何故、君が怒るのか?
「直人君。掌を出してみるといい」
「はい」
僕は茜さんの言うとおり掌を茜さんの方に向ける。
「そう、じゃあ君の指は何本あるかな?」
「5本です」
「うん、君が珍種の生物じゃない限り、普通はそうだね。それじゃあ、5−4は?」
「1です」
「正解。じゃあ、親指から順に4本指を折ってくれるかな?」
「はい」
親指、人差し指、中指、薬指……残り、立てている指は小指だけとなった。
ま、まさか……茜さん、ぼ、僕と……こういう関係になりたい………と?ハァハァ
「す、末永くよろしくお願いします………(///)」
「何、くねくねモジモジしてんのよ……気色悪っ」
傍に居た美菜が僕を軽蔑の眼差しで見つめる………フフ、美菜、なんて心地いい視線を送るんだ。
あぁ、しかしたまらないな。心地よすぎてエレクトしてしまいそうだ、ウフフ……
「やっぱり残りは1になったね」
茜さんは華麗にスルー。やっぱりこの人はこういうキャラでなくちゃね、ウフフ………
「これが何か……?」
僕には茜さんが何を言いたいのかさっぱりだった。
「計算上では『5−4』は『1』は当たり前、それは普遍で変わり続けないモノ。でもね、直人君。現実では必ずしもこんな風にある決まった値……そう、普遍的な変化が起こるとは限らないものなんだよ。私の言ってる意味はわかるかな?」
「はぁ……何となく」
茜さんの言っている事は少し抽象的な事だったがかろうじで何となく理解できた。
「『5−4』がある時は『0』……またある時は『5』になる時だってあるんだ。さぁ、これは計算上では『起こりえない』事象。でも、現実ではありうる。では、今の君はまさにどんな状況かな?」
「幸せです」
「つまり……こういうこと、よっ!!!」
ぐきっ!!!
「あぴゃっ!?」
立てていた小指が美菜の手によって曲がっちゃいけない方に曲げられた。
「美菜、何をするんだ。痛いぞ、いや気持ちいいぞ、もっとやれ」
「うるさい!!!あんた一体コレはどういうつもり!?」
美菜が指した方向には………
「………みゅーん」
スク水ウサ耳幼女、ミューたんがいた。
「ミューたんがどうかしたのかい?美菜?ところで、ミューたん。かぁいいね。ちょっと触ってもいい?」
「どうかしたのかい?じゃないわよ!!!何でこの子が学校の教室にいんのよ!!!しかも、何よこの格好!!!」
「僕の趣味です……(///)」
にっこり
「……っ、この!」
「うん、その辺でやめときなよ、美菜さん。これじゃあ、イタチごっこだ。……うん、じゃあ直人君。私からもう1つ質問があるんだけどいいかな?」
「よいです」
「そのかぁいい子に自分の趣味の服を押し付けるのはよく分かるんだ。はぁはぁしたくなる気持ちだってよく分かる」
「分かちゃうんですか………茜さん……(汗)」
「でもね……直人君。私にはどうしてもよく分からない事が1つあるんだ。コスプレイは自分が目で見て楽しむもの。目で見て愛でるもの。目で見て犯すもの。……私は今までそう思っていたんだけどね」
「なんだか私、今まで茜さんのキャラを勘違いしていたような気が……(汗)」
「……なんで君も同じ格好をしているのかな?」
茜さんが真剣な目で僕を見つめる……本気で分からないようだ。美菜は口をぽかーんと開けたまま呆然としている。
「ふっ……茜さん、あなたはまだド素人だ。全然わかっちゃあいない、否、分かっていないことが分かっていない!!!まさに『無知の無知』!!!」
「なっ……!?」
茜さんは虚を突かれたような顔になった。
「コスプレイを第三者の視点から楽しもうなど持ってのほか、その自分は蚊帳の外みたいな考え方が僕は許せない。目で楽しむ?愛でる?犯す?コスプレイを馬鹿にするなっ!!!そんなもんで満たせるわけがない!!
