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魔狩通る  作者: 五色ピンク
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プロローグ。

ノリで書きました。(10月下旬だった気がする)


 そこは都市と言えるほど大きくはないが、村ほど小さくもない。田舎の少し大きな町のどこにでもある至って普通の酒場。唯一いつもと違うのは店が静かなことだった。


 もちろん閑古鳥が鳴いているわけではない。

 客たちの目的はただ一つ、一段高い舞台の上で座り膝のうえの弦楽器と共に歌う男の詩。連日連夜の演奏が今日で最後ということもあって立ち見の客すら出ている程に逆に店は人で溢れ返っていた。

 男の詩は言い伝えといえるほどの古事からつい先日起きたような事件まで、恋愛から英雄譚まであらゆるものが。店の給仕達や店主すらも自らの仕事を放り出し聞き入っていた。


 そして今丁度最後の演目『姫騎士と亡国の王子』が終わりを迎えた。国を滅ぼした姫騎士と亡国の王子の恋愛劇。紆余曲折ののち最後は大団円で幸せになるありふれた内容の古事だ。

 最後、男がこれで終わりと言いたげに弦を一撫ですると、一瞬間をあけてから、客達がワッと声をあげ男に拍手を送った。


「みんな落ち着いてくれ」

何時までも冷め止まぬ拍手を耳にしてカウンターで最も舞台に近い椅子に座るしゃれた格好の青年が立つと声を上げた。青年の声で拍手は次第に終わりを向かえ、最後誰も手を叩かなくなったのを確認してから続きを口にした。

「今日までの七日間の演奏、ありがとうイッコウさん。こんなに心が躍ったのは生まれて初めてだ。さてそれじゃあ皆イッコウさんへのお礼を流してくれ」

 こっちにも誰か深めのをくれ、と客たちの中で声があがる中給仕の、取り分け大柄な男性二人が舞台の端から真ん中へ樽をは込んだ。

「ありがとうございます」

 吟遊詩人イッコウが頭を下げると、とうとう舞台一番前の席に客たちからのお礼がまわってきた。


「いよいよだ!」


 客の中から声が上がった。


 客たちの間を回ってきた桶、鍋、帽子などの深い入れ物がイッコウの前に置かれた樽の上でひっくり返された。銅貨、銅塊、銀貨と硬貨が次々と樽の中にたまっていき、ついに樽の淵から銅貨が見えた瞬間、店の客達から歓声が上がった。


「皆さんありがとうございました」


 イッコウがもう一度頭を下げたが声は客の声でほとんど聞こえなかった。


「みんな、すまないがもう一度だけ静かに」


 再び青年が声を上げた。同時にちゃっかりと樽の一番上に金貨を一枚投げ入れた。


「ありがとう、みんな。さて、イッコウ殿。無理を言ってあなたをこの街に連れてきたバルト商会の社長エル・バルトの息子クリフとして、また今日までのすばらしい演奏を聴衆した一人として、ここに居る全員を代表して、感謝の言葉を述べたい。―――本当にありがとう」


 クリフが頭を下げると客たちも同調するように拍手を送った。


「こちらこそ、こんなに大勢の方の前で披露させてもらってなんと言っていいのやら」


 対してイッコウは軽薄そうな見た目に似合わない照れくさそうな笑みを浮かべた。


「ですので、私からも感謝を込めて、この樽は蓋をしなくてはいけないこともあるのでこの淵より上に溢れているお金で今晩の皆様の酒代を私が払わさせていただきます」


 他人の金で酒が飲める、と分かった瞬間に客からは再び、時折指笛が混ざった歓声が沸きあがった。


「本当にいいんですか?」商人の息子クリフは心配に小声でいった。

「いいんですよ。金は次の街に行けばまた溜まるでしょうし、実はこれ毎回最後の日にはやっているんです」


 イッコウは亭主に手を上げて合図を送った。


「そういうわけだみんな。今日はうちの酒樽のみ干すぐらいに飲んでくれ。クリフの金貨があればどんなに飲んでもおつりを出せる」


 店の亭主の言葉にクリフがばつの悪そうな顔を浮かべると、客は対照的に大きな笑い声を上げた。


「さあ、立ち見の客さんも今外に椅子と机出してるから、座れないやつは外に。注文もすぐに聞きに行くよ」


 イッコウが最後のあいさつ回りに歩き回る、イッコウが過ぎ去り、また未だ来ていないテーブルでは自分の気に言った詩はどれだったとほぼ見ず知らずの客同士でも会話が交わされていた。


