8.あれ? 僕なんか言っちゃいました?(本家)
秘密結社ADAM────それは世界の影に潜み、世界の影を守る者達。
何も考えてなさそうなマイペース会長が統制しており、その部下は少なくとも2名はポンコツ。
裏では武器を手に取り戦う戦闘集団。
しかし、表ではレジをデスクにお客様を
おもてなす家電販売店だ。
突然この異世界(?)に飛んだ俺はこいつらに拾われて、元の世界へ帰る為に協力するという条件の元、世話になることになった。
今日で一週間、大体チュートリアルも終えて、ようやく元の世界へ帰るための手がかりを。
「しゃーせー」
雇われるきっかけとなったこの謎の力を。
「ありあーしたぁー」
解き明かす為に。
「こちらぁーどーっすかぁ?」
───────為に。何の為に。
「俺は何してんだぁ───!!!!」
「何って…………仕事だろ?」
「そうじゃない! 俺は何でこんなところで働かせられてるんだよ!?」
「そりゃあ……うちは表では大型家電量販店だからね、人手は必要さ」
『マクシミカメラ』────秘密結社ADAMが表上で経営している大型家電量販店だ。
なんだよマクシミカメラって。あの会長の名前かはとったのは分かるが、字面が某ヨ●バシカメラと一緒でなんか違和感あるんだよ。
「違う…………俺は元の世界へ帰る為の情報を探らなければならないというのに……!」
こんな事をやっているのには理由がある。
一つ目は先程、隣の同僚が言っていた通り人手不足から。
そして、もう一つは。
彼は言っていた。
『いやぁ〜最近表側の売り上げが右肩下がりでね! 研究費用が危うくてね!!』
「気が遠くなるわ!!!!」
いや、分かっていた。異世界転生ってそんな簡単に帰れる物語じゃないって。
だからってこんなアルバイトをさせられるのもどうかと思う。俺は未成年だぞ。
「そんなに情報源欲しいなら、同じ境遇の奴に会ってみればいいじゃん?」
先程から話を聞いてくれている同僚が大量に積み重なったイヤホンの箱を整理しながら俺にそう言ってきた。
「どう言う事だ?」
「異世界転生の勇者サマは某街の情報屋に良く訪れるって聞くぜ? 械物ってのは世界規模での災害だ。狩る為に傭兵を雇う奴らもいるって聞くし、旅人がいてもおかしくないって事さ」
「詳しく聞かせろ」
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同じ異世界転生の者を探す為、俺は某街のギルドバーへ向かった。
その名は『名浪バー いせてん』
──────大丈夫か、この店。
名前はともかく、足を踏み入れないことには始まらない。
「ぉじゃま〜しまーす……?」
情け無い入店。店に入れば外からじゃ全く分からない量の光が視界に入ってくる。
そして、俺はそこであることに気付いた。
こんなところに来るのは初めてだった。
その謎を解明すべく我々はアマゾンの奥地へ向かった的な勢いで来てみたが、浅はかであった。
「いらっしゃい」
「ど、どもー」
見渡す限り大人、大人、大人。そして、妖艶な香りを漂わせた女々が一人の男を囲って座っているVIP席のようなところも見られる。
なんだかイケナイ所に来てしまった気分だ。
ともかく、空いている席を。
「うっ……………」
迷い込んだ子供を見つめるような視線が俺に向けられる。話しかけようとはしないが、ただ見つめられている。横目で見ているのもすぐに分かるほどの圧迫感。
や、やだなぁ。
「お兄さん、ここは初めてかい?」
すぐ横にあるカウンター席からマスターのような男性が問いかけてきた。
「そ、そうだな………いや、久し振りに来た〜みたいな感じかな?」
何故そこで嘘をつく俺。
その会話の流れで誰も座っていないカウンター席へ座った。
「─────────オレンジジュースで」
「あいよ」
さて、ここからが本番だ。運良くこのバーのマスターに近づく事が出来た。
彼なら何か知っているはずだ。
「─────この席に座ったって事は、情報交換かい?」
「え?」
情報交換、とは。
「この時間にこの席に座るって事はそういう事だろ?」
「いや、俺は逆に情報を得ようとここに──」
「─────おい、ガキ」
「ひっ!?」
何かやばそうな男が俺の背後に立っている。
ジャラジャラとした服装に─────ポケットからなんか物騒なモノが飛び出してるんですけど。
「ちょっと〜まだ子供だから手出すのはやめなさいよ〜?」
「そうよそうよ〜」
この妖艶な香り、さっき奥の方に座ってた奴らか。
「お客さん、店内で暴れるのはやめていただきたい」
