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見えざる敵

「……止まるのです、堂島。前方に不吉な……いえ、怪しげなオーラを感じます、みゅーん」

堂島オカマの背中を押しながら歩を進めること数分後、ミューは前方から何かを感じ取ったのか堂島の肩を掴んだ。

「え、な、何っ!?何なのミューちゃん!?も、もしかして……裸のお侍さんが出たのぉ!?」

「いつまで引っ張るんですかそれ。違います、暗くて分からないのですが、私達の前方に何かいます……クンクン」

ミューは磨きが掛かった己の嗅覚を利用して正体不明の匂いを探り始めた。しかしながら周囲の色々な匂いがミックスされてその中から正体不明の匂いを探り当てる事は不可能に近いものであった。

「みゅーん、色々な匂いが混ざって何が何だか分からないです……」

「ね、ねぇ……?ミューちゃん?」

堂島は頬をほんのり染め、両の指先をチョンチョンと突きながらミューに話しかけてきた。

「みゅーん、何ですか?」

「その……ね?ミューちゃんのお鼻って……その敏感なんだよね?」

「……そうですが、それが何か?」

「そ、そうっ……(///)」

「……?」

堂島オカマは腕で胸を隠し、徐々に後退しながらミューから離れていく。その姿はさながらケダモノに追われ、最終的に行き止まりで追い詰められた美少女が見せるような動作だった。

「……みゅーん、何ですかその気持ち悪い動きは。言いたい事があるならさっさと言えです」

「………お風呂入ってないの(///)」

「……みゅ?」

「だ、だからそのっ……!私、お風呂入ってなくて……!その、ミューちゃんが……クンクンハァハァ周囲の匂いを嗅いでるんだよね……う~っ、は、恥ずかしいよぉ~~~(///)」

「………」

ミューは最初堂島が何を言っているのか分からず、目の前で両手で顔を覆ったり、モジモジしたりする堂島オカマを呆然と見つめていた。それも数秒後、ようやく意味が分かったミューが取った行動は。

ガスッ!

「いったぁーい!(泣)」

何故か妙にイラついたのでとりあえず堂島の尻を蹴っておいた。

「……堂島。懐中電灯を貸せです」

「ミューちゃんひどいよぉ……しくしく」

シクシク泣き出す堂島を無視してミューは堂島から懐中電灯を分捕り、前方を懐中電灯で照らした。

「……みゅーん、あれは……」

「……ひっ、ぎゃぁあああああああああーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!死体ぃいいいいいいいいいーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」

懐中電灯のライトで照らし出されたものは………ブリーフ一丁の男だった。道端で大の字で仰向けで倒れていた。

「みゅーん、死体じゃないです。この男は生きています……」ペタペタ

ミューは死体もとい肢体の手首や胸を触っていた。手首を触ると脈があったので生きている事は確認済みだ。

「ひっ、みゅ、みゅーちゃんっ……!そんなペタペタ触って……!死姦!?死姦なのっ!?痴女!ミューちゃんはまごうことなき痴女!」

「誰が痴女か」

ぱちこーん

ミューは流れるような動作で堂島オカマの左頬にキッツイビンタをお見舞いした。

「いやぁーん!いったぁーい!」

堂島オカマはその場で地面に座り込み、ピーピー泣いていたがミューは構わず男の身体を調べる。しかし真夏とはいえ何故こんな所にほぼ全裸に近い男が倒れているのだろうか?特に外傷は見られないが……さらに上半身にライトを照らすとミューはこの男に見覚えがあった。

「みゅーん、この男は………筑前煮太郎」

夕食の頃、夕と堂島オカマと夕食を巡って言い争っていた男だ。

「そ、その死体(仮)……あ、あのキ●ガイおちん●野郎なのぉ!?」

「それはお前が言える台詞じゃないですよ。……ムッ!」

ビュッ、バンッ

「きゃん!」

不意に前方の暗がりから妙な気配をいち早く感じ取ったミューは咄嗟に横にいた堂島オカマの身体を後方に押した。それは堂島オカマを危険から遠ざけるためのミューなりの咄嗟の判断だった。

