表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
創作世界  作者: 金日
4/39

003 完売

チース「……」


ニー「……」


カイ「……」




(店のシャッターに"完売"と書かれた紙が貼られている)




チース「……」


ニー「…ま、まあ、仕方ないよ…。人気だったんでしょ…?」


チース「……」


ニー「今回が駄目でも、また次があるって!だからこそ、エバーギブアップ」


カイ「ネバーギブアップね」


チース「……」


ニー「きっと次は大丈夫だよ!ほら、昔の人も言ってるじゃない、七転八倒って」


カイ「七転八起ね」


チース「ぁあああああ!!」


チース「エムチィ、エムチィイイイ!!オレのエムチィイイイイイ!!」


ガクッ(チースがその場に膝をつく)


チース「ぅううううう…」


カイ「よしよし。ほらチース、雷印の6ピースチーズ食べる?」


ナデナデ(カイがチースの頭を撫でながらチーズを差し出す)


チース「食ぅううううう」


モシャモシャ(チースがチーズを頬張る)


ニー「え、えっとえっと、ほら、山紫水明でしょ、百花繚乱でしょ、電光石火因果応報唯我独


カイ「ここにいても仕方ないし、今日はもう帰ろうか」


チース「帰るぅううううう」




ーーーーーーーーーー




カアカアカア(夕暮れの街並みを鴉が飛んでいる)


タンタンタン(ニーたちが住宅街を歩いている)




タンタンタン(ニーがチースを背負いながら歩く)


ニー「…チース、寝た?」


カイ「どれどれ…」


ヒョコ(カイがチースの顔を覗き込む)


チース「スピィ…」


カイ「…寝てる…、かな?」


ニー「そっか…。良かった、ひとまず一件落着かな」




タンタンタン




カイ「…ごめんね、ニー」


ニー「…ん?どうしたの急に?」


カイ「その…。ほら、こうしてチースが疲れ果てて寝ることって、よくあるけど、」


カイ「その度にチースを、いつもニーに背負わせてばかりだなーって。…物理的に」


ニー「ああ…。けどほら、それは仕方ないよ」


ニー「身長30センチ弱のカイが、160センチオーバーのチースを背負うなんて、それこそ物理的に不可能だし…」


カイ「くっ…、みんなから小動物だマスコットだとチヤホヤされるこの体が、今は恨めしい…!」


カイ「いつかきっと、スタイル抜群な八頭身になってやる!!」


グ(カイが拳を自身の顔先へ持ってくる)


ニー「八頭身になったカイ…。うーん、気持ち悪いな…」


カイ「ど直球…」


ガク(カイが項垂れる)


ニー「ふふ…」


タンタンタン




ニー「…それにさ。背負わせてるのは、何もカイだけじゃないし」


ニー「私だって、チースのことは、いつもカイに任せっきりだしさ。…精神的に」


ニー「さっきチースを宥める時だって、そうだったじゃない」


カイ「そうかな…。あ、でも今日のニーは、朝からどことなくおかしかったよね」


ニー「バレてた?」


カイ「あれだけ普段の素行と違っていたら、誰だって気づくよ」


カイ「らしくなく大声で、クラスのみんなに挨拶したり、いまいち理解しがたい謎のおっさんギャグを連発したり…」




ーみんなあああ!おはようううオホッ、な、なんか咽せた、ゴホッ


ーそれはあれだね、布団が吹っ飛んだね!アッハッハ、…ってなんでみんな白目剥いてるのおおお!?




ニー「あはは…」


カイ「てっきりチースに、変なモノでも食わされたのかって思ってたよ」


ニー「カイの中のチース像、とんでもないね。とはいえ、まるきり否定できないのも事実だけど…」


ニー「実は、今日は、チースと同じテンションで過ごしてみよう、って思ってさ」


カイ「同じテンション?」


ニー「うん。そうすれば、チースの気持ちが分かるかなって」


カイ「ええ…」


(カイが半目になる)


ニー「ほ、ほら、その、チースの波長というか、似たような空気?になることができれば、シンパシー感じちゃう、的なことになって、」


カイ「……」


ニー「心も、繋がるかな、って…」


モゴモゴ(ニーの声が小さくなる)


