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006 旅立ち

夕方になって、やっと街が見えてきた。


街の奥には夕日に照らされた王城が赤く光っている。

今晩は荷馬車を返したら早めに寝よう。人間の感覚を思い出すほど夜は眠くなる。


街の門番がいる入り口に到達すると、門番が話しかけてきた。


「シュウという奴はいるか?」


まずいな、王城で何かあったのか?

シュウは、勇者召還された際に城で名乗った名前である。

聞かれたのがカオルだったので答える義務はないから無視で通れる。

私が聞かれていたら嘘がつけないのでまずかった。危なかった。


「兄貴とブランと俺しかいないぞ?」


カオル、それ回答になってないから。


「私がニーゼロで、今答えたのがカオルです。ここにいる神官がブランですね」

下手な質問を受ける前に、カオルをフォローする。


「あ、そっか名前を言わなきゃだめだよな」

カオルが納得する。


門番が眼鏡のような道具を取り出して、私達をそれを通して見る。

「本当のようだな。この魔道具は虚言を見破るんだ。通ってよし」


とりあえず問題なく街には入れたが、やな予感がする。

なぜ、シュウを探しているか知るまでは下手に目立たず動かないほうが良いだろう。


冒険者ギルドには、カオルだけに行ってもらって外で待つことにした。

外で待っている間に、商店で盗賊たちの武器を売り払っておいた。

商人風の外見のおかげで色をつけてもらって、なんと金貨21枚になった。

今回の依頼の金貨10枚より多いんだけど!!


カオルがギルドから出てきた。

「兄貴! 報酬とゴブリンの耳の換金で金貨42枚になったぞ! 耳の中に、ロードの耳があったみたいで滅茶苦茶驚いてたぞ! ロードの耳は金貨17枚だった! メイジとナイトも色がついて耳の換金を全部合わせると32枚。依頼達成で42枚ってことだな。さすが兄貴だぜ! ロードまで倒してたのか!」


カオルの機嫌がめっちゃよい。ギルドで賞賛されまくったらしい。 

耳の形で種類がわかるんだな。


カオルが、銀プレートで貴族だったので目立たない為には最良だと判断したのだが、予想通り問題なく報酬とゴブリンの耳の換金および洞窟から見つけたお金の受け渡しが完了した。


42枚と21枚を合わせて合計63枚だ。

三等分で一人21枚だな。

3人に21枚づつ配る。


ブランが泣き出した。

「こ、これもらっても良いんですか?」


「もちろん三等分だが、だめだったのか?」


「ブランどうしたんだ?」

カオルが心配してブランに質問する。


「今までやっとの報酬でしたが、今回は孤児院に入金できると思うとうれしくて」


ブランは、孤児だったな。

ブランが住んでいる神殿にある孤児院に興味がわいてきた。


「カオルは、これからどうするんだ?」

「俺は、兄貴についていきたいんだが、実は領地へ戻らなくてはいけないんだ」


「領地?」

「実は俺がいた領地は、メルクボルク王国と魔王が支配している地域との境界線にあるんだ。

常に魔王の軍勢と衝突をしていている。

まだ余裕があって数年は耐えれると思っているが、魔王の勢力は強大で劣勢にまわってきている。

少しでも領地を守る手伝いがしたくて、自分を鍛えるために冒険者になったんだ!

