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第17話 お披露目は不安と共に


 ある晴天の日。

 噂のシュミット辺境伯三男が、ついにお披露目されるとあって、領主館前の広間には民衆が大挙して詰めかけていた。


 皆普段の仕事を休んでまで詰めかけているのだ、辺境伯の統治が支持されているのと、三男への興味によるものというのは明らかである。


 もちろん民衆だけではない。

 辺境伯三男のお披露目と聞き、シュミット辺境伯領と同じ、帝国東部に領を構える者達を中心に、多くの貴族もシュミットへと訪れていた。


 といっても昼間は民衆に対してのお披露目となり、貴族たちや大店商会の本番は夜になる。


 

 「レギウス様のご子息って違法奴隷摘発の功労者だそうじゃないか 」

 「拉致されてたのが魔人族じゃなかったのに助けたんだってな 」

 「なんでも母親が人間らしいぞ 」

 「まあ今更ハーフなんて珍しくもないさ 」

 「おうおう、俺の一族なんぞ純血種が途絶えて久しいぞ 」

 「このシュミットだと純血派等おらんからのぉ 」


 民衆が噂を肴にまだかまだかと待ちわびる。

 そして太陽が真上に来た時、ついに領主館のバルコニーから領主レギウス・フォン・シュミットが顔を出した。


 

 「愛すべき領民の諸君。 今日は我が三男、ジルクニス・フォン・シュミットのお披露目によく集まってくれた。 諸君らが知っての通り、当領では先日、他家の貴族子弟による違法な奴隷売買が摘発された。 その摘発を行ったのが、我が三男ジルクニスである。 その功績もあってこの度諸君らの前に出すことになった。 少々変わった体質を持った我が息子ではあるが、受け入れてほしい。 それでは長くなったが、我が息子ジルクニス・フォン・シュミットだ! 」


 レギウスの宣言に民衆は歓声を持って応じる。

 するとバルコニーの扉が開かれ、一人の少年が現れた。


 だが金糸で刺繍が施された、真紅のジュストコールを纏った少年の姿に皆唖然とした。

 少年は一般的な魔人族のそれと異なっていたからである。

 背には翼を持ち、尾も生えているようだった。

 遠目で見ても魔人族と程通り姿に、民衆の歓声もどよめきへと変わる。

 しかし少年はそんなどよめきを気にもせず、前へと進んだ。


 「領民のみなさん。 初めまして。 父にご紹介いただきました、ジルクニス・フォン・シュミットと申します。 皆さんには私の姿は奇怪に見えるでしょう。 ですが父や兄たちと同様に、みなさんを守ってく覚悟はあります。 まだ若輩の身ですが、これからよろしくおねがいします 」


 宣言と同時に歓声は上がらない。

 皆どうしていいのかわからないのだ。

 やはり奇怪な姿が目立ち、内容が頭に入ってこない。


 様子を窺っていたレギウスでさえ、ダメだったかと思った時である。

 

 「ああ、若様は俺たちをあの地獄から助けてくれた」

 「子供ながら一人で駆けつけてくれた、私たちの英雄よ」

 「捕まっていた儂らを、最後まで励まして逃がしてくれた」


 広場の一角から、そんな声が上がり始める。

 ジークが解放した被害者たちだ。

 

 事件から時間はあいていたが、ジークの正体が辺境伯家三男で、近々お披露目があると知ると、その晴れ舞台を是非見たいとシュミットに残っていた。


 そしてジークを擁護するのは彼らだけで放った。


 「こいつらだけじゃねぇ! 俺が他家の貴族に文句を付けられていた時、若様は俺と貴族の間に割って入って、俺を守ってくれた。 俺たち領民の為に、他家の貴族と戦う度胸がある貴族なんざ、他の領地で見たことあるか? 俺はなかったぞ。 ちょっと変わった姿してるだけさ。俺たちにとっちゃ、俺たちを守ってくれる方だってこと以外に、必要な事はあるか? 俺はねぇと思うがな」


