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頼み事

 エアハルトは語り始める、トモヤから頼まれた2つの頼み事を……。


「1つ目は、自分が力に溺れる様な事があれば殺して欲しいと頼まれた」


「殺して欲しい……」


「そうだ、トモヤは人して生き、人として死にたがっていた。この世界ではなく平和な元の世界の人間という意味でな。だからこそ彼は力に溺れるのを心から恐れていた。そしてその心は死ぬまでこの世界の住人にはならなかった、いや拒否したというのが正しいだろうな。トモヤが最期まで守り通した矜持だ」


「恨んでいたでしょうね、私たちの事を」


「あぁ、彼は死ぬまで君たちを許さなかった」


 エリーサはグラスを口に運ぶが中身は僅かで直ぐに飲み干してしまった。こんな内容の話を聞くならもう少し強い酒を飲みたいを思った時、先ほどまでエアハルトの隣にいたはずの素体人形が横におりチューリップグラスを食卓に置くと中身を琥珀色の液体で満たした。


「ブランデーだな。それはかなり強いが君なら楽しめるだろう」


「ありがとうございます」


 完全に自分の考えを読んで動いている素体人形に対して疑問を抱くエリーサだったが、なぜかその疑問を口に出すのは憚れた。きっとこの人形には大切な友人に対する思い出が詰まっているのだろう。今は聞く時じゃない、エリーサはそう判断した。


「2つ目は自分のような人間を増やさないで欲しいという事だ。トモヤは魔法について詳しくなかったからな、私に頼むしかなかったのだろう。だから私は異界召喚魔法に関する本と関係者をすべて始末した」


「えっ?」


「もうこの世界は異世界から何かを呼ぶ事はできないだろう。もし行おうとしても私が止める、たとえどんな理由であってもな」


 淡々と告げるエアハルトに対して初めてエリーサは恐怖を感じた。目的のために手段を択ばない姿はまさに『狂王』だ。だがそれが彼なりの優しさと誠意を含んでいることにも気づいた、エアハルトはただこの世界と全く関係のない人間が不幸になるのを見たくないのだ。


「そもそも『大崩壊』とはなぜ起きるのか……。その理由を知っているかね?」


「大気中に漂っている魔力が多くなりすぎる為です。大量の魔力が数多くの原種魔物を生み出し、それを討伐するのに短期間に大量の魔力を消費すると数か月で収まります」


「そうだ。そしてそれは定期的起こることであるが魔力の消費具合によって周期は異なり、概ね300年から500年周期で繰り返し世界が平和であればあるだけ周期が早くなるという皮肉な現象だ。だが私は思うのだよ。自分たちの住んでいる世界、ガーデンで自然に起きる事を自己で解決できない生物など滅んでしまえばいいと……」


「それは……」


「極論だ、もちろん理解している。だが300年前の大崩壊では異世界からの英雄を使う事によって初めて被害を抑える事に成功した。ならば使うだろうさ、次も」


 エリーサは否定できなかった。確かに300年前の大崩壊では記録に残っている限り初めて魔物の完全討伐に成功していた。そして信じていたのだ、再び『英雄』を呼び出すという方法を使う事によって次も抑えられると。


「だから私はその方法を奪ったのだ二度と使えないようにな。そしてそのせいで君たちに狂王と呼ばれるようになった」


「それはどういうことですか?」


「戦争をしたのだよ、召喚魔法を使用できる国とその術者を相手にな。君はなぜ私が狂王を呼ばれているか知っているかね?」


「エアハルトが大崩壊の後で配下の吸血鬼を全て殺したからと言われていました。私もそうだろうと思っていましたが違うのですか」


「私は配下を殺していない。彼らはその時の戦争で死んだ」


 やはり人間は歴史を書き換えたのかとエアハルトは思った。自分たちの非を認めず全ての責任をなかった事したのだ。どうやらトモヤが言っていた通りになったようだ、そして同時に彼が言っていた事を思い出した。『今回は俺とお前がいたから文明が崩れなかった。恐らく300年もしたら世界は変わっている。エアハルト、お前からしたらきっと外の世界は異世界だろうよ。その時はいい女でも見つけて旅をしてみろ』と。