兄貴と偶然出会ってから凄い強くなった。今の俺なら少しでも戦力になれると思う。兄貴お願いだ、一緒に俺の領地に来てくれないか?報酬は払う!」


カオルが地面に頭をつけて土下座を始めた。

ちょうど召喚の絡みで、やな感じがするから王都を離れようと思っていたところだから、ちょうどいいな。

土下座してるカオルと、泣いてるブランのせいで道を行く人の目線も痛い。

早くここから移動したい。


「了解、ちょうどよかった。カオルと一緒に行こう」

「本当ですか! やった!」

「ええ! 師匠がここから消えちゃうんですか」

カオルがハイテンションでブランが泣き出すいつものパターンになってきた。


興味があったので、だいぶ暗くなったが神殿にある孤児院に向かった。


神殿と言っても、さほど大きくない建物で20人程が同時に礼拝できるほどの大きさで一階しかない。


「孤児院は、何処に?」


「こっちです、ここから地下に入れます」


礼拝堂の奥に地下へ続く階段があった。

階段を降りていくと、蝋燭を持った60歳ぐらいの神官服を来た女性が現れた。


「ブランじゃないか。無事帰ってこれたんだね」

「フリック管理官。ただいま帰りました」


「お客様もいるのかい? どうぞこちらへ」


案内されて、地下通路にあった大きな扉に案内される。

中に入ると大きな広間になっていて、10歳以下の子供達が10人ほど中で遊んでいた。

上の神殿に比べて地下施設の方がおおきいな。


「あ! ブランにいちゃんだ!」

「ブランブランだ!」

「ブランさんおかえりなさい」

「神官様おかえりなさい」

「お菓子買ってきた?」


すぐに子供達に囲まれてブランが、叩かれたり引っ張られたりしている。


「ここは、どんな施設何ですか?」


「ここは、孤児院で身寄りのない子供を12歳ほどまで預かる施設なのよ。お金は13歳になった出身者が働きに出て寄付してくれていて、まかなっているのよ。

ニーゼロさんかしら? ブランがいつもお世話になっております。最近は、戻ってくるとブランは、ニーゼロさんの話ばかりしてますよ」

深々と管理官と言われたフリックさんが頭を下げる。


「何故、地下施設なんですか?」


「昔は国で禁じられた宗教などがあって、隠れて活動していた邪教施設を利用しているので地下が広いんですよ。今は国教の女神崇拝の神殿になっています。地下の広い施設がもったいないので孤児院を地下に作ったの。人攫いなどの危険も少ないので助かってますよ」


広間を見ると、この広間だけでも子供が走って遊び回れるレベルの広さである。

壁に設置されているランプと天井の光苔のお陰か、相手の顔が見える程度までは明るい。


ブランが、子供達と遊び始めた。

カオルとの旅には、ブランを置いていく方が良さそうだな。


ブランが、持ってきた金貨を見てフリックさんが大変喜んでいた。

結構、きつい経営だったようだ。

今後はブランが稼いでくれるから安心かな。


カオルと私は一晩泊めてもらえる事になった。

晩御飯をご馳走になって、今は孤児院の一室でブランとカオルが三段ベットで寝ている。

私は体重が重いので、ベットを壊しそうだからベットに入らないでベットの前に置いてある椅子に座っているけどね。

椅子がかなり軋んでいる。


早めに今後の話をカオルの事情を話してブランにする事にした。


「ブラン、明日からカオルの領地に行こうと思うんだが?」

「ぼ、僕もついて行きたいんですが、孤児院に入金をして助けて行きたいので行けません」

「すまん! ブラン! 兄貴を借りる!」


「カオルさんの領地も心配ですし、師匠が行けばすぐに解決しますよ! 解決したら戻ってくるんですよね?」

「も、もちろんだよブラン」


嘘は言えないので、戻ってくるしかないな。


ブランのすすり泣く音が収まり、カオルとブランが寝たようだ。


インディ、ブランの装備を強化したいんだが可能か?

【可能ですよ。素体(ロボット)のナノマシンを装備に付与すればかなりの強化ができます。ただ減った分のナノマシンの補充として後で金属摂取が必要です。外見は体内を空洞にして誤魔化しますが、早急に補充してください】


体に空洞が出来るのか。体重が軽くなるからベットでも寝れるんじゃないか?

色々考えながら、ブランの神官の服を持ち上げる。

【この服の強化は難しいですね。制御チップをつけるほど厚みもありませんし、どうしましょうか?】


杖を見て思いつく。

杖に制御チップを入れて服と杖とブランの心臓とリンクさせてはどうだろうか?