カイ「…頑張りどころがズレているのは、相変わらずだね」


ニー「うぐ」




カイ「チースを宥めるコツは、チーズだよチーズ」


ガサ(カイが懐からチーズを取り出す)


カイ「困ったときはコレを餌付けしておけば、まあ大体はどうにかなるんだよね」


ニー「まさかの犬扱い…」


カイ「懐けば可愛いよ?」


ニー「最低」


カイ「えへへ」


ニー「ふふ…。…そっか、チーズかあ」


ニー「ここ一年忙しかった所為か、自分の弟の好物すら、忘れてたな…」




タンタンタン




カイ「漸く片付けが終わったんだっけ?」


ニー「うん。本当なら、もっと早くに終わらせたかったんだけどね」


ニー「学校とか家事とかバイトも兼ねながらやってたら、何だかんだ一年も掛かっちゃって…」


ニー「先日、やっと最後の段ボールを資源に出して、終了」


カイ「お疲れさま。引っ越しって大変なんだねー」


ニー「私も正直、もっとサクサク進められるものだって思ってたよ…」


ニー「新居そのものの準備もだけど、区域内で定められたルールの確認とか、色んな所へ住所変更手続きをする必要があって…」


ニー「…いや、まあ本来なら、どれも予め準備しておくべき内容ばかりだったんだけどね」


カイ「仕方ないよ。ボクも詳しくは知らないけど、急な引っ越しだったんでしょ?」


ニー「うん…」


カイ「それに新居って、ニーとチースの二人だけで住んでいるって聞くし」


カイ「凄いなあ。高校生でアパートに二人暮らしだなんて、尊敬しちゃうよ」


ニー「…カイだって、似たようなものでしょ?今年からアパートを借りて、一人でそこに暮らしてるんだから」


カイ「まあね。けどほら、ボクの一人暮らしって、」




カイ「"あの人"の助けがあるからさ」




ニー「あ、そっか…」


カイ「そうそう。だからどっちかと言うと、一人暮らしをしているってよりは、させてもらっているってのが正しいかな」


カイ「もし金欠になれば、彼がいいバイト先を斡旋してくれるし、最悪の場合、彼自身が資金援助を行ってくれるし」


カイ「ぶっちゃけそこまで、切羽詰まったものじゃないよ」


ニー「……」


カイ「…けど、ニーたちはそうじゃないんでしょ?」




タンタンタン




ニー「……」


(ニーが俯いている)