「……っ」

ミューは己の右頬に温かな鮮血が流れるのを感じた。危なかった、ギリギリの所で暗がりからの謎の攻撃を避けたが、一瞬でも自分の判断が遅れたていたらーーー………ミューは背筋に少し寒気が走った。場に緊張感が走る、堂島は自分の後ろで痛いぃ~とか唸っているが、ミューの心境は冷や汗ものだった。何かいる、しかし前方は視界が真っ暗で何も見えない。だから四方八方、次はどこから謎の攻撃が来るか分からない。唯一の安心と言っていいのか分からないが、足場は懐中電灯の僅かな光で照らされているので全くの暗闇という訳では無いこと。しかしその安心は同時に危険にもなりうる。その僅かな光が自分達の現在位置を特定し、見えざる敵にとっての有利でもあるからだ。かと言って、懐中電灯の光を消す事は完全の暗闇を作ることなのでそれはできない。逃げ場ではない、ここは攻め場なのだ、とミューの頭の中ではそれを覚悟の上で土俵の上に立っているのだ。

「堂島、決して私の傍から離れるのではないですよ」

ミューは胸の奥で緊張感を携えながらも、反面冷静な気持ちもあった。こういう突然の事態に陥った時にどういう判断をすべきか、己の度重なる経験がミューの気持ちに僅かな落ち着きをもたらせたのだ。しかし、ここで予想外な事態が起こる。

ザッ、ザッ、ザッ……

「……っ」

前方からの謎の足音……それが自分達に近づいてくる。……まさか、馬鹿な。それ以上此方へ近づくということは姿を見せることになる。……正気か?さらなる意味不明な謎の敵の動きにミューは戸惑いの表情を見せる。そして、土を踏み締める謎の足音は近づくにつれて徐々に大きくなり……ついにはミューの持っている懐中電灯の僅かな光はその謎の何かを照らし出した……

「みゅっ、お、お前は……」






同時刻、美菜と夕は神社へ向かう階段と奥へ向かう道の二方向に分かれる位置で未だにミューチームの通過を待っていた。

「……来ないわね」

『……うん、来る気配すら感じられないよね』

もう、ここでミューチームが通過するのを待ち始めて30分くらい経つ。美菜達がここに来るまで要したのは僅か15分程度。いくら遅くても時間が倍かかるのはおかしい。特別、罠といった罠も仕掛けられていないし、山道は真っ暗だから不気味といっちゃあ不気味だけど何てこと無い道だ。それにもう一つ、もっとおかしい事がある。

「ここに来た他のグループにミューを見ていないか聞いてみたけど皆『見ていない』の一点張りだしね」

『美菜……グループが来る度に相手の胸倉を掴んで問いただすのはどうなの?(汗)』

「いいのよ、それやってるのクラスの男共だけだし。あんたも直人見ていたら男がどういう生き物か分かるでしょ?万年青春期野郎共にはちょうど良い薬なのよ」

『いや、直人はかなり特殊な例だと思うけど……(汗)』

そう、この分岐点まで来たほかのグループにミュー達を見ていないか聞いてみたが、いい返事は得られず皆口を揃えて目撃していないとのこと。これがおかしい。この分岐点までは分かれ道だとか迷子になりそうな道は無く、道なりに歩いていけば必ずこの分岐点に辿り着くはずなのだ。舗装されていない道とは言っても、土の道は出来ているし、懐中電灯は支給されているのでまず迷う事が無くこの肝試しは行われている。道に迷うような肝試しにすれば下手すれば遭難するチームも出てくるだろうし、そうなれば大騒ぎになってこの林間学校がオジャンになってしまう。だから、絶対遭難しないような道を肝試しの場として選んだのだ。迷うとすればこの分岐点、しかし階段が傍にある時点でゴールの神社はこの階段の先にあるのは日光サル軍団だって分かる。なのに……何故?何故、未だにミューチームはここに来ない?何故、どのチームにも目撃されていない?

