001 極悪犯罪者、服役中に異世界へ
囚人番号2019号が私の名前だ。
時は宇宙開発時代!
火星がテラフォーミングに成功して第二の地球になっていて、様々な宇宙船が火星と地球を往来している凄い科学の進んだ世界である。
過去には地球や火星は一度滅んだらしいが、月にある優秀なルナと言う人工頭脳のお陰で復興したらしい。
私はどんな人かと言えば元は極悪非道の悪い人間であったようだ。
色々な極悪犯罪を犯して捕まって死刑宣告を受けたようだ。
記憶がないため、目が覚めてから執行官の説明を受けた内容そのままである。
この科学の進んだ世界の死刑は特殊である。
死刑になった際に脳の中身をデータ化して作業用ロボットへ移植して、過去の記憶を奪い去り法令遵守で決して破れない規約の元で行動させる。
元の体は、臓器移植などに使用されてなくなってしまう。
罪の重さによって長い時は、数百年間の期間を奴隷のように使われるのである。
私達のような、元死刑囚を周囲に見せつけて犯罪抑止力にしている訳である。
実際にこの制度になってから劇的に凶悪犯罪が減った。
刑期終了後は記憶が戻されて、後悔の後に解体される。
刑期終了後の記憶の回復には興味があるが、記憶を戻されたロボットは自殺したり廃人になったりすると聞いているので怖さもある。
最低限の活動しか出来ない骨組みだけの細い腕を見て、ため息が出る。
今の体は、骨組みだけの人型ロボットで弱々しい。
身体には、囚人番号の2019と描かれている。
それと、囚人ロボットである証明のために、腹と背中に丸にバツを重ねて描かれたマークが表示されている。
現在は、小さな配送会社に勤めている。
今日も一人で小型運搬宇宙船で地球と火星を往復していた。
「はぁ……臭い。来る日も来る日もバナナの運搬ばかりだな」
操縦室まで、はみ出た積荷のバナナを見てため息を吐く。
嫌がらせのように、食欲や性欲や睡眠欲などすべての欲求衝動は残されていている。
活動は最低限のしか出来ない弱々しいロボットなのだが、全てのセンサーは高性能で鋭敏に全てを感じ取れる。
しかし、骨組み人型ロボットの為に食えないし、スケベはできないし、眠る事も出来きない上に、法令遵守の為に勤務時間にサボる事も出来ない。
ロボットなのだが欲求があるに何も出来ない事は、
かなりの苦痛を感じる
記憶が制限されていて、どんな事をしたから死刑になったかわからないが、生前の自分のした極悪犯罪のことを後悔している。
この状態が、あと312年と2ヶ月と6日継続するのだ。
刑期は稼いだお金を寄付するか、模範的行動で脳の中に存在する囚人監視プログラムで判定されて軽減されて短くなる。
今の仕事の稼ぎだと、全てボランティアに寄付すれば100年近く短縮できるはずである。
早く解体されたい……
過去の歴史だが、火星のテラフォーミング成功後に、地球が不慮の事故で氷河期に入ったと聞いている。
地球から多くの人々が火星移住して火星の方が人口が多い現状になった。
それから月日が流れて地球は回復して、現在の地球は食料の生産がメインであり、火星の人々の食料工場となっている。
その為に火星への食料の運搬作業は、大忙しである。
ピーーー!ピーーー!
コックピットに、障害物検知警報が鳴り響いた。
この航路には、何もないはずだが?
レーダーで確認すると、前方に宇宙船がいた。大きさは小型宇宙艇クラスである。
エネルギー反応がなく、外装に破損した形跡もない。
「エネルギー切れで漂流しているのか?」
新しい法律の宇宙法の中にある宇宙運搬法に則り、漂流船の探索する義務が発生した。
逆らう事が出来ない為に、運搬船の速度を落として気密室へ移動した。
これで今回の仕事の遅延罰金で逆に赤字になってしまい、刑期が延長されてしまう。
最悪だった。
無視したいのだが法律を守らずに下手に逆らうと、思考回路に電圧負荷をかけられて、痛覚がないはずだが大変な苦痛を味わうのだ。
このシステムを作った奴は、悪魔だと思う。
自殺も考えたが思考を囚人監視プログラムが監視しているので、考えを改めるまで動けない状態で苦痛が継続したので、それも諦めた。
ロボットなので気密室から前準備などなく、そのまま漂流船へ向かって宇宙空間へ飛び出した。
漂流船に手についているマグネットで張り付く。
入口があるが開け方がわからない。
なんだ? 凄い旧式だぞこの船!?