 そんななかイッコウが前日、古事と古事の間で歌った詩が外の一つのテーブルで話題になった。


「黒髪なんていないだろ!」


 流れの傭兵クレティスが忌々しげに叫んだ。うるさい店の中ではその叫び声さえすぐに掻き消えた。


「それに魔物が倒せるなんてありえないね。俺は国無しの外にまで行ってこの目で見て、対峙してきたんだ。そんなことできるやつなんて居るはずないんだ」

「何言ってんだ?」


 クレティスの隣で座る血の繋がっていないいとこのスガンが酔いの回った真っ赤な顔を上げた。


「俺の髪を見てみろレクティス。俺の髪は話どおりの綺麗な黒髪じゃねえか」

「ふんっ!」


 スガンとは反対のクレティスの横に座る相棒のルンが男たちの注目を引くように長い髪をかきあげた。


「あなたのは黒髪じゃなくてくすんだ茶髪でしょ。全く何年経っても名前も間違えてばかりね、あなた。記憶力も悪ければ目も悪いだなんて本当に残念な人ね」

「あんだとーーー?!」スガンが酒瓶とコップを持って立ち上がると、

「あによーーー?!」ルンも同時に手に持つパンを武器のように持ち立ち上がった。


「るっさいわねあんたたち、喧嘩なら他所でやってよ」


 二人の口論をテーブルの反対で聞いていた、白髪まじりの巨体の女カカイが自慢するように口を開けた。


「それと魔物が倒せるかどうかは別として白馬に乗った黒髪の人なら見たことあるわ」

「あれ、カカイじゃねえか。お前らガキどもは?」


 クレティスが質問しようとしたとき、左右の二人がまたしても口げんかを始め、上げようとした声が止まった。

 そしてそこへ立ち見だったすきっ歯の男ニベラが近づいてくると話しを遮るように口を開いた。


「まさかもう寝たのか? 早すぎやしねえか」

「寝てなんていないよ」


 カカイの隣に座っていた旦那のホーランドが答えた。


「商屋様が最後だからって今日一日だけは村の子供達を銅貨三枚で一晩預かってくれるって、結構子持ちの家は預けて今晩ここに来てるわよ」

「へー、そりゃまた、銅貨三枚何て大した金になんないだろうに、こんないい話聞かないなんて……あ、そういえば旅先で無理行って連れて来たって最初に言ってたな。前に全部聞いたのかね?」

「何言ってるんだいニベラ、お前さんとこも子供預けて嫁さん来てるじゃないかい。知らないのか?」

「は? そんな話し聞いてな……いや、そういえば出る前にそんなこと呟いてたような……お袋達に預けるんじゃなかったんだな」

「お前のお袋さんが商屋で働いてんだろうが! もうんなことはいいから早く奥さんとこへ行きな! 」

「へいへい。そういや話しが終ったら合流する約束してたんだったな。んじゃな、二人とも今夜はこれで……さて楽しんだことだし、今夜は晴れだ。久しぶりに外で、子供でも仕込むとすっかね」


