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旧市街の死神と罪を救う魔法使い  作者: 桂木 狛
旧市街の贈り物
8/30

旧市街の贈り物 1

 コサメは私に行きたいところがあると言った。

 私はコサメと一緒に小道を歩く。キエナはアヒルと家で留守番だ。


「坂が多くて大変でしょ?」


「ここに住むには体力をつけなくてはいけないね」


「そのうち慣れるよ」


「コサメは平気そうだね」


「体力には自信があるもので」


「少し分けて欲しいくらいだ」


「どれくらい?」


「半分ほど」


「それじゃ、私がへとへとになっちゃうよ」


 歩いている最中、私は鏡の男について考えていた。あの男が言っていたことが、どこまで本当なのかは分からない。

 だが、いずれは確かめなくてはいけないだろう。特に死神の力については。


「行き先について何か教えてはもらえないかな」


「行き先は眼鏡屋さん。友達がいるんだ」


「いいのかい? 私が付いて行っても」


「会わせておきたいんだ。私の友達に」


 私は鏡の男のことをコサメには言わなかった。何となく言わない方がいいと思ったからだ。

 もしかすると、その決心が付かなかっただけかもしれないが。


「それは、霧払いの魔法使いってこと?」


「一人はね。ヒソラと同い年だよ」


「へえ。どんな人?」


「まだ到着まで時間もあるし、少し話を聴いてもらってもいいかな」


 そう言ってコサメは語り始めた。


****************************



 あるところに、一人の少女がいました。


 その子は親に捨てられて町の隅っこで暮らしていました。


 家も食べ物もなく、少女は身を潜めるように生きていました。


 食べるものに困った少女は食べ物を盗むようになります。


 来る日も来る日も町の人に怯えながら、食べ物を盗み続けました。


 少女にはある才能がありました。


 それは人の気配が手に取るように分かるという才能でした。


 次第に少女のことが町中に知れ渡るようになります。


「大きなネズミがいるぞ! 見つけたら殺してしまえ!」


 町の人たちは大いに怒りました。中には銃を持つ人もいました。


 困った少女のもとに一人の男が現れます。


 男は少女にパンを差し出してこう言いました。


「こいつが欲しいなら俺の手伝いをしろ」


 少女はこくりと頷き、パンをもらいました。


 少女は男と盗みを繰り返すようになります。


 金や銀、有名な絵画、宝石、王家の財宝。


 高価なものは何でも盗みました。


 盗めば盗むほど、少女は食べ物にも住むところにも困らなくなりました。


 しかし、盗むほどに少女の心は痛んでいきます。


「いつになったらこんな生活を止められるんだろう」


 少女は男に盗みを止めようと言いました。


 しかし男は聴く耳を持ちません。ついには少女を殴りつけました。


「お前は俺のお陰で生きているんだ。大人しく俺の言うことを聴いていろ!」


 少女は仕方なく盗みを続けました。


 そんなある日、少女はひとつの噂を耳にします。


「遠くの街にどんな人間でも助けてくれる魔法使いがいるらしい」


 少女は男が寝ているすきに魔法使いのもとへと向かいました。


 少女は助けて欲しい一心で夜の町を走り続けます。


 足が痛んでも、息が切れても、寒さに凍えそうでも。


 ようやくたどり着いた少女は扉の前で倒れます。


 少女が目を覚ましたとき、目の前には自分と同じくらいの歳の少女がいました。


 目の前の少女は言います、私が魔法使いだと。


 少女は事情を話すと魔法使いに泣きすがりました。


「お願いします。私を助けてください。もう、悪いことはしませんから」


 魔法使いは少女に手を差し伸べます。


「もし男がこの街に追って来たら私が追い返そう。これからは安心して暮らすと良い」


 少女と魔法使いは一緒に暮らし始めました。


 少女は毎晩男の影に怯えます。


 魔法使いは言いました。


「君は私が守ってみせる。だから泣かないでいいんだ」


 魔法使いは少女のために美味しい料理を作っては一緒に食べました。


 少女は自分の犯した罪の重さに苦しみます。


 魔法使いは語りかけます。


「君の犯した罪の分だけ私は人を救おう。だから君は笑ってくれ。それが君の償いだ」


 魔法使いは困っている人たちを次々に助けました。


 魔法使いは手を差し伸べます。少女を幸せにするために。


 少女は笑います。魔法使いを幸せにするために。


 二人は今でも支えあって生きています。互いの幸せのために。



****************************


 コサメが語り終え、静寂が訪れる。

 聴こえてくるのは靴音と鳥の鳴き声だけだ。


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