【それは、可能ですね。杖と服を持ってください】


杖と服を持つと腕の偽装が解けて液体金属っぽくなったら服と杖を侵食していく。

服と杖がメタリックになっていく。


【2時間は動かないでいてください】

結構時間かかるのね。


ついでにカオルの皮の鎧と短めの剣も強化しておこう。


朝になった。

強化した装備をブランに説明して渡す事にした。


「おはようございます。師匠?」

「兄貴?」


二人が起きたが、もう少しカオルの装備の強化に時間がかかるので、部屋の真ん中にカオルの剣を持ったまま突っ立っていた。


【今終わりましたよ。強化内容は使えばわかるようにしてあります。両方とも杖と剣に全体を制御している進化するチップを機能で付けましたので、今後が楽しみです。エネルギーは血中と太陽光などから吸収しますので多用はできませんが、かなりの強化です】

大雑把だな。しかも進化って?


「別れると心配だから、ブランの装備を強化しておいたよ。カオルのはついでだ」


「うあ! 本当だ! ありがとう師匠」

「お! 俺の鎧と剣が新品みたいだ!」


シミやほつれがあった神官の服が新品のようになっていて、杖は少しメタリックに輝いている。

皮の鎧は空いていた穴が塞がり新品の光沢ある皮に見え、短めの剣は光り輝くほど磨かれているようになった。

ふたりの良いところは、どうやって強化したかを聞かない所だな。

聞かれても答えられないからな。


「あ、ありがとうございます」

「兄貴は、すげーよ」

ハイテンションなカオルと泣きそうなブランを見るのもこれで最後かもしれない。


朝食を孤児院で一緒に食べて、別れる事になった。


三人でパーティーからブランを外すキワードを述べる。


「神々に申します。ニーゼロは、ブランとパーティー解約を宣言する」


「神々に申します。カオルは、ブランとパーティー解約を宣言する」


「神々に申します。ブランは、ニーゼロとカオルとパーティー解約を宣言する」


全く仕組みがわからないが、ブランとの何かの繋がりが切れた気がする。

さすが異世界!


【今、これら異世界の現象を解析中です。終了しましたら報告します】


インディが、不思議な現象のカラクリを調べているが無理じゃないか?


「師匠! 今までありがとうございました」

ブランが、深々と頭を下げる。

私も異世界に来たばかりでブランに出会って多くを知ったので、逆に感謝なんだがな。


「またくるよ」

「ブラン、また戻ってくるぜ!」


私とカオルで、最後の挨拶をして別れた。

最後のブランは、泣かなかった。

私達が見えなくなるまで、ブランが神殿の前で手を振っていた。


必ず戻ってこよう。


朝食の際に、フリック管理官に情報をもらった。

フリック管理官は、礼拝活動で王城に出入りするので王城の情報に詳しかった。


シュウと言う人物の探索は、黒鎧の使い方がわからない為に探している事がわかった。

アイテム鑑定でとてつもない鎧だと判明して、大騒ぎになったらしい。

試しに装備しようとチャレンジした兵士達がいたが、誰も装備できなかったようだ。

黒鎧の制御システムが私だから、私がいないのに装備は無理だよなぁ。


アイテム鑑定ってなんだ?

異世界の魔道具かスキルを使用すると鑑定できるのだろうか?

そのうち私も調べておこう。


城を出るときに殺した騎士に関しては、ステータスが弱かった私が疑われておらず、誰が殺したか未だ調査中との事だった。

目撃者もいなかったようで、心配無用だったようだ。


街を歩きながらカオルに質問する。

「カオルの領地までどれぐらいなんだ?」

「馬で3ヶ月ですよ兄貴」


また荷馬車だな。

もう少し速い移動手段はないのかな?