!コスプレイはコスチュームすることで初めて体感することができるプレイだ………無論、一般的に『プレイ』というものは1人でやるんじゃあ成立しない。最低2人以上必要だ。なぜなら、その『プレイ』を『共感』し合う相手がいなければならないからだ。まぁ、しかし例外的に1人で楽しむプレイも存在するといえば存在する。いわゆる『縄プレイ』という奴だな。このプレイは共感する対象が人間ではない。縄という道具だ。自分の身体を締め付け食い込みがたまらない、アッーいやっ!いやぁ!と話がそれたね……一方、縄の方は縄の方で『締め付けてやんよぉ!!!ぐへへへ!!!』とそう思っているに違いないだろう……まさにこれぞ『共感』!!!『コスプレイ』も『共感』の上で成り立っている!!!それなのに一方的にかぁいい子に自分の趣味を押し付けるなど……言語道断っ!!!まるで昼間にやってくるセールスマンのような振る舞いっ!!!そんなもの『コスプレイ』とはいわないっ!!!『コスプレイ』とは……目で見るのではなく………なりきるんだっ!!!知れっ!!!世界を!!!宇宙を!!!神を!!!……そうすれば茜さん、あなたにも『コスプレイ』を体感できる日がいつか来る………僕は切にそれを願っている」
「あ、あぁ……そうだったのか………」
茜さんは僕の話を一通り聞き終わるとがくっとうなだれた。
「みゅーん、ど素人はお前なのです、おちん○野郎ー、みゅみゅーん」
「んなっ……!」
すかさず僕の持論を真っ向から否定してきたのは予想外の人物、ミューたんだった。
「みゅーん、さっきから散々ベラベラベロベロペロペロとご自分の持論を語ってくれましたが、貴方のはただの独り善がりな持論です。ご自分の身の程とナニを知りやがれですー、みゅーん」
「な、なんだと!?僕の………独り善がりだとっ……馬鹿なっ!?」
「……え?え?え?この子ってそんな喋れる設定だったっけ?」
美菜はおろおろと困惑している様子………ちょっとかわいいじゃないか。
「みゅーん、ひとりよがりー、みゅーん」
「独り善がり……だとぉ………ふざけるなっ!!!」
「みゅーん、ふざけているのはお前の存在です、おとといきやがれこの皮むくれ三太夫が。みゅみゅーん」
「こ……このぉ………」
「こ、こら!ミュー!………な、直人さん……す、すいません………この子、普通に喋ると言葉遣いが汚くて………」
「………ろ」
「って、直人さん?(汗)」
「もっと僕を虐めろぉっ!!!!!ふーふーふーふー……ウフッ、うふふ………(///)」
「もうダメですこの人………(泣)」
事の始まりは昨日に遡るーーー
ルルーが取り出したほん○ゃくこん○ゃくなるものをミューたんが口にした瞬間………
『みゅーん、何ですかこの妙にイカ臭い家は、みゅーん』
僕と美菜は呆然としていた………何に対して?決まっている、今まで『みゅーん』って鳴いていたロリたんがコンニャクを食べた途端、流暢な日本語で喋り始めるからだ………
『こ、こらっ!!!ミュー!!!す、すいません………直人さん、美菜さん………この子、口は悪いですけど本当は優しい子なんですけど………』
『みゅーん……ルルー、何かティッシュ踏んでる……みゅーん………』
『えっ……?わっ、わわっ!……え、えっと……このティッシュ、妙に粘着性がいいんですけど……(汗)』
足にくっついているティッシュを見ながら僕に尋ねるルルー………
『………ポッ、し・よ・う・ず・み(///)』
つい、頬を染める僕………
『………』
『………わかってたけど………げ、下衆野郎ね、あんた………(汗)』
ルルーは顔を真っ赤にさせながら俯いている。それに対し、美菜は軽蔑の眼差しで僕を睨みつける………ふふ、いいぞ、美菜、その刺激的な視線が僕の明日への活力となる。
『くんくん……みゅーん、あの机からもイカ臭い匂いがほのかにします、みゅーん………』
いつも、皆で食事をしている机を指差すミューたん………
『『………………』』
『今月は………寂しかったから……つい………ウフフ、お恥ずかしい………(///)』
美菜とルルーは僕らから2mほど距離を開けた………ふふ、寂しいな。
『みゅーん……とんだ、お盛んなモンキー野郎ですね、このホー○ー野郎』
『いやぁ、それほどでも、ウフフッ』
『褒めてないですよ、みゅーん』
『で?あなた、ミュー……だったっけ?これからどうするつもり?』
『みゅーん………私は………』
『………ミュー?』
『………私は学校というものに行ってみたいです………みゅーん』
少し、不自然な日本語をだったが、その発言がきっかけとなった………
「………というわけなんだよ」
「……直人、あんた誰に向かって喋ってんのよ………?」
キーンコーンカーンコーン………気付くと、もう既に放課後になっていた………外を眺めると茜色の空が広がっていた………
「さぁ、それじゃあ、帰ろうか、み……」
「直ちゃんの浮気者ーーーーー!!!!!」
パチーーーーーン!!!!!
「ふむんぐっ!?」
帰ろうとした瞬間、突然頬に鋭い痛みが走った………
「ろ、楼たん………」
僕の頬を打ったのは赤い目をした楼タンだった………
「これはどういうことなのっ!?説明してっ!?」
僕の胸元を掴み上げようとする楼タン………だが、非力な楼タンは胸元を弱々しい力で掴むのみ………
「待ってくれ、違うんだ………これはその……」
「何が違うのぉ!?この間もそこのアバズレババァに手を出して………っ!!!」
美菜を指差し訴える楼タン………
「あ、アバッ!?ババァ!?……な、何ですってぇ〜〜〜〜………」
邪鬼のような顔で僕を睨む美菜………なぜ……僕………?
「あ、あの〜〜〜………?これは一体どういう状況なんでしょうか………?」
「みゅーん、どうした、美菜」
見かねておそるおそる美菜に尋ねるルルーとミュー………
「あんた達は先に家に帰ってなさいっ!!!!!」
ドスの利いた声でルルーとミューに八つ当たりする美菜………怖い………
「ひきっ!?は、はぃ〜〜〜〜!!!!!」
「みゅ、みゅん!!!!!」
ダッシュでこの場から離れるルルーとミュー…………
「さて………と」
黒い殺気を放ちにっこりと僕と楼タンに微笑みかける美菜………まぁ、何はともあれ………
僕は罪な男………ってことなのかな?ウフフ………