おませな千夏たん
「千夏〜お弁当とテッシュ、それにハンカチは持ったの〜?」
「もぅ〜大丈夫だよぉ、千夏もう子供じゃないんだし。それじゃあ、行ってきまーす」
何処か不安そうな顔で私を見つめるお母さんだったけど、私は意を決して表を出た。
今日から私、美影千夏は小学六年生。つまり、今日は始業式の日なのです。
でも……だからと言ってドキドキもワクワクもしない。かといって、気落ちしているわけでもないけれど……あ〜、もう最高学年かー、ふへぇ〜………そんな感じだ。何か……何か、足らないような気がする。
「ふへぇ〜〜〜………」
家の前のコンクリートの塀に体重を預け、小学生らしからぬ溜息を吐く。
別に今の小学校が楽しくないわけではないけれど………何か平和、平和、平和すぎる。
お友達とお喋りしていても……ありきたりな昨日のテレビの話やら、恋バナやら、旬くん好きスキ〜やら、その他うんたらかんたら………友達の付き合いだからある程度は話を合わせる様にしているけれど。
正直言って、ありきたりで、平和で、平凡で、退屈で、ノンセンス。
これから、ふっつうに生きて、食べて、大きくなって、中学校行って、高校行って、大学行って、働いて、結婚して、子供を授かって、歳喰って、老いて、死ぬ………こんな平々凡々な一生嫌だ、嫌……とは言ってもそれに逆らえない自分もいる。OH、何て世知辛い世の中なのだろう、ふへぇ〜……
「ふへぇ〜〜〜………」
ゆとり教育じゃないけど、心にもゆとりが欲しい。
いや、多分これが世間様々にとってゆとりある生活なのだと思うけど。おっと、いけない。そろそろ低学年のお子様達がゾロゾロ私に群がってくる時間帯だ。いわゆる集団登校という奴だ。こんな辛気臭い顔してるとオチビちゃんが『おねぇちゃ〜ん、どうしてそんなへんなおかおしてるのぉ?』と無邪気な笑顔で素でそんでもって真面目な顔して聞いてくる………こういうのは正直対応に困る。無理矢理、笑顔作って『なっ、なんでもないよぉ〜?』ニヤリ、するとチルドレンは私に指差して『キャハハハハハハ、へんなかおへんなかおへんなかおー』………正直殺意が沸いたね、あれは、人に向けて指差すな、常識だよ?チミ達?ちなみにコレ、マイ実話。ネガティブシンキングな私だが、それでも唯一、1日の内でこんなちっぽけな私にも楽しみがある。おっと、そろそろな頃合かな?私は顔を上げて、目の前の、向かいの一軒家に視線を移した。
「ほらっ!とっとと学校行くわよっ!直人っ!」
真っ先に出てきたのは腰まで伸びた赤色のロングのお姉さん。確か……美菜さん、だっけ。
「う、うむんっ………す、すまないが美菜、僕の耳元で野獣のような大声で叫ばないでくれないか、えへへ」
次いで美菜さんにアイアンクローをかけられながら引きずられていくメガネで長身の男、コノヒトは1番印象深い、直人さんだ。なぜか、直人さんの格好は寝間着………チン○ル仕様の。すこぶる趣味が悪い。
「うっ、う〜……ま、まだ眠いですよぉ〜〜〜………スカー」
さらにこちらは目を擦りながらのそり、のそりと……カバのような動きで出てくる………え、この人は新顔、新たなヒロイン?とりあえず、金髪のロング、おっぱいバズーカな人。
「ちょっ、ルルー!立ったまんまで寝るなっ!……ったくあんたら春だからってダラケ過ぎじゃないの?」
ルルー、おっぱいでいっぱいなあの人はルルーって人らしい、メモメモ。
「みゅーん、それは仕方ないですよ美菜。正直、私も眠いです……みゅーん、そこの変態さんのおかげで」
さらに……新たなヒロイン登場、おっぱいの次はロリでウサっ娘か。ロリでウサっ娘はチン○ル仕様の直人さんの方を向き睨む………萌えぇ〜。ついでにチン○ル萌えぇ〜。
「うむ……すまないね、ルルー、ミューたん。つい……彼女の背中が恋しくなってね、ウフフ」
「みゅーん、何を言ってるんですか貴方は」
「………」
おっ、最後に出てきたのは確かあれは妹さんだ。えと……まちるさんだったね。黒のロングのロリちゃん。
何?ここはハーレムランドですか?いや、ハーレムホームと言った方がいいのかな?
「いや……何、昨夜、とあるラブゲームにハマリにハマッてしまってね」
「みゅーん、エロゲーですね、それがどうした犯罪者」
犯罪者はキツイと思うな。
「朝からエロゲーの話とか引きますよ………スカー」
寝ぼけているはずのルルーさん………涎、鼻ちょうちん、夢心地ってとこかな。
「その名も………『ときめきHeart☆』」
あ……それ知ってる、ていうかやったことある。こっそりと………ね、体験版ダウンロードしてだけど。
「めくるめくモエモエ〜なヒロイン達に囲まれた超鈍感でヘタレな主人公は学園生活をのらりくらりと過ごしていく。ヒロイン達や悪友と日々過ごしていく内に主人公は己の内なる魂、いや汚れ=欲情を知ってしまった。そしてドンドン己の黒い感情が湧き上がってくる………主人公は良心と葛藤する………しかし、時、既に遅し。準備は整った、世界は秩序に対して曖昧になった、よし、まずはあの勝気なツンデレ女からだ、存分に舐め舐めへコヘコしてやる。待っていろ……メス豚共。こうして、狂気を身に纏った主人公はこの学園を舞台に惨劇を繰り広げていく………おしまい、ってあれ?みんな?あれー?おーい?みんなー?」
あらすじを語る直人さん………ん、あれ?これって萌えゲーじゃなくて陵辱ゲー?
いつの間にか直人さんの周りにいたヒロイン'sは消え失せていた、きっと引いたんだろう。そりゃ引くわー。
そんな光景を見学しているとゾロゾロと黄帽のチルドレンが集まってくる。
何か生きるのって楽しーなー、ふへぇ〜〜〜………