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魔狩通る  作者: 五色ピンク
2/14

始まり。

171018 改変

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 こことは違う人の進化が定められた世界。未だ剣によって覇を唱えていた時代。命短しその生ながら人はすでに世界の頂点に立っていた。

 しかしそんな世界、そんな時代は呆気なく終わった。

 突如襲った天変地異によって一つの世界は終り、新たな世界が生まれた。

 『魔物』と呼べる奇異な存在達が新たに跋扈する新世界。世界を席巻し王となった大国は国土の半分以上を魔物に奪われ死に絶え、人は狩人ではなく獲物であると理解させられた。


 それから一〇年、魔物への恐怖と絶望に犯された人々は知った。神は実在したのだと。

 黒い龍の姿をしたそれは人の世界を侵食する魔物を狩った。人の目がある場所でも、人の目が無い場所でも。

 そして人々は不安定な安寧を手に入れた。


 月日は一九〇年経ち、新世界誕生から数えれば二〇〇年という時が過ぎた世界。

 未だ魔物と対等に渡り合えないこの時代を人々は今日も生きている。


 ◇□◇□



 季節は春先にして時は昼前。鬱蒼とした森に囲まれた石畳の街道を一人の青年が馬に跨り歩んでいた。

 見たところ年齢は二十歳そこそこだろうか。

 それが彼の特徴と言えるほど、後ろで軽く纏められた長く艶やかな黒い髪を風に靡かせ白馬に跨る青年は、亜麻色のマントと相まって旅人然とした風貌。

 しかし、旅人、と言うには余りにも手に持つは少ない。

 荷物を背負っている風には見えなく、時折見えるマントの下、青年の黒い服にも荷物らしいものはない。騎乗している白馬の方も荷物が、と言う前に馬具が一切着けられていなかった。

 それでも旅人と言えてしまうのは青年の旅慣れた雰囲気からか。


「やっと晴れたなー」


 青年の黒髪が馬の尾のようにゆらりと揺れる。

 昨日の嵐が残した強い風が原因であるのだが、風のことなど忘れさせるほどに空は真っ青に染まっていた。


「しかしまったく何度通っても人が居ないな、この道は」


 そう思わないか、と自身を運ぶ白馬に青年は声を掛ける。

 周りに、と言うよりも街道そのものに彼以外の影は見当たらない。

 その気になれば荷馬車2台がすれ違うことすら可能なほど幅広い街道を、白馬が一体闊歩しているだけ。

 青年の視界に入る街道は、所謂宝の持ち腐れ状態だ。


「でもまあ仕方ないか。・・・国無しには人は来たがらないか」


 だから自分達は通っているだが、と心の中で付け加え青年は白馬の首を優しく撫でた。

 青年が国無しと言った通り、この道は特殊な土地に存在する。

 人々が忌み嫌い通ろうとしない道を彼は今進んでいる。


『国無しの土地』

 何時からかそう呼ばれるようになったが、正式名称は旧エンデブル王国南部国境伯所持領。(といってもこの名すら覚えている者もほとんどいないが。)

 現在呼ばれるその名の通り土地を、領土を所有する国が存在しない。現存する国からは中立地帯として扱われている土地である。

 領土拡大のための睨み合いの地、と言う意味が含まれていない訳ではないが、その実この土地は中立とは最もかけ離れた生贄の地であった。


 理由を言えば二〇〇年程前に起きた天変地異。それに加えての魔物の侵攻。この二つの出来事が国無しの土地の今を作った最大の原因である。

 嘗てこの土地を所有していた超大国エンデブル王国は、この二つの厄災によって壊滅した。そして壊滅したエンデブル王国の南部領を除いた土地には魔物達が未だ闊歩している。現在魔物達の侵攻は境界線(通称=ライン)と呼ばれる地点で停止しているものの、常に魔物の徘徊する土地と隣接しいつ侵攻が再開されるか分からぬ土地である。残っている南部だけ、でも現存する国々が持つ国土以上の、このほぼ手付かずで広大なこの土地をどの国もを喜々として手に入れようとはしない。

 未だ魔物と対抗できていない国々からしても所有しても利のない、無用の長物でしかなかった。


 中立ではなく態のいい壁であるこんな土地に残っている人々を受け入れる国もなく、都市は国家間戦争が起こる前、暦にすれば250年以上前の都市国家治世へと姿を変え、ほぼ全ての村も都市国家と関わりはあるものの各々での自衛を余儀なくされている。

 近年では現存する国家の考え通りに幾つかのライン近くの村は魔物によって(全てが魔物の性とは言い切れないが)壊滅し、その数を減らしてもいる。

 他所からも好き好んで死地に行こうとする者も居ない。

 逆に何時からかまるで国無しの土地が魔物を呼ぶようにも思われ、この悲しき土地を人々は魔物と共に忌み嫌い『国無しの土地』。そしてそこに住む人々も『国無き民』と呼ばれ蔑視されるようになっていた。


