第一話「全ての始まり」
初めましての方は初めまして。ゆとなみと言います。
フルネームは「ゆとなみ うい」。漢字表記は「癒堵波 羽衣」ですが、殆ど使いません。
私を知って下さっている方。今作も遊びにきていただきまして、ありがとうございます。久しぶりに自己紹介をした気がします。
今回はファンタジーとなっておりますが、夢と希望溢れる――みたいな意味ではなく、「幻想的な」などという理由でジャンルはファンタジーとさせていただきました。
今作もよろしくお願いします。
七月二十九日。
「初めまして。神ノ崎さん」
コンビニでアイスを買った帰り道。
「えーっと……」
俺がだらだら、道をアイスを食べながら歩いていると、曲がり角で知らない女に遭遇した。
目に入っていそうな長さの前髪を、鬱陶しそうに手で避ける。全身をちらっと見ると何も持っていないようだった。鞄すらも。
服の印象としては、同い年くらいに思える。いや、今は小学生でも大人っぽい格好をしているか……?
彼女は、中地として深い藍色のTシャツを着ており、袖などにフリルのついた白のブラウスから透けている。下は短いデニムのショートパンツ。
しかしながら、だ。
俺は彼女の名前すら知らないのに、彼女は俺の名前を知っているのは何故だろうか。
「突然ですが、神ノ崎さん」
黒がちの瞳が、俺を真っ直ぐに見据えている。
夏特有の容赦ない暑さが、首筋に汗を滑らせた。
「……な、なに?」
彼女の黒寄りの茶髪が左右に大きく揺れる。
「私――」
名前も知らない女が、五mくらいの距離を詰めてくる。それに気圧されるように、後ろへ後ろへと足を出した。
いつの間にか逃げるのに必死で、持っていたコンビニの袋やアイスなども手にはなかった。
けれど、彼女は止まることなく近づいてくる。
ドンッと壁にぶち当たった衝撃で、肺の空気が一気に外へ出された。
「うっ」
呻き声をあげて――勢い良く息を吸い込み過ぎたのか――咳き込む。自分の体重を支えきれなくなり、地面に座り込んだ。
住宅街なのに、誰一人歩いていない。
助けを求める声も出せない。
知らない女が無言で迫ってくる、と言う恐怖で腰が抜けて動けず、ただ呆然と彼女を見上げた。
彼女の顔がお互いの息が触れるくらいに近くなり、マヌケに開かれた足の間に、すらりと長く、それでいて全く焼けていない白い脚が入れられる。
そして、右肩に手を置かれ――唇が重ねられた。
アイスの冷たさが失われ、口の中が温かさで満たされていく。動揺で目を見開いてしまい、長いまつげで縁取られ、閉じられた目を直視してしまう。
何十秒にも思えた時間だった。
彼女のマシュマロのように柔らかな唇が離される。こんな夏真っ盛りにも関わらず、汗もかいていない。
そして彼女はゆっくりと微笑み、告げた。
「私は……あなたを世界中の誰よりも愛しています」
それは、おとぎ話に出てくるような……甘い、甘い愛の告白だった。