通常は、外部から入口の開閉できる機能があるはずだが、ついていない上に私のデータベースにある情報の中にも存在しない船の形状である。
火星への移民前の船なのか?
シャトルのような形をしている船の先端に窓が付いていたので、船内を確かめに移動する。
外からの可視光線を通さない偏光ガラスで作られていて、中は見えないが赤外線センサーで調べる。
中の操縦席に誰かが座っているようだが、温度が生きている人間の温度ではない。既に死んでるのか?
突然背後が発光した。
振り向くと乗ってきた宇宙船が爆発している。
え!? あああぁ!
高速で小型の隕石が、飛来してきているのが見えた。
宇宙船に容赦なく、ぶつかっていく。
既に宇宙船が半壊して、バナナが宇宙空間へ拡散していく。
どんだけ運がないんだ!
この宇宙船って保険入ってたっけ?
運搬船も弁償となると払えないから数千年の刑期に!
と思っていた時に、こちらのシャトルにも隕石が飛来して貫通する。
シャトルには旧式の燃料が積んであったのか激しく爆発して私が飛ばされた。
そこへ先ほど操縦席に座っていた物体が、壊れたシャトルから飛んできてぶつかってきた。
思わず抱き合う形となった。
飛んできた物体を見ると、黒い騎士?
大昔のフルプレートアーマ―のような外見で真っ黒である。
マントまでしている。なんの冗談だ?
そう思っていると、さらに大きな隕石がこちらに迫ってくるのが見えた。
このままだと確実に衝突して私は壊されるだろう。
ちょうど航路に流星群が来るときに通過するとはな。
だが、これで刑期から解放されるかとおもってすこしほっとする。
この黒鎧がなんであるか知りたい好奇心と自分の記憶が戻らないのが心残りだが、まぁいいか……
迫りくる隕石を見つめていると目の前の黒鎧のマントが大きく開いて、私と黒鎧を包み込んだ。
なんだ! こいつ動くのか?
視界が真っ暗になり、体の自由が無くなった。
何が起きたか全くわからない。
思考の意識が……ここで途切れた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
目が覚めると、魔法陣が書かれている床の上に立っていた。
(絵:森山イツキ)
魔法陣? なんだそれは? なぜそんなことを知っているのだろうか?
身体を見ると……
え?
先ほど好奇心がわいた黒鎧の姿に自分がなっていた。
自分の記憶に知らない過去の情報が大量に入っていることが分かった。
黒鎧は遠い過去にルナという人工頭脳が滅んでしまった地球と火星を復興する際に活躍したロボットで、大変な機能が備わっている高性能な素体であったことも、火星で暴走した人工頭脳から地球を守るために戦っていた記録も残っていた。
だが、何故私が黒鎧になってしまったのか?
黒鎧の中に入って入る人型ロボットの素体のログを参照すると、素体のエネルギーと金属原子が時間経過で不足していて私が抱きついた事により黒鎧のオートプログラムのエネルギー吸収プログラムが発動して、私の体のエネルギーに反応して取り込まれたようだ。
その際に、空になっていた制御チップに私のデータが書き込まれて黒鎧の中に入っている人型の素体と同化した事になっていた。
液体金属とナノマシンだけで出来た素体なんて聞いた事がないが、素体に残っていたデータで全てを理解した。
納得だが……規約は残っているのか?
視界に、刑期用のメニューが表示された。
思考するだけで操作できるシステムである。
私の行動を監視しているログを見ると、刑期があと312年と2ヶ月と6日だったが救助活動によって素体を回収。その功績により刑期が312年と1ヶ月と6日になっていた。
ログが見えると言う事は、バックグラウンドで規約を守らせるプログラムは動いていると考えるのが妥当だな。
ご丁寧に服役のモジュールまで取り込んでいたのか。
少し期待したが、これでは今までと変わらないと言う事だな。
まわりを見ると、私以外にも2人の男女が立っていた。
大昔の学ランを着た男とセーラー服と言われる服を着ている女子だ。
魔法陣の周囲には、10人の魔法使いの様なローブを着た集団と剣や盾で武装している兵隊が15人。
背後に王様らしき姿の初老の人物と、その横に王女らしき美しい女性が立っていた。
「よくぞ参られた勇者様! どうぞこの世界をお救いください」
王女が、語り始めた。
「ど、どういうことだ! ここは何処?」
「映画の撮影ですか?」
学ランとセーラー服の二人が騒ぎ出した。
「大変もうしわけございませんが、あなた方を異世界から召喚させていただきました。私は、メルクボルク王国の王女でミキル・パウラと申します」
王女が深々とお辞儀をした。
召喚? 転移システムの事かな?