「分かってるよマスター……ってわけで表出ろガキィ」
「はぁ!? 俺なんもしてねえよ!」
「てめえ、さっき俺の事ジロジロ見てただろ? 一発やらせろ」
そんな理不尽な。確かに目を合わせてしまっていた気はするが、理不尽過ぎるぞ。
腕を鳴らしながら俺にじわじわと近付いてくる。
「マ…………マスター! 助けてぇ!?」
「初めて来た君には理不尽かもしれないが、割と日常茶飯事でね。これを見にくるお客さんだっているのさ」
「嘘だろ……どうすれば良いんだよ俺は?」
「………………グッジョブ&グッドラッグ」
マスターは拭いていたグラスをカウンターに置き、両手をグーにして俺に向けて応援してくれた。
この世界にいるおっさんは全員こうなのか。
「オラァ! こっちだ!!」
だが、生憎だが俺も武器は持っていてね。
「スチャッ」
サッと拳銃を引き抜き。
「え」
腕をがっしりと掴まれ、拳銃がその辺に捨てられた。
「拳で……………な?」
「い…………いやだぁぁぁぁ!!!」
異世界到着以来の悲鳴を上げてしまった。
これはまずい。異世界転生に関する情報をただ得る為に来ただけなのにこんな理不尽。
しかも目が合っただけでって。
嫌だ嫌だ、こんな現実は認めない。こんな事になるなら誰かを連れて来ればよかった。まだこの世界に慣れきってないのに粋がってしまった俺のせいだ。こんなやばそうな奴にボコボコにされるのは嫌だ。
ティア、アネモネ、ミゲルマン会長─────同僚。
誰でもいいから誰か。
「すみません、その男の人が嫌がってるんで離して貰えますか?」
扉を出る直前、横から一人の少年が俺を掴んでいる男の手を掴む。
黒いコートを着ている若い男。もしかしたら同い年かもしれない。
「なんだてめえ? どっから沸いた」
「カウンター席の端────特等席からだけど」
カウンター席の端? 特等席?
「ハヤテさん………やめておいた方が……」
「大丈夫、ミーシャは下がってて」
幼い女の子が彼の裾を掴み、震える声で彼を止めようとする。
端の方から2人の女の子が彼の後を追ってやって来た。
「どうなっても知らないわよ!? ………あんたのそういう優しいところ、嫌いじゃないけど………」
赤い長髪の女性、ドレスを着ている─────ドレス?
「なんか言った? アリサ」
「う、うるさい!! さっさとしてずらかるわよ!!」
こ、これは。
「それでこそだハヤテ、流石は私の見込んだ男………!!」
余裕のある笑みでクールに語るスタイルの良い金髪ポニーテールの女性。こちらは白衣のような服装だ。
「こうしてここにいるのもノエル姉さんのお陰だよ、ありがとう」
「なっ……………直球に伝えられると、少し照れるからやめてくれないか……?」
やはり、これは─────こいつらは。
「さあ、この手を離してもらおうか」
彼はグッと力を入れた。
「ぐぁ…………!!」
俺を掴んでいた男の手が強張るかのようにして、俺を離す。
男から離れた俺は、ひとまず後退りしてその二人から距離をとった。
「てめえ…………やりやがったな」
「え? 俺はまだ何もしてませんよ?」
「ざけんな! 気が変わった……てめえからやってやる」
そう言って男は上着を脱ぎ、席で囲んでいた女性らに向けて放り投げた。
かなり鍛え上げられた肉体があらわになる。俺はこんなやつにボコられそうになっていたのかと思うと恐怖でしかない。
「上着を脱いだって事は防御力が下がるって事ですよね?」
「は? 何を言ってる?」
「僕はあなたの手を離しただけなのに、手を出したと言った。そして、あなたは僕がまだ攻撃していないのに自ら鎧を脱いだ…………それって自滅行為ですよね?」
「なっ…………!!」
男は驚き、硬直した。
そして、気付けば周囲に集まっていた観客にも反応が。
「確かに………その考えは理にかなっている」
「あの少年、まさか天才か」
「今年の研究大賞にノミネートされるかもしれないわね」
「盲点だった………」
このバーにいる人々が一斉に硬直し、騒めく。まるで衝撃の事実を告げられたように。
「てめえ……………何者だ………答えろ!!」
「────それって、僕の勝ちって事ですよね?」
静けさの中で、ワイングラスの割れる音。
「やはり君は…………この世界に真実をもたらしてくれる、この世界を導いてくれる………」
カウンター席のマスターが冷や汗を垂らし、ワイングラスを持っていたはずの手を震わせていた。
「何これ恐い……」
放られた拳銃を回収するよりも目の前の現象の理解が追いつけない事に恐怖して動けなかった。
ただ一つ、間違い無く言える真実がある。
彼も異世界転生者という事だ。