「馬以外に船とか移動手段あるのか?」

「内地なので、船はないですけど竜騎士とかなら10日ぐらいですね。国家の最高峰騎士団だから無理ですけどね」

カオルが苦笑いする。


魔物図鑑に載ってたドラゴンを使役している騎士の事か。

非現実的だな。ドラゴンが空飛ぶ事自体に納得がいかない。

早く異世界に慣れていかないと駄目だな。


今回は、借りるのではなく荷馬車を買い取って、馬を購入した。

装備強化に使ったナノマシンの不足分は、武器屋などで金属部位が多い物を購入して、侵食して補充した。


かなりの出費である。

初めに貰った支度金や討伐で稼いだお金も、3ヶ月の旅の準備で半分ほどまで減ってしまった。

旅の途中で冒険者ギルドなどで、依頼をこなす必要があるかもしれない。


昼には買い出しも終わり、荷馬車に積み込んでカオルと一緒に街の外へと移動を始めた。


ブランの件もそうだが、過去の私では考えられない思考をしている自分に驚いている。

功績とは関係なく人の為に、動くとはな。

荷馬車に乗って旅の準備をしているカオルを見て思う。


街の出口までたどり着くと、昨日の門番が挨拶してくる。


「昨日はすまなかったな。良き旅を」


手を振って通り過ぎる。

カオルの領地へ向かって旅が開始された。


少し街から離れた頃にインディからメッセージが来た。

【預けている黒鎧の回収を開始しますか?】


ん? 今から王城に戻るって事か?

【いいえ、ここに転移させます】


ハァ? 転移の技術は知っているが、装置もエネルギー無いのでは?


素体(ロボット)と同化した囚人用ロボットに関してですが、小型核融合を搭載していました。

これは、個人で使用するエネルギー量で考えたら無限にエネルギーを使えるレベルであり、エネルギーに関しては無問題です。


装置に関しては技術的な問題があったのですが素体(ロボット)の元素レベル迄の加工機能と囚人用ロボットに入っていた転移技術があれば、いま製作可能です。


ここで一つの問題が発生しています。囚人用ロボットに何故、超最先端である小型核融合が搭載されて転移技術が入っていたのか理解出来ない。小型核融合で使われている燃料が私の時代には存在しなかった未知の元素である点も不可解です。

今後の解析と調査を実施します】


転移システムは、消費エネルギーと効果の採算が合わずに使えなかったと聞いていたが、まさかこの素体(ロボット)で使えるとは驚きだ。


確かに、高性能センサーも含めて囚人用ロボットの機能がおかしい。外装は骨組みで弱々しいロボットであったが、内部が今考えると元の世界で化物クラスのお金をかけて製作されている。

記憶が戻れば、何かわかるのだろうか?


黒鎧を転移する? 出来るならやってもらうか?

さすがに荷馬車を操りながらだと不安だな。


「カオル、少しだけ荷馬車の制御を頼めるかい?」

「余裕ですよ。任せてくれ兄貴」


新しくなった短い剣を荷馬車で磨いていたカオルが、馬の御者を代わってくれた。


荷馬車に座り込む。

やってくれインディ。


【現在、素体(ロボット)内部の小型核融合の隣に小型転移装置をナノマシンを利用して構築中。エネルギー発生装置に隣接させて最大エネルギーで起動出来るようにます】


全く仕組みがわからないが、よろしく頼む。


【装置構築完了。黒鎧との通信リンク確認。相対的位置関係座標確認。開始します】


体からスパークが走り青白い光が私を包み込んでいく。

明るくて何も見えないと思った瞬間に、黒鎧を装着して荷馬車に座っていた。


昔の変身ヒーローの変身みたいだな。


【原理はそれに類似しますよ。この世界を三次元の仮想空間と考えて、元素をエネルギーの塊と定義して世界全体をデータだとするとデータの位置情報を変更したに過ぎません】


さっぱり分からん!


「兄貴! どうかしたのか? だ、誰だお前は! 兄貴はどこだ」

カオルが黒鎧姿の私を見て驚く。

荷馬車の馬の操作を放置して、剣を構えてこちらを見ている。


「私だ。城に預けていた鎧を回収しただけだ。驚かせてすまない」

「兄貴なのか?」


フルプレート型の黒鎧の頭の部分の兜を脱いだ。


「驚いた! 兄貴だった! 凄い鎧だ。さすが兄……うぁあ」


馬を操作しなかった為に、荷馬車を引いている馬が道から逸れて荷馬車が停止した。

その為にカオルが荷馬車から投げ出された。


カオルらしい結末で僅かに笑ってしまう。

それを見てカオルが驚いていた。


「兄貴の笑う顔を初めて見たよ」

そういえばそうかもしれない。

不思議な気分だな。


囚人番号2019号内部規約説明


製品製造法

人工頭脳製作に関する規約


第15条

販売を目的とする物に関して、進化型のチップを搭載することを禁止する。

ただし、研究や調査に関する事例は例外とする。

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