 そんな土地である。

 青年が誰とも出会わないのは当たり前であり、逆に旅をしている青年の方が珍しかった。


 白馬を撫でるのをやめ、青年はどうしたものかと熟考する。

 いつもなら避ける他人との接触だが今に限っては違っていた。


「それにしてもまったく、何処へ行ったのやら」


 仲間と逸れた、のである。


 青年が迷子と言う訳ではない。ただ単に別行動をして次の村で合流するというものだ。実際に仲間の一人は荷物を忘れたと2つ前の村へ戻った。

 しかしもう一方のそれは違っていた。別行動と言うよりも行方不明の方が近かった。


「エレナにも困ったものだこんな置手紙を残して、勝手に行くなんて」


 青年がため息混じりに上着の内側から出した手紙に今回の真相が全て書かれていた。


『レイモンド様へ。

 少々寄りたい所がございます。事が終わり次第合流いたしますので先に次の村へ向かってください。――エレナより』


 具体的な内容が書かれていない手紙だが長年の感と経験を頼れば食料がらみ。しかもこの前の村で美味しい川魚がどうした、などと村人が話していたことを思い出し単独行動についての中りはすぐつけた。

 だが次の村と書かれても次がどれほど離れているかは知らない。

 通ったことはあっても記憶にあるのは大雑把な道順のみで村の数やその距離感などは曖昧である。


 何よりも レイモンドの後を追って街道を通ってくるという保障は何処にもなかった。


 この前は一つ先の村に行ってたっけと、心の中で思いつつ一度ため息をつくとレイモンドは自分の眼下の馬を見た。

 何処にも行かないのはお前だけだな、と再び馬の首を撫でる。

 白馬もそれが気持ちいいのかもっと撫でろと首を振る。


「やっぱり戻った方がいいかな?」


 自分ではなくあの二人が気になってしまうレイモンドは後ろを振り返り一度見ると白馬に向かって呟く。


「戻るのは反対か・・・・・・」


 何か答えるでもなかったが馬の足は速くなったように感じる。


「そうか。・・・・・・なら先に進もう。


 もしかしたら追いついて来るかもしれないし。

 次の村までゆっくりと進むとするか。」


 ポツリと、レイモンドにしか聞こえないであろう程に小さい独り言で、今まで楽しそうだった白馬の動きが止まった。

 驚き声を上げることはしなかったが何かあったのかとすかさず声を掛ける。


「どうしたんだララン急に止まって?」


 ラランの顔は森の奥に。レイモンドもそちらへと顔を向けると森から抜けた風に。

 徐々にではなく行き成りに大量の血の匂いがレイモンドの鼻を刺激した。

 常人では分からないほど微かに。だがレイモンドにははっきりと理解で来た。

 誰かが狩りをしている、ということもありえたが共に漂う異臭にレイモンドは顔を顰めた。


「・・・・・・魔物か」


 微かであるがはっきりと人の匂いそれとは違う臭いをレイモンドは感じた。

 鳴かなかった白馬ラランもこの臭いに気づいたのか不快そうに唸り声を上げた。


「最近本当に多いな。やっぱりもうそろそろ限界なのか。・・・・・・ん?そうか音が聞こえたか。この臭いもある。もしかしたらもう遅いかもな。はあ、それでも仕方ない。人だけならまだしも魔物が出たなら行くしかない。のんびりタイムはまた今度だ」


 音が聞こえたと言うラランを馬上から撫でると、レイモンドは軽々と馬具の着いていないラランから飛んだ。

 降りて最初に聞いたのは唸り声。

 先程とは違う意味合いに聞こえる唸り声にレイモンドは首筋を軽く叩く。


「ゴメンゴメン。フィル達と合流したら川かどこかでお風呂を作ってあげるから許しておくれ」


 レイモンドのせいではないのだが、ゆっくり進もうなどと言った手前申し訳なさが湧いてくる。

 ラランの好物は水浴びだ。お湯ならば尚のこと喜ぶとレイモンドは知っている。

 お風呂の一声に唸り声をやめたラランに、現金なやつめと笑ってしまう。


「ああ、約束だ。

 ・・・・・・え、体も?・・・・・・仕方ない今回は特別だ」


 もし人が居れば以上と思える光景。

 馬と会話ができるのか。

 普通に考えればそんなことをしているやつは狂人か理由は知らんが幻覚を見ているものだ。

 そんなことはレイモンドも分かっている。(まあだから他人が居る際はやらないのだが。)

 しかし実際に彼は白馬と完全に意思疎通が出来ていた。


「これも久しぶりに使うかもな」


 右手親指にある装飾のない銀色の指輪を人撫でするとレイモンドは森へと体を向けた。


「それじゃあララン行ってくるよ」


 その言葉を残し破裂音に似た音と共に砕けた石畳と、埃だけが軽く舞う。

 見送るかのように頭を下げたラランを残してレイモンドの姿は街道から消えた。




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