「異世界……、か」


「はい?」


「いや、なんでもない。話の続きだがその戦争でいくつか国を滅ぼした。『狂王』というのは私が国を滅ぼした理由を知られたくない大陸連合が誤魔化す為に付けた二つ名だよ。もっと私からすれば友人との絆の証だから喜んでその名を名乗ろう、私は『狂王エアハルト・ライヒェンベルガー』だと」


「そんな事があったのですね……。帰ってギルドに報告しても公表はできないでしょうが、私は覚えておきます。エアハルト……、貴方は誰よりも優しくそして厳しい狂王ですね」


「光栄だ」


エアハルトは胸に手を当てる古い礼をした。その大げさな仕草に思わずエリーサからも笑みがこぼれる。


「それにしてもトモヤ様がこの世界に残したものは無いと伝えられていましたが、やっと理由がわかりました」


「ふむ、残したものがないか。フッ、エリーサ今日は日付と最寄りの街からこの城まで距離を教えてくれ」


「えっと、12月13日です。距離は確か直線で130キロ程度だと思いますが」


「300年前は浅冬の月、薄氷と呼ばれていた日だ。距離も24レゴアだな」


「それは大崩壊以前の歴と単位ですか?」


「そうだ、私を含めて『古き種族』とよばれる者たちは未だに使っている。新しい歴や単位はトモヤの世界のものだ。とても使いやすいから大陸連合でも採用したのだろう。他にも君が知らないだけというべきか、連合が故意に隠しているのかはわからないが彼が残したものは沢山あるだろうな」


 その言葉にエリーサは隠された世界の真実について思いを馳せる。今日エアハルトと出会わなければ知らなかった事、そしてこれからもきっと知ることがないであろう事柄。もし彼ともっと一緒に居ることができれば、それはきっと素晴らしい日々になることだろう。

 だがそれは叶わない。彼は『触れらざる者』アンタッチャブルセブンで自分はたかだかS級の冒険者、恐らくもう二度と会う事もないだろう。そのことを考えるとチクリと胸が痛んだ。


「さて、食事も済んだ事だ。他に質問もなければ君が休む部屋に案内しよう」


「ありがとうございます。そうですね、色々聞いたのでこれ以上は混乱してしまいます」


「そうか、まぁゆっくりと休むといい。こっちだ」


 食堂に来た時のようにエアハルトはエリーサの手を引きながら部屋に案内する。廊下はすでにコートどころか薄着でも歩けるほど暖かくなっておりすべての明かりが灯っていた。城に来た時に感じた冷たい重厚感は消え、エリーサはまるでこれから夜会が開かれるかのような煌びやかさと華やかさを併せ持つ上品な美しさを感じていた。


「ここだ」


 エアハルトが止まった部屋の前には素体人形が佇んでいる。別の人形かとエリーサは思ったがどう見ても先ほどまで自分と一緒にいた人形にしか見えない。そしてやはりというか、なぜか欲しいと思っていた入浴道具をもっている。


「部屋の中にシャワーと不浄の場所もあるから外に出なくても問題ない。他になにかあれば部屋の外で待機している素体人形に言えばどうにかしてくれるだろう」


「本当に何から何までありがとうございます。このご恩は決してわすれません」


「フッ、気にしなくていい。客人(ゲスト)をもてなすのは城の主人の務めだからな。朝は素体人形が起こしにくるからそれまでは休んでいて構わない。それではエリーサ、よい夢を」


「はい、おやすみなさいエアハルト」


 エリーサが部屋に入ったのを確認したエアハルトは素体人形に頷くと自身の部屋に戻る。いつも使っている椅子に腰かけると足を組みそして再び葉巻に火を付ける。考えるのはエリーサ事、彼女は自分を恐れない。それどころかしっかりと自身の考えを口にしてくる。


「私に意見してくる人間はトモヤ以外では初めてだな」


 煙と一緒に呟く、エアハルトはエリーサの事を女性として気になり始めていた。そしてできることならトモヤが残した言葉の通りに『異世界』を一緒に旅したいとも思う。だが彼女はS級冒険者で自分は『触れらざる者』、きっと彼女の迷惑になるだろう。しかしそれでも……。


「まったく、トモヤは今考えると予言者のようだな。お前もそう思わないか?」


 そう問いかけるエハルトの視線の先には、エリーサの部屋の前に居るはずの素体人形がただ静かに佇んでいた───。

説明終わり! (`・ω・´)

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