確か燃費が悪く採算が合わないから私の世界では一般的ではない。
「冗談だよね? これって異世界? 夢か? 凄い! まさか、異世界から来た人は特殊な力を持っているとかなんですか?」
男子が興奮している。
「私、そういう事に興味がないんですけど! 戻れるんですか? 戻してください」
女子の方は、冷めていた。
「大変申し訳ございませんが、戻る方法はありません。しかしながら勇者様には出来る限りの地位と名誉をお約束しますので、なにとぞ魔族を殲滅させていただきたく」
「戻れないってどういう事ですが! 勝手に呼び出しておいてそれって!」
「いいじゃないか、話をまずは聞こう」
女子の方は、怒っているが男子の方は少し笑っている。
「それでは、あなた方のお名前を伺ってもよろしいですか?」
「俺の名前は、三浦一馬だ! 17歳の高校2年です!」
爽やかな顔でカズマが答えた。
身長180cmでかなり痩せ型で、女性にモテそうな顔立ちをしている。
「私の名前は、吉良美鈴です。16歳の高校1年です」
身長165cmぐらいで、少しふっくらとした美人というより可愛いタイプの顔立ちである。
「…………」
私は、記憶がないので名前がわからない。
現在の名前が囚人番号2019号である。
外見はフルプレートの黒鎧で顔も見えない。
漆黒のマントを羽織っている。
なんと言って良いか分からず。
無言になってしまう。
沈黙が少しあったが、王女の横の王様らしき人物が話しかけてくる。
「私は、メルクボルク王国の国王をしているハゼル・パウラである。
黒鎧の騎士よ。無理に召喚したことは謝罪しよう。だがお主の名前を教えてはくれないか?」
仕方がないので、偽名を語ろうと考えた瞬間に全身に耐えがたい痛みが走る。
偽名を名乗るのは、身分偽証罪だからだ。
あきらめ正直に話そう。
「私の名前は、囚人番号2019号だ」
「シュウ・ジンバン・ゴウ・ニーゼ・ロイチ・キュゴウ? なんて長いミドルネームでしょう。異世界の貴族の方でしたか? もしや王族なのですか? シュウ様とお呼びしましょう。あとは、カズマ様とミスズ様ですね。まずは、いまのこの国のお話をいたします」
王女が思いっきり勘違いしているが、嘘ではないので痛みは無い。
「な? 囚人番号? き、聞き間違えか? シュウさんだな。覚えたよ。凄いカッコいい鎧ですね。私達の世界のヒーローみたいだ」
カズマがフレンドリーに話しかける。
「き、聞き間違えよね。囚人が鎧ってわけないもの」
ミスズも納得したようだが、疑いの眼差しを私に向ける。
現状の王国の話を王女が始めた。
「5年前に突如として魔王が復活しました。
魔人や魔族を従えて我が国に侵略を開始ししてきました。勇敢な我が国の騎士が食い止めていますが、年々領地を奪われています。
そこで、魔王は千年前に異世界から降臨した勇者によって封印された伝承がありましたので、勇者召喚を実施して皆様が呼ばれたわけです。
異世界から召喚された勇者は、ステータスに神からのギフトと言う特殊能力をもっていると聞き及んでいます。いまから確かめてもよろしいでしょうか?」
「おお! 不思議な力が隠されてるのか! ワクワクするな」
「わ、私にも? あったとしても魔王と戦うのですか? 無理です」
「ミスズさん、とりあえず確かめてもらおうぜ!」
「で、でも……」
「戻れないらしいし、隠れた能力で帰れるかもしれないだろう!」
「わかったわよ」
カズマとミスズが会話中に魔法使いの様なローブを着た人物が、水晶を持ってくる。
「そこに手を載せてください」
王女が指示してくる。
カズマが手を載せると、水晶に文字の羅列が表示される。
レベル1
職業 勇者
STR 121
VIT 215
DEX 109
INT 101
AGI 135
パッシブスキル
【共通言語解読】【経験値倍増】【勇者の祝福】【上限突破】【聖剣】
アクティブスキル
未取得
「これは凄い! レベル1で能力値が全て100を超えている。まさに勇者様だ」
水晶を持っていたローブを着た男が驚く。
カズマが照れ臭そうにしている。
この世界で言葉が通じている理由は、カズマの持っているスキルにある共通言語解読のおかげなのか?
そもそも、なんだこの水晶は?
ありえない……どうやって能力を判定してるのだろうか?
