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魔力の従属者

『ねーねー!茜ー!この椎茸の出来損ないみたいなのは食べられるんじゃない?』

「ん?あぁ、それはニセクロハツと言ってね、確かに見た目や形状は椎茸というよりクロハツみたいなナリをしているけど猛毒キノコだから食用には無理だね。おっ、こんな所にエノキタケ発見。フフッ、やはりこの森は神秘の大地だね。まさに感動ものだよ……(///)」

「………はぁ」

美菜はキノコ狩りを楽しむ茜と夕を見ながら溜息を突いた。何故、こんな状況でキノコ狩りを楽しめるのか楽観的な二人に対して呆れていたのだ。が、変人の行動が美菜に理解できるはずも無く見ていることしかできなかった。……ミューを待ってから大分時間は経つ。そろそろ先生に報告した方がいいのだろうか?何か事故に巻き込まれたのかもしれない……そう、例えばどこかの沢に滑り落ちたとか、ヒグマや山賊の類に襲われたとか、……そんな事は考えたくは無いがさすがに心配になってくる。言いようの無いかすかな不安に押しつぶされた美菜の頭の中はマイナスイメージなことしか思い浮かばなかった。

「おや?美菜さん、君はキノピオ狩りを楽しまないのかな?」

茜は両腕に狩った大量のマイタケを抱え不思議そうな顔で美菜にそう尋ねた。

「………楽しそうね、茜さん」

美菜はその質問にはあえて答えなかった。それが拒否を意味していると茜が察してくれると思ったからだ。

「ん、美菜さんは楽しくないのかい?」

「……茜さん、この状況よ?楽しめるわけ無いじゃない……はぁ」

「溜息なんかついて、らしくないじゃないか美菜さん。いつものあの元気な美菜さんはどこにいったんだい?」

「私は茜さんがどうしてこの状況で何で冷静というよりキノコ狩りを楽しめるか理解できないんですけど」

茜は自然体で聞いてくる。今の状況をよく理解していないから仕方ないのかもしれないが……美菜は聞き返さずに入られなかった。

「フフッ、分かってるよ大体ね。ミューさんやルルーさん達が行方不明なのだろう?」

「っ!?じゃ、じゃあどうして……!?」

何故、茜がそのことを知っているのか気にはなるが、ピピーンと何かの電波でも受信したのだろう。今はそんなことより茜の返事に対して美菜は不思議でならなかった。

「だからこそ、だよ。……そうだね、美菜さん。君は直人君の毒キノコを食べた事はあるかい?」

「ど、毒…きのっ!?ちょっ、なっ、いきなり何言い出すんですか茜さん!?(///)」

『?ねぇー美菜、直人の毒キノコって何?』

「お、お子ちゃまのあんたは黙ってなさいっ!(///)」

『ひ、ひどっ!な、何よそれー!教えなさいよー!うー!』

夕は恨めしそうに美菜の周囲をブンブン飛び回るが、美菜はスルー。というより、スルーしなければ色々アウチな内容だったからだ。

「美菜さん、私の質問に答えて欲しいな。君は直人君の毒キノコを食べた事はあるかい?」

茜は涼しい顔して引き続き美菜に尋ねてくる。自分が何言っているのか分かっているのかしら茜さんーーー美菜は顔に熱を感じながらそんな事を考えていた。

「あ、あぁ、あああるわけないでしょっ!?(///)……ま、まさか茜さん、も、もしかして」

「あぁ、おいしかったよ」ニッコリ

「え、えぇええええ~~~~~~!?」

「……という風にね、心にもゆとりが必要なんだよ美菜さん」

「………」

「ん、どうやら私のアメリカンジョークは美菜さんには伝わらなかったようだ。ということで夕さん、後のフォローよろしくね」

『えっ、ちょっ!?何コレ!?ここで私にキラーパス!?えー……な、何か美菜の様子が可笑しいんだけど?うっ……さ、殺気が……』

「美菜さん、私が味わった直人君の毒キノコ『もどき』はこの山にいっぱいあるよ」

『だ、だからぁーさ、さっきから美菜と茜は何の話をしてるの?って、うっ……み、美菜……』

「フッ、フフ……」ユラ……

背中にどす黒いオーラを抱えた美菜はあきらかにさっきの様子とは違い、今にも誰か近づこう者がいるなら喰い殺してもおかしくないような佇まいだった。

『ひっ……み、美菜?』

「いいわよ……やってやろうじゃない……キノコだろうがキノピオだろうが毒キノコだろうが……引っこ抜いてぐっちゃぐちゃに噛み千切ってやるわよ………フフ、フ……夕ッ!来なさいッ!引っこ抜いてやるわよ!あの男のブツをッ!金的をッ!」スタスタ……

『い、いえっさー!』

そして美菜は怯える夕を引きつれ、茜の元から離れていった。茜は少し笑みを浮かべた。

「フフ、そうだよ美菜さん。マイナスなイメージを考えたってしょうがない……せめて無事を祈って今は楽しもうじゃないか……人はそれを現実逃避と称するけれど、ね……」

茜は少し寂しげな表情を浮かべ、美菜達を見つめる。

「うぉおおおおおりゃぁあああああーーーーーー!!!!!!」ブチッ、ブチッブチッ

けれど少し直人君に悪い事をしたかな?と思いながら茜はまたいつもの笑みを浮かべ、自分もキノコ狩りを再開し始めた。






「………」

懐中電灯の僅かな光に浮かび上がった人物は周囲の暗闇と溶け込むような漆黒のローブを羽織っており、目元はそのローブで隠れ、口元の白い肌が浮き立っている……その様はまさに物言わぬ影、とでも称すればよいのか。

