プロローグ
時は1944年。
敗戦間近のヨーロッパの帝国にとある優秀な技術将校が居た。
彼ならば出世は容易いものだっただろう、しかし時代は彼に味方しなかった。
既に負けると分かっていた帝国上層部は終戦後に彼を連合国に取られるのを良しとなかった。
その為送り込んだのだ、壊滅すると分かっている最前線に、懲罰部隊の下級将校として。
訳の分からない罪を被せられ、彼の階級は大尉から少尉へ降格させられた。
彼の精神は既にぼろぼろだ、故郷の村はソビエトの重砲で丁寧に耕され、男は遊び殺され、女は犯されて殺された。
彼の家族も同様の目に合った、恋人は殺された後に木に吊るされた。
もはや彼の家系での生き残りは彼だけだった。
そして彼は時代を、世を、怨みながら死んだ。
懲罰部隊に配属された3日後、ソ連軍の「BM-13 132mm自走多連装ロケット砲」、所謂“スターリンのオルガン”の弾雨により土嚢で作られた簡易トーチカごと吹き飛ばされ塵となったのだ、遺体すら残らないまでに。
しかし彼は願った、自らの身体が灰となる中、誰もが笑顔で幸せに暮らせる世界を。
その思いが奇跡を起こすとも知らずに。
そこで彼の“この世界”での歴史は24歳という短さで幕を閉じた。