 声を上げたのはブラス商会の会頭ハビエルだ。


 彼らの声を聴いて、広場の民衆も騒ぎ始める。


 「そうだな。 姿かたちは関係ない! 若様は既に行動で示してくれている 」

 「ああ、子供一人で敵の懐に飛び込む度胸は、他家の子息にはないだろうな 」

 「そもそもシュミットは、魔人族以外の俺たちも差別されない土地だしな。 そんな俺たちが外見に驚いてどうするんだって話だよなぁ 」 

 「ジルクニス様万歳! シュミット家万歳!」


 ざわめきは徐々に歓声へと変わっていく。

 既に広場は歓声と期待で満ちていた。


 それを受けたジークはどこか恥ずかしそうにし、その姿を見た父レギウスや母マリア、そしてアニエスは誇らしげであった。


 こうして民衆へのお披露目は成功し、ジークはシュミットの領民たちに受け入れられる事となった。

 だが、お披露目会はここでは終わらない。

 まだ本番となる夜がある。






 昼と違い、夜のお披露目は別の意味合いを持つ。

 そう外交的な意味合いだ。

 

 貴族というものは大抵の場合、領地から出られない。

 彼らは、こういう社交界を通じて他家と交流を図ったり、顔を繋いだりするのである。


 商人も同様だ。

 彼らは貴族と接する機会が少ない。

 王家や、公爵・侯爵・伯爵・辺境伯といった上位貴族には大抵御用商人がいて、新規商人がその家に入るのを防いでいる。 なら、どの様にして新規に取り入ろうかといえば、こういったお披露目の場で、若いうちに顔を覚えてもらうのが一番だ。 なにせ、そうすれば向こうから近づいてきてくれたりするものだから、商人たちは必至である。


 もちろん今回も例外ではない。

 商人たちは必死に新たなシュミット家の窓口へと顔を売る。

 既にジークの前には、何人もの大棚商会の会頭や支店長が現れては消えて行っていた。

 

 (こんなに来られても覚えられないんだけどな……)


 まあ八歳児が覚えられる人の数など、知れたもので、殆どが記憶に残らなかった。

 記憶に残ったのは、最初の数名ぐらいではないだろうか。

 後は以前に街で出会ったブラス商会のハビエルぐらいであるか。

 ハビエルも事件の件に謝辞を述べつつ、ちゃっかりと商会の宣伝をするあたり商人であった。



 商人たちは、他のお披露目と変わらない動きをしていたが、慣例とは異なる動きをしていたのは貴族たちである。 シュミットに来た貴族の数と、夜のお披露目に参加した貴族の数が合わないのだ。


 理由は簡単で、昼間のお披露目で情報を掴んでいるからだ。


 通常ならば、昼間に情報を掴んだところで、夜のお披露目に参加しない等という事はありえない。 外交のチャンスを不意にし、辺境伯家の不興も買うからだ。 しかし、いくつかの点で、参加をしないと決断する理由ができてしまっていた。


 帰ってしまったのは、主に魔人族の中でも、純血派と呼ばれる貴族である。

 彼らからすればジークは、魔人族でありながら他種族の特徴を有する、忌むべきバケモノである。

 これがただ単に他種族だというならば、嫌々参加しただろうが、魔人族であって魔人族でないというのが、純血派には我慢ならなかったのだ。


 更に言えば三男という、後を継がない立ち位置もあった。

 通常であれば跡継ぎでなかったとしても、婚姻で繋がりを強くしたり、婿養子として跡継ぎにしたりとあるのだが、彼らからすれば、バケモノを血に加えるなどありえないことなので、この時点で居る意味がなくなってしまったのだ。


 こういう事情があり、純血派の殆どが参加せずに、領地へ引き返してしまうこととなった。


 もっとも、レギウスからすれば、敵味方の立ち位置が、ある程度解る状態になったと、転んでもただでは起きない思考になっていたのだが。



 では当の主役であるジークはどうだったのかというと、既に疲れ果てていた。


 父の知り合いだという貴族が来るたびに、違法奴隷事件での活躍談を求められ、同じ説明をするのに辟易していたのだ。 いっそのこといっぺんに来てほしいとも思うが、そういうわけにもいかない。 こういったパーティーでは順序というのが存在する。 基本的には上の爵位から挨拶が始まり、徐々に下へと下がっていくのがルールだ。


 実は話しを聞きに来た殆どの貴族は、事件の詳細を掴んでいたのだが、どこまでが真実で、どこからが虚偽なのかを、そしてジーク本人の実力はどの程度のものかを、探りにきていたのだが、経験が浅いジークではまだそこまでの意図はつかめなかった。


 そんなこんなで始まったお披露目会ではあるが、まだ始まったばかり。

 ジークの疲労など嘲笑うかのように、夜はまだこれからである。

 そして新たな出会いと、騒動の火種もここから出来上がるのであった。


 

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