
ニー「ごめんね、疲れさせちゃった?」
ガタ(ニーがルイコの隣の席に着く)
ルイコ「ニー…。いえ、私は全然大丈夫です」
ルイコ「その、何というか…。安心してしまって」
ニー「安心?」
ガサ(ルイコが鞄から教材を取り出す)
ルイコ「チースさんやカイさん、ミナミさんが、私のことを友だちだと認識してくれて、良かったな、と…」
ルイコ「私はあまり、普段、自発的に言葉を発する性格ではないので…。もしかしたら、そうとは思っていただけていないのかもと、邪推してしまって…」
ニー「相変わらず自己評価低いんだね」
ルイコ「ニーに言われたくありませんよ」
ニー「あれ、そう?ふふ」
ルイコ「うふふ…。なので今は、漸く肩の荷が下りたような、そんな気分です」
ルイコ「本当に良かった。もう何も、思い残すことはありません」
ニー「未来ある高校生がババ臭いこと言っちゃって。目の前に全国大会も控えてるのに、まだまだこれからでしょう?」
ルイコ「…ええ、そうですね」
トントン(ルイコが教材を整える)
ルイコ「…友情というものに、上下の区分を設けるべきではないのでしょうけれど」
ルイコ「やはり、私の中で、一番の友達はニーなんだと、そう思います」
ニー「え」
(ニーが教材を漁る手を止める)
ルイコ「…一年前の入学式。こうして隣の席に座っていた私に、話しかけてくれたニー」
ルイコ「あの一言から今に至るまで、私はずっと、貴女に支えられてきた」
ルイコ「私に再度筆をとるきっかけを与えてくれたり、私のマネージャーになってくれたり」
ニー「…マネージャーって言っても、実際は何もできていなかったけどね…」
ルイコ「そんなことはありませんよ。貴女の助言や時間管理に、私がどれだけ助けられてきたか」
ルイコ「それこそ、どれだけ感謝しても、しきれないほどに…」
(ルイコが自身の教材を見つめている)
ニー「それは私も、同じ気持ちだよ」
ニー「私が抱え込んじゃった悩みや不安に、ルイコはいつも耳を傾けてくれる」
ニー「それを抜きにしたとしても、数え切れないほどの貴女の優しさに、私の心はどれだけ救われてきたか」
ルイコ「……」
ニー「私にとってもルイコは、私の中で、最高の友だちだよ」
(ルイコが顔を上げニーの方を向く)
ニー「…って、え、ええっ!?何で涙ぐんでるの!?」
(ルイコの目尻に涙が浮かんでいる)
ルイコ「…ずみまぜん」
ニー「声も掠れてるし!?」
ルイコ「…貴女に、そんなことを言っていただけるだなんて…」
ルイコ「嬉しくって…、つい…」
ゴシゴシ(ルイコが涙を拭う)
ルイコ「…失礼、しました」
ルイコ「本当にありがとう、ニー…。この一年、私に、多くのものを与えてくれて」
ルイコ「私と、出会ってくれて…」
(ルイコが顔を上げ笑う)
ニー「か、悲しくて泣いているとかじゃないのかな…?なら良かった…」
ホッ(ニーが息を吐く)
ニー「…うん、私の方こそ、友だちでいてくれてありがとう、ルイコ」
ニー「これからもずっと、大人になっても、友だちでいようね!」
ス(ニーがルイコに手を伸ばす)
ルイコ「……」
(ルイコがニーの手を見つめている)
ニー「…ルイコ?」
(ニーが首を傾げる)
ルイコ「…友達って、隠し事はするべきじゃない、ですよね…」
ニー「え?」
フ(ルイコが顔を上げる)
ルイコ「…私、実は、貴女に隠していることがあるんです」
ニー「隠している、こと…?」
ルイコ「はい」
(ルイコがニーの目を見つめる)
ルイコ「私、本当は、貴女のこと…」
ガラガラ(教室の扉が勢い良く開く)
カイ「…あ、創造主だ」