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変わった世界

「さて」


 そういいながらエアハルトは椅子に座ると改めてエリーサを眺めた。その眼には何か楽しいオモチャを見つけた子供ような純粋さが浮かんでいる。


「先ほど扉の前で取集依頼中に遭難したと言っていたが、ここガルム山脈で採れる物でわざわざ冒険者に───、それもS級に依頼するものなんてあったかな?」


「はい、ライヒェンベルガー様は───」


「あぁ、私の事はエアハルトと呼んでくれたまえ。敬称もいらない、私もエリーサと呼ばせてもらおう」


 エリーサはすこし戸惑う仕草をしたが、やがてどうせ厄災級に何を言ったところで聞かないだろうと諦めたように話し始めた。


「わかりました、私の事はお好きにお呼び下さい。……エアハルトは月の雪と呼ばれる鉱石をご存じですか?」


「あぁ、もちろん知っている。魔力の伝導率が高くて使いやすい鉱石だ」


「それの採取依頼です。現在鉱脈が確認できて採掘ができる場所がガルム山脈の北東部だけです。そしてその場所が大型魔獣であるスノーウルフの生息域でしたので、S級である私が派遣されました」


「なるほど、それでこの時期にわざわざここまでやってきたのか。ところで採取はできたのかな?」


 エアハルトの言葉にエリーサは困ったように首を横に振る。常識的に考えればこれだけの吹雪、さらに予想されるスノーウルフの出現を考えれば春までは採掘は不可能だ。エリーサ自身もそれをわかっているのでギルドに帰還した時の言い訳を考えていた。

 実際、月の雪を持って帰るよりエアハルトの近況を持って帰る方がはるかに価値がある。もともとかなり無理がある依頼条件だったのだ、上手く行けば依頼失敗はしても査定には一切響かないだろうとエリーサは考えている。


「ならば、帰りにでも月の雪のインゴットを進呈しよう。さらに私の情報も持って帰れば君に支払われる達成料金も上がるのではないかな?」


「よろしいのですか?」


「よろしいとも、ただし条件がある。随分と長い間この城にとどまっていたから外の情報が欲しい、それと引き換えでどうだろうか? もちろんエリーサ、君の質問にもこたえよう」


 エリーサは考える、あまりにも自分に有利な条件だと。エアハルトの話から何か裏があるのではないかと勘繰るが、その気になれば簡単に国の1つや2つ滅ぼせる彼が自分ごときと腹の探り合いをする利点がない事に直ぐ気づいた。エアハルトからしたら単なる暇つぶしなのだろう……。結局、眠くなるまで本を読むのと同じくらいの理由ではないかと結論付ける。

 一方、エアハルトは数百年ぶりに楽しんでいた。そもそも人が訪ねる事を想定していない城にふらりと訪れた客人。冒険者と名乗っているが、粗暴なところはなく品性を感じる立ち振る舞い。そしてなにより……、自分を恐れていない。人間から恐れられ避けられた続けたエアハルトが上機嫌になるのも仕方のないことだった。


「わかりました。私もその条件で結構です」


「それはよかった。さてではまず、エリーサの聞きたいことから始めよう。紙とペンの用意はいいかな?」


 笑いながら問いかけてくるエアハルトに頷き、エリーサは懐からいつも使っているノートを取り出した。


「ではまず、エアハルトの種族は吸血鬼で間違いないですか?」


 いきなり核心をついてくるエリーサの質問にエアハルトは笑いをこらえる。確かに人間や寿命の短い種族からしたら自分の種族はわかりにくいだろうと。そして同時に疑問を感じた、エリーサは自分の事を『吸血鬼か?』と尋ねてきた。もしかして彼女はなにか誤解をしているのではないか?


「いや、私は吸血鬼ではない。だが、もしエリーサが血を啜るという意味で吸血鬼という表現をしているなら───、私は吸血鬼だ」


「血を飲むのは吸血鬼では?」


 やはりなとエアハルトは思った。どうやら彼女は『吸血鬼』と『吸血種』を混同しているようだ。


「まったく違う。吸血鬼は血を啜らないと生きていけない種族で、吸血種は血を飲まなくても良い種族だ。この二種には明確に差があって、エルフとダークエルフくらい違う。恐らく今は私以外に吸血種は存在していないが、吸血種にとって吸血鬼と同類にされるのは最大の侮辱になる。もっとも私はエリーサが誤解しているのを理解しているから特になにも思わないがね」


「それは……、大変な失礼をしました。申し訳ありません」


「謝罪を受け取ろう、だから気にしなくていい。質問の続きだが吸血種が人間側との契約、さらにあまり公言したくないが自らの力を誇示するために血を飲まれた被害者の成れの果てが吸血鬼だ」