「いよいよミステリーじみてきたわね」

『ミステリーとかじゃなくて道の脇でおトイレ済ませているだけじゃないの?』

「どんな痴女よ、いくら真っ暗闇でも他のチームが懐中電灯持って徘徊している最中にそんなことしないでしょ。それに、あのオカマン(※堂島)もいるんでしょ。絶対無いわよ」

『うーん……っ!?』

「うっ、な、何!?だ、誰!?」

美菜と夕が話していると先ほど通った道の方からいきなり懐中電灯の眩しい光が美菜と夕を包み込んだ。






「おっ、やぁ。美菜さんと夕さんじゃないか、こんな所で奇遇だね、フフッ」

懐中電灯の光で美菜と夕を照らした人物は藤崎茜という意外な人物であった。暗くてはっきりとは確認できないがあのおどけたような人懐っこい笑みを浮かべる彼女は確かに藤崎茜という人物像を抽象的に表していた。

「あ、茜さん……!?ど、どうしてこんな所に……!?違うクラスだから違う場所で林間学校のはずじゃ…!」

『そ、それにその……川口浩探検隊みたいな格好は何なの?(汗)』

「フフッ、どうやら私は人気者のようだね。でも、質問は一つずつにしてくれないかな?じゃあ、まず美菜さんの質問から答えるね。私がこんな場所にいる理由は大地の神秘が私を呼んだからだよ、フフッ」

「は、はぁ……?」

「ここには相当の高密度な霊的なモノを感じるんだ。高密度な霊と言えば夕さんがそうなんだけど、もっと強いモノを多数感じる。波長が合わないから見えはしないけれど、今でもビンビンに感じるよ、フッ、フフ……」

茜は大変満足そうな笑みを浮かべて腕を組みコクンコクンと頷いていた。

『(ね、ねぇ……?美菜、この人何を言ってるの?ぜ、全然意味が分からないんだけど……(汗)』

「(不思議な人、茜さんを一言で表せばそうなるわね……つまりは変人なのだけど)』

『(……?)』

「変人は私のデフォルトだよ」ニッ

茜はいつの間にか美菜と夕の真後ろに移動していた。

「わっ」

『ひぃ!び、びっくりしたぁ……お、脅かさないでよね!心臓止まるかと思ったじゃない!』

「夕、アンタの場合、心臓止まってるのがデフォルトじゃない」

『……あ。そ、そうねっ、って何かそれ何気に酷くない?』

「フフッ、驚かして済まないね。じゃあ、夕さんの質問に答えようか。川口浩探検隊とは……これまたレトロなところを例に挙げてくれたね。夕さん、君はいつこの世を去ったんだい?』

『し、思考がレトロで悪かったわね!そ、それよりどうしてそんな格好になったか聞かせてよ!』

「おっと、また話が逸れてしまった。まぁ、先ほど私はこの地に神秘を感じてここに訪れた、とそう言ったよね?」

『……言ったの?』

「……さぁ、言ったんじゃない?」

「神秘を感じる地には無限の可能性がある。その可能性を求めて私はこの地で探検もどきをやっているんだよ。まぁ、川口探検隊みたいなやらせみたいな事は無いんだけどね」

『……やっぱり私この人の言っている意味理解できない』

夕は難しい顔をして、その辺をウロウロ浮遊している。

「……まぁ、この森にその神秘性を感じるのと同時に何か不吉なモノも感じるけどね」

茜は少し俯いてそう言った。美菜はその普段と違う茜の様子に何か不安を感じて問う。

「不吉なモノ………あ、悪霊とかですか?」

「そんなの比にならないよ。確かにそういうのも少しは感じるけれど……もっと、もっと大きな何かを感じるね……」

ビュウウ……

夏の森は冷風という名の凶風で冷やされる……その風はこれからの展開を示唆するものであった。

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