第五話「BADEND」
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八月二十一日。
暗い、真っ暗な部屋の中でただ一つだけが光を放っている。
そう言えば、「光」があるから人間は色が見えるんだよな。
考えたら「光」って普段は気にしないけど、凄いものなんだ……。
この部屋で唯一光を放っているのは、小さなDVDプレイヤーの画面。そこには今の時代、あまり見ることのない白黒の映画が映し出されている。
右隣の彼女を見ると長い髪を邪魔そうに耳へかけて、画面に見入っている。それもそのはず、この白黒映画を持ってきたのは彼女で、興味があるのも彼女だ。
【あなた――っ】
【何よっ!! こんな女と一緒になるっていうの!?】
……ちょー泥沼展開だから、恋人同士で見るものではないと思うのだけれど。
しかも。
俺は彼女と違って映画が好きなわけではない。普通のドラマならまだしも、映画は長ったらしくて、じっと見ているのがつらい。
――初めまして。神ノ崎さん。
夏休みに入ってしばらくした頃。彼女は突然俺の前に現れた。
そして、
――私は……あなたを世界中の誰よりも愛しています。
いきなり愛の告白をされた。
全く知らない女から、告白をされた。
けれど、今は彼女と恋人関係だ。それは何故か。
何故かと問われれば、俺は「一目惚れだ」と答える。
彼女のすらりと長い脚に、
柔らかい唇に、
妖艶な笑みに惚れた。
だから、そのときは思わず肯定してしまった。
けれど今は容姿だけが好きなんじゃない。全部が好きだと胸を張って言える。
物語も終盤。主人公が股をかけた女、三人ほどが口論しているシーンは面白くもない。
お茶でも取りに行こうとして立ち上がるが、彼女の手がズボンの裾を掴んだ。仕方なく座りなおすと彼女に頭を持って行かれ、柔らかな感触が後頭部から伝わる。
……これは、噂の「膝枕」ってやつ?
気分が良くなり、そのまま瞼を閉じた。
撫でてくれる彼女の手がとてつもなく優しく、愛おしかった。
なのに。
「あなた、最低」
――八月三十日。
何で?
何でだよ。
冷たい手が、首に巻き付いている。
後ろにはもう、踏み場がない。あと少しでも動けば二十階のビルから落ちて終わり。
終わり。
終焉。
何故、BADENDを選ぶ?
彼女は、笑ってはくれない。
ビルの下では、蟻みたいな大きさの人達が見上げている。警察も何も到着していないようだ。
「愛してる……」
笑顔でそう言ってみると、胸がトンッと優しく押された。
どんどんと、景色は映り変わ――……
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