次にミスズが水晶を触った。
水晶に文字の羅列が表示される。
レベル1
職業 賢者
STR 78
VIT 132
DEX 102
INT 203
AGI 110
パッシブスキル
【共通言語解読】【経験値倍増】【賢者の祝福】【上限突破】【魔法の深淵】
アクティブスキル
未取得
「レベル1で知力が200を超えているだと! 賢者様だ!」
水晶を持った人がカズマの時よりも驚いて叫んだ。
ローブを着ている10人全員が膝をついて会釈をしてミスズに敬意をはらう。
「え、やだ! 凄い事なの?」
「凄いでは片付けられませんよ。王宮魔術士ですら何年も修行して200前後の知力になるのですが、ミスズ様はレベル1で既にそのレベルに達しています」
困惑するミスズに王女が説明する。
最後に私が水晶に触れた。
水晶に文字が……現れなかった。
「ど、どういう事ですか?」
王女のミキルが、困惑した表情を浮かべる。
「恐れながら申し上げます。シュウ様の鎧はアンチマジックの効力があるのではないでしょうか? 鎧を脱いでもらってはいかがかでしょうか?」
アンチマジック? 魔法防御の事だな。
過去の書物にあるが、空想のお話だったはずだが?
そもそも、魔法なんかあるわけないだろ!
「そういう事だったのですね。王家の秘宝である真実の水晶の効力を弾くとは! シュウ様、鎧を脱いでいただけませんでしょうか?」
考えたらフルプレートメールなので全身が黒鎧である。記憶に残るこの鎧の由来は、前の持ち主の趣味の外見らしい。
鎧の中に人型のロボットを素体として内蔵しており人間そっくりに偽装するシステムも組み込まれている。
脱いでみよう。
鎧のいたるところが割れていき、中の素体が現れる。
鎧を脱ぐのではなく、鎧から降りる感じで鎧から抜け出した。
イメージだと蝉の脱皮を正面で行った感じだ。
「おお! 鎧が割れていく!」
「なんて、精密な作りの鎧なんだ」
「カラクリなのか?」
周囲の騎士と魔術士らしき人が、口々に感想を言っている。
「きゃあァァァ!」
「お、お前!! シュウさん! 裸! 裸!」
ミスズが両手で目を抑えているが指に隙間が空いていて、こっそりこちらを見ている。
カズマが、驚いて裸である事を教えてくれた。
うお! 全裸かい!!
ミキルが、動揺せずに衛兵から布をもらって頬を赤らめながら布を持ってきた。
「シュウ様、これを着てください」
この世界の人々は、裸になれているのかミスズとカズマと違ってあまり動揺していない。
布を巻きつけて、再び水晶に触った。
水晶に文字の羅列が表示される。
レベル1
職業 平民
STR 7
VIT 5
DEX 4
INT 9
AGI 11
パッシブスキル
【共通言語解読】
アクティブスキル
未取得
広間に重い空気が流れる。
「平民? 勇者様ではないのですか? これは? 数値も平民の中でも低い方に属してますね」
水晶を持っているローブの男が困惑する。
先程、鎧を脱ぐように進めたローブを着た男が再び口を開いた。
「誤って召喚されたのでしょうか? そうであれば誠にもし訳ない。しかしながらそなたが着ていた鎧は興味深い。ぜひ譲ってもらいたいのだが?」
「王の前ですよ。口を慎みなさいべネス王宮魔術士長!」
ミキルがべネスに一喝した後に、私に振り向き謝罪した。
「申し訳ございません。シュウ様」
別に気にしていないのだが?