カイ「…ごめん。お節介なこと言って」


カイ「でもボク、ニーにもチースにも、幸せになってほしいんだよ」


カイ「だから、そのための一つの道として、考えてほしいんだ。あの人に、」




カイ「"創造主"に、助けを求めることを」




ニー「……」


カイ「ここ最近のニーって、中学やそれ以前の頃と比べて、見るからに細くなったっていうか、痩せこけているっていうか…」


カイ「心配なんだよ。いつかニーが、倒れちゃうんじゃないかって」


ニー「……」


カイ「だから、たとえ余計だと思われても、これだけは言っておきたかったんだ。…ごめんね」


ニー「…ううん…」




カイ「…それとも、もしかして、遠慮してるの?」


ニー「…どうだろう」


カイ「……」


ニー「遠慮、してるのかな…。彼に頼るのは悪いって」


ニー「私だけで何とかできるって、そう思っているのかもしれない」


カイ「……」


ニー「あとは…。恐怖、とか」


カイ「恐怖?」


ニー「うん…。何だろう、ずっと私の頭の中を離れないんだ…」


ニー「それには手を出すなって、本能的に、あの人の力を拒否するような、警鐘…」


ニー「一度彼に頼ってしまえば、今後はもう、その力なしには生きていけないような、依存への恐れ…」


ニー「そういった感情が、今の私自身に、歯止めをかけているような気がする…」


カイ「そっか…」




ニー「…ごめんね。カイの目の前で、こんなこと言っちゃって…」


ニー「創造主や、創造主の恩恵を受けているカイのことを、悪し様に言うつもりは全くないんだ」


ニー「ただ単に、私が、私の心が弱いだけだから…」


ニー「力への恐怖に打ち勝てない、私の弱さが悪いだけだから…」


カイ「……」


タンタンタン




カイ「…ねえ、ニー。今から六年前の出来事、覚えてる?」


ニー「…六年前?」


カイ「そう。六年前」




カイ「ボクが、この星へやってきた年」




カイ「この一頭身ボディからも見て分かる通り、ボクは、この星の生物じゃない、正真正銘の宇宙人」


カイ「六年前のあの日、宇宙旅行の帰路についていたボクは、乗っていた宇宙船が故障した挙句、この星へと不時着した」


カイ「そこで、当時小学五年生だったニー、その一つ下のチースと出会い、」


カイ「宇宙船が修復されるまでの間、ボクの身柄は、創造主の元で保護されることになった」


カイ「そんな、突然宇宙から飛来してきた奇妙な生物に対して、気味悪がるでもなく接してくれたみんなを、」




カイ「当時のボクは、恐れ、拒絶していた」




ニー「……」


カイ「今考えれば、意味分かんないって思うよ。たとえボクと体格が違っていたとしても、あんなに良くしてくれる人たちの手を振り払いたがるなんて、どうかしてるって」


カイ「けれど、あの時のボクは、自分自身へ降りかかった災難にいっぱいいっぱいになっていて、そんな好意に気づく余裕すら、なくなってしまっていた」


カイ「見知らぬ土地に、見知らぬ人種への恐怖」


カイ「更にその後、この星の技術では、故障した宇宙船を直せる見込みがないと判明したことも、ボク自身の負の気持ちに拍車を掛けて…」


カイ「結果、自身の殻の中に、塞ぎ込んじゃったんだ…」


タンタンタン




カイ「…でもね。それでも二人は、みんなは、なおも諦めずに、ボクへと手を差し伸べてくれた」


カイ「今はダメでも、これから宇宙船を直す術を見つけようと励ましてくれたり」


カイ「日ごとに創造主の家へ通いに来て、この星の色んな知識を、ボクに教えてくれたり」


カイ「そうやって、ボクの心に巣食っていた氷を、周りの人たちが、少しずつ溶かしてくれた」


カイ「おかげでボクは、少しずつではあるけれど、自身の表情に笑顔を取り戻すことができたし、」


カイ「宇宙船を直す術が見つかるまで、この星で住もうという決心を付けられた」


カイ「みんなの助けが、今、こうして二人の隣を歩くボクを、つくってくれたんだよ」


カイ「だからさ、ニー」




タン(カイが足を止める)




カイ「今度はボクが、二人にお返しをする番」


ニー「……」


カイ「ニーとボクとだと、厳密には恐怖の種類が違うかもしれないし、そもそもボクが、実際二人の力になれるかどうかは分からないけど…」


カイ「でも、一人でマイナスな気持ちを抱え込んじゃうよりは、二人、三人で抱えた方が、ずっと気楽でいいと思うんだ」


カイ「ボクができたんだから大丈夫だとか、きっと何とかなる、みたいなことを言うつもりは、毛頭ないよ」


カイ「そういうのって無責任で投げ槍だと思うし、少なくとも二人の助けにはなれないだろうから…」


カイ「だから、その…、なんて言うか…」


(カイが考えあぐねる)




ニー「…ふふ」


(ニーが片手を口に当てる)


カイ「…え?な、何…?」


ニー「ううん…。ごめんね、急に笑っちゃって」


(ニーが首を振る)


ニー「カイが、私のことを励ましてくれてるんだな、って思ったら、思わず…」


カイ「思わず!?」


ズイ(カイが背伸びをしてニーに詰め寄る)


ニー「ごめんごめん、そういうつもりじゃないんだよ。ごめんって」


カイ「むー…。確かにボクは、激励の言葉をスラスラ口に出せるような性格じゃないし、実際言えてなかったけどさー…」


ニー「ふふふ…」


ニー「…でも、ありがとう、カイ。おかげで少し、気持ちが軽くなったよ」


カイ「…本当?」


ニー「うん、本当」


(ニーが自身の背に目を向ける)