「……お前は誰ですか」

ミューは目の前にいる物言わぬ影に対して警戒を怠らない。

正体がハッキリしない以上、近づけない……現に先ほど、どのような攻撃か暗闇のせいで見当もつかないが下手すれば致命傷も負いかねない襲撃を受けたのだ。この状況で警戒しすぎることは生き物としての普通の反応である。

「……その微小な魔力、貴様……魔力の従属者か?」

物言わぬ影がそう言う。

ミューは内心驚いていた。此方がいくら何か言おうとも物言わぬ影は何も答えぬことを予想していたのだ。

…が、それはミューに対する質問の答えにはなっていない。

「……お前が何を言っているか分からんですが、質問を質問で答えるなです」

「そうか、魔力の従属者だとすると……魔力を分け与えた人物が存在する……」ブツブツ……

物言わぬ影、いや、正体不明の人物はもうミューの話を聞いていなかった。

「みゅ、みゅーちゃ~~~んっ!この黒の騎士団みたいな格好をしている変態さんは誰なのぉ!?」ガクプルガクプル

だからそれはお前が言える台詞じゃないないだろう、とミューは心の中でツッコンだが今は目の前の正体不明の敵に集中しなければならない。むしろこの場の空気の読めない能がお天気てっかてかな発言をするカマ野郎に対して少し殺意を覚えたぐらいだ。

「……そこの、筑前煮はお前がやったのですか?」

「……?筑前煮……?……あぁ、この男の事か。知らぬ、私がここに現れた時には既に倒れていた。ただの露出狂であろう」

筑前煮で通じたのは驚きだが、この物言わぬ影は嘘は言ってなさそうだ。現に倒れているとは言っても気絶しているだけで大事には至らない。今はそれより……この物言わぬ影が何者であるか、何を目的にミュー達に攻撃を仕掛けたのか……敵の素性を知らぬ内に迂闊に手を出すのは危険だ。そう心の中で判断したミューはその場で警戒を解くことなく構えていた。いざという時に一般人もとい堂島オカマを巻き込まぬよう逃げる決断を迫られるやもしれない、それが叶わぬのなら最悪、目の前の正体不明の敵と闘わねばならない……いずれにせよ万が一の時に供える必要がある。

「では今度は私から質問だ。貴様から感じる微小な魔力、宇宙の塵屑にも満たぬほんの些細なエーテル力ではあるが………魔力の従属者で間違いあるまいな?」

「………」

ミューはさっきと同じ質問じゃねぇですか、意味不な専門用語ペラペラだべってんじゃねぇですこの電波ハゲとか心の中で思ったが、それは口にしなかった。魔力というと一人のおっぱいでいっぱいな魔法少女ルルーの事を思い浮かんだからだ。そして、魔力の従属者……魔力を分け与えられた者、とでも解釈すればいいのだろうか。そう解釈すれば納得できる、自分はルルーの半端な魔力によって動物人間ハーフにされた……辻褄が合う。だが、それを正直に目の前の正体不明の敵に告げるわけにはいくまい、危険すぎる。なら否定するか?しかし、少なからず目の前の正体不明の敵は何やら感じ取っている。……それは軽率な嘘をであると言えよう。どちらにせよ良好な先は見えないのなら……

「……私がお前の言う『魔力の従属者』、だとしたら……お前はどうするんですか」

それは聞き様によっては自分が『魔力の従属者』であると肯定しているようなものだ。しかし不確かな返事でもある。その不確かな返事、すなわち肯定と拒否の中間をミューは選んだ。






「消す。魔力の源は勿論の事、魔力に少しでも関わった人間も皆」






「……っ」

ミューはこの返答で肝を冷やした。

単に台詞に、という意味だけではない。自分の返答に対しての奴の態度にも、だ。

ミューは前の返答の後、いつでも奴が襲い掛かってきても対応できるよう構えていた。

自分の返答が不確かなものであると同時に肯定的な意味を含めた返答でもあるのは自分でも十分に理解していたからだ。なので奴が自分の返答を聞いた瞬間、襲い掛かってくるのは自明の理……とは言い過ぎかも知れないがそう予想していたのだ。なのに奴は自分の返答を聞いた後も淡々と、いや堂々と構えているのだ。……それが意味する事は一つしかない、それは……『余裕』。貴様らのような宇宙の塵屑共に手を下す事等動作も無い……ミューにはそう言われているような錯覚に陥ってしまったのだ。傍から見れば、いやいや考えすぎ、つーか深読みしすぎでしょアンタ?とか思われるかもしれないが、ついさっき自分達は曲がりなりにも命を狙われたのだ。そういう風な錯覚に陥るのは仕方ない事であろう。こうなれば例え動物人間ハーフであるミューであろうと正常な判断が困難となる……

「みゅっ……」ヨロ……

「ミューちゃんっ!?」

後ずさる、それは動物としての本能。ヤバイ、やばすぎるという感覚……危険信号、もう目の前の正体不明の敵から逃げなければならない、が、それができない。もつれる、感覚の中では逃げなければならないと発しているのだがそれと恐怖感が絡み合って実際の行動に移せない……心配する堂島の声は届くが響かない、全身の感覚が既に麻痺しているのだ。

「……どうした?私の質問に答えて欲しいな、『愚かなる人間』よ」

それは死のカウントダウンを告げる合図であった。

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