「まぁ、大体は理解してもらえただろうか? こちらの都合で呼び出してしまった事は、申し訳ない。だが我らも民を救う為なのだ。それをわかってもらいたい。今日のところは、部屋を用意したので休んで明日からまた説明をしていきたいがどうだろうか?」
王様のハゼルが話をまとめた。
「わかりました。本日は休んでから明日にまたお話を伺いたいと思います」
「わ、わたしも、そうする。突然の事で頭がまとまらない」
「では、勇者様と賢者様はこちらへ」
謁見の間だと思われるこの場所から、騎士に案内されてカズマとミスズが出て行く。
「シュウさん。お先に! はじめはカッコいいと思ったけど、外見通りじゃなかったんだね。弱!」
カズマが、部屋を出るときに一言私に言うと出て行った。
「さて、そなたの待遇なのだが過って呼び出したと思われる。平民か。残念じゃな。謝罪で金貨を渡すので、城を出て行き自由に生きなさい。鎧はこちらで預かっておこう」
ハゼルが、カズマとミスズの二人が外に出たら豹変した態度を取り始めた。
預かって? 取り上げるつもりだが建前でもそう言ってくれて助かった。
もしも『買い取る』や『置いていけ』と言われたら断れなかったかもしれない。
今の状態は、自治区による法令例外区域にいる事になる。
この国では、王様の発言は全て法律適応だと考えられる。
法律に逆らえない規約の私は、王様に逆らえば苦痛が襲ってくるだろう。
預かりならば、あとで回収すれば良いだけだ。
とにかく、身分によって態度が豹変した事から見て、ここは危険だ。直ちに城を出たい。
「わかりました。王様の寛大な処置ありがとうございます。直ちに城から出て行きます」
膝をついて礼をした状態になる。
「おお、わかっているじゃないか平民。マッツエル、こやつに金貨一袋を渡して城の門まで案内してやれ」
「わかりました」
背後控えていた、小柄な騎士の一人が私を案内してくれた。
王女の前を通ると憎しみこもった声で言われる。
「平民の裸を見せられるとは、殺されなかっただけでもありがたいと思いなさい。お父様の寛大な心に感謝しなさい」
うぁ、この国は駄目かも。早く逃げたい。
身分による差別が酷いのだな。
万が一にも前の世界では囚人で、法律に逆らえない事がバレたら奴隷のように使われる気がしてきた。
背後のドアが閉まって、謁見の間から抜け出せた。
自分の都合で召喚したが、いらないから捨てる感じの追放だがありがたい。
何しろ、ロボットの集音システムでドアの向こうの声を拾うと恐ろしい話をしている。
残っていたら勇者でも奴隷のような感じになりそうだ。
「勇者と賢者の契約は、無事終わりました。召喚後1時間以内に名前を聞いて契約すれば従属完了です。ただシュウと言う平民が、何故か失敗しました」
「あやつは、間違えで呼ばれたのだろう。平民なのだから、あの長い名前は嘘……」
王様と宮廷魔術士長が会話しているようだ。
離れていってるので途中で聞こえなくなった。
まぁ、囚人番号は呼び名であって実名は私も知りたいよ。
城門に辿り着くと、マッツエルと言われた騎士が金貨の入った袋を私に渡した思ったら、私の手から強引に取り上げた。
取り上げた袋から1枚だけ金貨を出して地面に投げる。
「ほら拾えよ平民! 騎士の俺様がなんで案内しなきゃならねんだ。手数料で金貨はもらっておくぞ。さっさと行きやがれ」
バキ!
「う! イッテー!」
思い切り蹴りをいられるが、私はもちろんロボットなので硬い。
蹴ったために逆に自分の足にダメージを受けて、脛を抑えてマッツエルが唸っている。
生身で鉄筋に思いっきり蹴り入れれば痛いよな。
「貴様! やってくれたな」
自爆しただけだが逆恨みされた。
ん? 閃いた! 異世界だが自治権があるこの国の法律を聞いておこう。上手く対応できるかもしれない。
「この国の法律に正当防衛はあるのか?」
「は? なんだその正当防衛? 知るかよ! この国は強い奴が偉いんだよ。お前みたいな平民は、黙って騎士様の言う事を聞きやがれ」
腰に下げている剣を抜剣して来た。
この国は、どうなっているんだ?
「この国は、人を簡単に殺して良いのか?」
「さっきから、生意気だな。弱いやつは殺してもいいんだよ」
それを聞きたかった。
バシュ!
思いっきりマッツエルの顔面を殴った。
衝撃で胴体から頭が捥げて頭が飛んでいく。
返り血が飛んできたが上手くかわした。
この国では弱い奴は殺しても良い。了解したよ。
死体の腰に付いている金貨が入った袋を回収する。
落ちている金貨一枚を拾って金貨が入っている袋に戻したら、城の門から見える街へ向かって歩き出した。
囚人番号2019号の内部規約説明
宇宙運搬法
第452条 遭難者の救助
宇宙空間で宇宙運搬に関わる者は、遭難していると思われる宇宙船を発見した場合は調査と救助する義務が発生する。これを守らない者は、宇宙運搬資格の剥奪とこれによって発生した損害を全て賠償する。
自治区による法令例外区域
宇宙法の範囲内でも自治区では、その地域特有の法律が適応される。自治区内の法律は宇宙法の権限の上であり自治区での活動は十分注意して行う事。
身分偽証罪
自分自信の名前や身分を偽って第三者を騙す行為は違法であり、それで発生した損害を第三者へ支払う義務が発生する。自分に騙す意思がなく第三者が勘違いしている場合は例外とする。