チース「スピィ…」




ニー「…カイに言われて気づいたよ。私は、悩みを一人で背負いがちなんだって」


ニー「六年前のカイも、今の私も、不安や恐怖を、自分だけの殻の中に仕舞い込んで、なんとかしようと考えてしまう」


ニー「それは、他人に迷惑を掛けまいとするための優しさなのかもしれないけど、」


ニー「結果その気持ちを抑えきれず、自分自身を壊してしまったら、元も子もない」


ニー「私からしても、手を差し伸べてくれている人たちからしても、それは、とても哀しいこと…」




ニー「私が創造主の力に頼るのかどうか。それは、まだ決心が付かないし、今のところ付けるつもりもない」


ニー「自身でも焦燥しきっていると感じている今、急いで結論を出したとしても、きっといい結果にはならないだろうから…」


ニー「だから、それよりもまずは、もっと身近な所を頼ってみようと思う」


ニー「カイや、チースや、他の友だちにも」


ニー「恐怖を克服する手段は、それから考えても遅くはない、よね…」


カイ「うん。大丈夫だと思うよ」


カイ「ボクも、六年間という日々を、二人と一緒に過ごしてきた仲間として、精一杯手を貸すつもりだし」


カイ「それに昔、ボクのパパも言ってたんだ」


カイ「恐怖があるからこそ、勇気をもって、物事に立ち向かえるって」


カイ「恐怖のない進撃は、ただの無謀でしかないんだって」


カイ「創造主の力に恐怖を感じているニーの心は、たとえ弱くはあっても、決して悪じゃないと思うよ」


ニー「うん…。ありがとう、カイ」


タンタン(二人が再び歩き出す)




カイ「ごめんね、口下手で…。ボクの言いたいこと、ちゃんと伝えられているかな…」


ニー「大丈夫だよ。しっかりと私の五臓六腑に染み渡ったから」


カイ「本当?だといいんだけど」


ニー「それに、もし言い足りないことがまだあれば、明日や明後日にでも、また言ってくれればいいしね」


カイ「そうだね…」


タンタンタン


カイ「…あっ、そうだ!じゃあさ、」




カイ「今度、二人のアパートに行かせてよ!」


ニー「え?」


カイ「もし今日言いきれなかった内容があったらさ、そこで、どどーんとニーに伝えちゃえばいいんだよ!」


カイ「他称ゆるキャラモフキャラなボクがお宅訪問すれば、ニーもチースも心癒される事間違いないし!どうかな!?」


ニー「どうって…」


ニー「それって単に、カイが遊びに来たいだけなんじゃ…」


カイ「ギク!」


ビク(カイが自身の体を跳ねさせる)


カイ「…い、いやー…。引っ越し作業が終わるまでの間は、二人の邪魔をしちゃ悪いかなって、遠慮してたんだけどさ…」


カイ「もういいかなーって。中はどんな香りがするんだろう、木の香りかな、お花の香りかな?」


ニー「前住居者が残していった煙草の香り、かな…」


タンタンタン(二人の間に沈黙が生まれる)


カイ「…あ、あとは、えっと…。そ、そうだ、チース!」


ニー「チース?」


カイ「ほら、ニーさ、チースとどうやって心を通わせるか、色々と模索しているじゃん?」


カイ「だからもし良ければ、チーズでチースの躾け方とか、空気の合わせ方とか、そのアパートで実践も兼ねて教えるっていうのはど


ニー「是非お願いしますっ」


ガバッ(ニーが深々と頭を下げる)


カイ「即答!?でも言質取ったーやったー!」


ピョンピョン(カイが飛び跳ねる)


ニー「ハア、全く…」


(ニーが独りごちる)




ニー「…なんか、助けてもらっちゃったな…」


ニー「カイのおかげで、さっきまでの不安が噓みたいだ…」


(ニーがカイの背を見つめる)


ニー「…私も、頑張らなくっちゃね」


ニー「この子のためにも…」


チース「……」


タンタンタン




ニー「…ところでさ。カイ、私たちと一緒に歩いてて大丈夫なの?」


カイ「え?」


(カイが振り返る)


ニー「カイの家って、こっちとは逆方向だったよね?このままだと、どんどん離れていっちゃうと思うんだけど…」


(ニーが自身の後方へ目を遣る)


カイ「ああ…、うん。その通りなんだけど…」


カイ「実はちょっと、気がかりなことがあってね」


ニー「気がかり?…ひょっとして、さっきチラシを見た時に感じた違和感と、似た類の?」


カイ「っていうか、全く同じ、かな」


タンタンタン




カイ「…着いてきて正解だったみたい」


ニー「え?」




???「そこまでだ!!」




バッ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