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旧市街の死神と罪を救う魔法使い  作者: 桂木 狛
旧市街の魔法使い
5/30

旧市街の魔法使い 4

「コサメ、もうクッキーも食べたし浄化してくれよ」


「うん。じゃあ、部屋に行こうか」


 さっきからキエナが言う『浄化』とは何なのだろう。何かの魔法なのだろうか。


「ヒソラも来て。見ておいてもらいたいから」


 私はコサメに誘われるがまま、付いていくことにした。コサメは家の奥へと続く廊下に出ると、すぐ左側にある部屋に入った。


「ここは魔具の部屋。危ない物もあるから、勝手に入らないようにね」


 部屋は三方を棚で囲まれ、そこにはびっしりと怪しげな道具が並んでいる。見たことのない生き物が入った瓶や月の形をしたペンダントなど、いかにも魔法使いらしい物ばかりだ。


「浄化に使うのはこれとこれ」


 コサメは青白く光るペンダントと指輪を私に見せた。ペンダントも指輪も同じ色の石が嵌めてある。


「これはアルニタって石で、魔力を込めるとお互いに反応するの」


 コサメは魔具を持って部屋を出ると、廊下を奥へと進み始めた。


「今からやるのは浄化って魔法で、ちょっと特殊な魔法なの」


「それをキエナにするのかい?」


「うん。キエナに付いた霧を取り除かないといけないから」


 霧、とは何かの比喩なのだろうか。私は目の前を歩くキエナに目を凝らすが、何かが付いているようには見えない。

 キエナが部屋に入り、それに続いて私とコサメも部屋に入る。

 部屋には衣装棚とベッドと一人掛けのソファ、そして壁一面に本が並んでいる。

 キエナはどこか浮かない表情で私たちの方を振り向いた。


「コサメ、今はどんな感じ?」


「見てみようか。座って」


 キエナがベッドに腰を下ろす。コサメは腕ほどの長さの杖を取り出し、キエナの方に構えた。


「いくよ」


 キエナはコサメの杖先を見ながらこくりと頷く。

 コサメが杖に力を込める。すると、たちまち杖先に光の球が現れた。豆粒ほどの光の球は大きくなっていき、人の頭ほどの大きさまで膨張した。

 コサメが勢いよく杖を振る。光の球は杖の動きに合わせてキエナへと放たれた。

 光の球はキエナに当たると、ガラス玉のように割れて破片が飛び散った。飛び散った破片は輝きながら砂塵のようにキエナの周りを漂った。

 キエナを覆った光が消えていく。漂う光の粒は段々と光を失ってくすんでいった。


「まあ、こんなもんかな」


 くすんだ粒はキエナの周りを漂い続けている。どうやら光は失われてしまったようだ。


「これが霧だよ。光を当てると分かるんだ」


 周りは何も変わったところはない。キエナの周りだけが暗い霧が立ち込めたようになっていた。


「霧って?」


「一言で言うと罪の原因、ってとこかな」


 コサメは杖をしまうと、キエナの方へ歩いて行った。


「キエナ、よく頑張ったね。もうかなり薄くなってきているよ」


「ありがとう。コサメのお陰だ」


 私にはそのコサメの声色もキエナの繊細な表情も意外なものに映った。

 コサメはペンダントをキエナの首にかける。アルニタの石はキエナの胸元で青白く輝いた。


「じゃあ、準備は良い?」


 コサメがキエナの顔を覗き込む。キエナは頷くと、後ろで束ねていた髪を下した。

 キエナはベッドに横たわると、小さく息を吐いた。


「もう、そんなに苦しくはない筈だから」


「ああ、そうだね」


 コサメはキエナの手を握ると、祈るように両手で包み込んだ。


「おやすみ」


 コサメの指輪が青く光を放つ。それに反応して、キエナのペンダントも光を放った。二つの光は大きくて穏やかな光となって二人を包み込む。

 光に包まれたキエナは全身の力が抜け、眠りに落ちた。それを見たコサメは手を解き、キエナの手をベッドに乗せた。青白い光は次第に弱まっていき、キエナが纏っていた霧と共に消えていった。


「普通、罪を犯したら本人に原因があるって考えるでしょ。でも、私たちはちょっと違っていてね。霧が原因だって考えてる」


 コサメがキエナに毛布を被せる。キエナは脱力しきった表情で眠っている。


「だから私たち魔法使いはこうして霧を浄化している。人が罪を起こさないように」


「キエナは何かしたのか?」


「キエナは元々盗賊だったんだよ。それを私が捕まえて、今はこうして霧を浄化しながら一緒に暮らしている」


 コサメはキエナの顔色の観察しているようだ。心配そうにベッドの傍に座っている。

 しばらくすると、キエナの表情に変化が現れた。

 穏やかに息をしていたキエナは、次第に苦しそうな表情になっていく。眉間に力が入り、時折辛そうな息が漏れる。


「浄化された人はね、夢を見るんだよ。キエナはきっと、寂しい夢を見てる」


 コサメは再びキエナの手を取ると、両手で温めるように握った。


「大丈夫だよ、キエナ」


 キエナは幼い子供のように寂しさに震えていた。一切隠されずに目の前で露わになった孤独から、私は時折目を逸らさずにはいられなかった。


「助けて」


「うん、大丈夫。助けてあげる」


 コサメがぎゅっと手を握ると、キエナの顔から苦悶の表情が消えていった。

 キエナの目から涙が溢れ、一筋の雫が横髪を濡らした。


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