 子供を叱るようにカカイが急かすと、独り言のように呟いていた上げニベラはカカカっと笑い声を店の外へ出るために離れた。


「それで黒髪を見たってのは?」


 ニベラが離れたことでクレティスが自分を挟んで争いあう二人の腕を握り無理やり鎮めながら言った。


「顔はどんなだった? 大きさは? 本当に人か? ていうか本当に見たのか?」

「いや、フードを被ってたからチラッとなびいたときに見ただけだけど――」


 矢継ぎ早に、それも睨みながら聞くクレティスにカカイはたじろいだ。

 丁度いいところにイッコウが店の外の挨拶を終え、再び店に戻ってきた。


「お! いいとこに来た。イッコウさんや、今日もあんたの話し面白かったよ。ありがとよ」

「いえいえ、喜んでもらえたようでよかったですよクレティスさん。それにこっちこそ、ここまでの護衛にかかったお値段を無償に近いものにしてもらって」

「いやそれはいいんだ。こう言っちゃああれだが、次の仕事が決まっていたんで繋ぎで受けたようなもんだからな。それよりもこっちのねえさんがねえ」

「イッコウさん本当のところはどうなんだい? 私たちあんたの詠った白馬に乗った黒髪の青年にあったことがあるんだ」

「ほう・・・・・・それはそれは」


 イッコウは驚くと感心したように頷いた。


「やっぱり本当なのか魔物を倒した人間が居るってのは。でもよお誰も倒せねえから魔物は魔物なんだろ!」

「それはどうでしょうかねえ、クレティスさん?」


 イッコウは首を傾げて笑った。

 クリフから物語りの詮索はご法度と言われていたはずだろうに、気になって仕方ないとカカイは聞くまで話さないと言いたげにイッコウの腕を強く掴んできた。


「もう、どっちなんだい?!」


 イッコウはため息を一つつくとニッコリと笑みを浮かべた。


「そうですね……一応私が話す前に皆さんの意見を先にお聞きしたいんですが」

「俺は当然いないと思う。……黒髪は居たとしても魔物を倒せるやつはいるはずがない」とクレティス。

「俺は黒くて倒せるやつがいると思う、というかいたほうが面白そうだ!」とスガン。

「アンタはクレティスとは逆がいいだけでしょ! 張り合っちゃって、まったく。……で、あたしは両方いないほうに一票。他の詩は元とかを聞いたことがあるけどあれだけないし。何より居るとなるとこの馬鹿がさらにつけ上がるもの!」とルン。

「そ、そうですかルンさん」


 ルンの言葉に苦笑いを浮かべ、イッコウは咳払いをしてからカカイ達へ向く。


「それでお二人は? 居ると思いますか?」

「私はあの詩の全部を知ってるわけじゃないけど、あの時見た黒い髪の旅人さんはなんていうかこう、凄かった、から、私は居ると思う! というか思いたい」


 カカイに同意するようにホーランドも頷いた。


「やっぱりこの詩だけは皆さん捉えかたが違うものですね。私の詩は古事を元としているんですが、実はこれだけ古事を元にしていないんですよ」

 そんな全員の反応を見てイッコウは最初難しそうな顔を浮かべるも、すぐに顔を崩した。

「やっぱり!」

「じゃああの詩は――」

「ああ、いやお二人が思っているようなのとは違ってこれは私が創作した作り話とかではなくて――」


 イッコウは急に笑うのをやめ真剣な眼差しを向ける。いつの間にか聞き耳を立てていたのだろう近くのテーブルの客たちまで黙った。


「――あれは私が小さい頃体験して、その後ご本人から直接それまでの過去の話しを聞いて詠った詩なんですよ」


「は?!」

「え?!」

「な?!」


 近くのテーブルも合わせて客達が口から出したのはこの音たちだけだった。

 最初に声を上げたクレティスだった。


「そ、それじゃあ――」

「ええ存在しますよ。でなくては詠ったりはしませんよ。これでも詠う詩は全て調べ尽くしてから詠う主義なので」

「じゃ、じゃあ」

「ええ、たしかカカイさん、でしたよね。あなたが見た方はきっと私の恩師ですよ」


 クレティスをはじめ、皆が浮かべる驚愕の顔を見てイッコウは苦笑いを浮かべる。


「私が初めて会ったのが二十年ほど前ですかね……そして私が詠った詩はそれの更に三十年ほど前、今から五十年ほど前に起きた本当のこと、それほど前からあの方は魔物を倒していたんですよ」


ノリで書き直しました。(年末)

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