「それならば、今生きている吸血鬼というのはすべて吸血種が作ったと?」


「いや、それがそうでもない。私の説明不足で誤解を与えたようだが……、吸血種が血を飲むことにより魂に刻印を刻む事で魔物化したのが『吸血鬼』という認識だ。その他に2つ前の大崩壊まで『吸血族』と呼ばれていた種族がいた。おそらく現在の世界で人とともに暮らしているのは吸血族の系譜だ。ちなみに吸血族のほうは下僕を作ることができない。血を飲むことによって、一時的に自身の能力を上げるという特性をもった種族だな。そして2つ前の大崩壊でその能力を生かし弱者を守るという気高い誇りを掲げ、人間や他の種族を守るために勇敢に戦い散っていった戦士達だ。1000年近く前とはいえ、君たちは忘れてしまったのか?」


「はい、恥ずかしながらそのようです」


「ふむ、帰りに当時の事を記録してある本をいくつか渡そう。彼らの行いをこの世界、『ガーデン』に生きるものは忘れてはいけない」


 メモを取りながらエリーサは手が震えていた。この情報は確実に価値のあるものだ。どうやらエアハルトのいう吸血族というのは今の時代ではヴァンパイアハーフと呼ばれている人々の事のようだ。彼らはその能力から冒険者や兵士として一定上の強さを発揮するが、ほかの種族人々からは迫害とまでは言わないが薄気味悪がれている。ハーフの中にはもちろんエリーサの友人もいた。彼女が宿の宿泊を遠回しに断られて悲しそうに困った表情をしているのを覚えている。もっともその宿屋はその噂を聞いたほかの冒険者から嫌われて客がいなくなり潰れてしまったが……。


「さて次は私の番だ。現在の大陸連合はどうなっている? それと私にかけられた討伐金は今いくらかな」


「討伐金は取り下げられてます」


「ほう……。それはまたどうして?」


「エアハルトが『触れらざる者』アンタッチャブルセブンに指定されたからです。指定と同時にすべての討伐依頼が取り下げられました。また、同時に大陸連合の在り方も変わりました」


 エアハルトは顎に手を当てがい考え始めた。300年前の大崩壊以降、どうやら世界の在り方が大きくかわったようだ。そもそも記念すべき新生大陸連合初の会議において、『触れらざる者』なんていう自分を含め7人が『どのような行為をしてもそれは自然現象と同意である』なんていう馬鹿げた内容が決まったという噂を風の便りで聞いた時はまったく信じていなかったがどうやら本当の事だったようだ。


「300年前の大崩壊以前は主要5大陸に存在している国だけが加盟していましたが、現在は大陸以外の島国も加盟しており258ヵ国が連合を組んでいます。もっとも機能としてはある程度の調停を行うくらいであり、主目的は現状の戦力では討伐できない又は絶対に保護されるべき『触れらざる者』が現在どこにいるかを知る為と、大崩壊時に組織的に魔物の侵攻を食い止めるのが目的です」


「なるほど、では全員の居場所をしっかりと把握しているのかな」


「いえ、完全に場所を把握しているのは5名だけです」


「教えてもらっても?」


「はい、まずはエアハルト、貴方の事ですね。狂王エアハルト・ライヒェンベルガー、ハルストーン王国領ガルム山脈。偉大なる錬金術師フェルモ、ハルストーン王国王城。祝福の聖女ルシール・ソシュール、ソシュール教国ソシュール正教会特別保護区。絡繰り師パトリシオ・プレシアド、イグドシア共和国コノア自治領。毒蜘蛛姫テオドーラ・ベンタ・レンネゴード、リシィナ帝国領ヤート湖。他の2名、殺戮者アルヴィン・デイクストラと薬師リタは魔族領にいると推測されています」


「デイクストラは魔族領ではなく大雨の砂漠にいたはずだ、リタについては知らないがね。しかしフェルモもこの国にいたのか……。そのうち挨拶にいくことしよう」


 少しの沈黙が流れた後、ノックの音が聞こえる。エリーサが驚いて扉の方をみるとエアハルトが口を開いた。


「どうやら食事の用意ができたようだ食堂に行こうか。ついでにコートも置いていくといい、先ほど城の維持装置を再起動させたから廊下も十分温まっただろうしね。続きは食事をしながらにしようか」


 そういいながら席を立ったエアハルトはエリーサの手を取り彼女を立ち上がらせた。

この世界の説明回。(`・ω・´)

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