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人形娘に自由はない!

 半月がすぎ、沙羅の人形娘生活も慣れてきた。沙羅は人間でいるよりも人形の姿でいる方が楽だと思うようになっていた。仕事に行く前には化粧をして、職場の上司や同僚に気を遣うことも無く、また洋服を買うためにローンを組むような無茶なこともしなくてもいいからだ。


 しかしである。「マロンちゃん」には自由がないのだ!行動は全て管理されており、のんびりする暇も無いのだ。いくら沙羅の頭がボートしていても、「マロンちゃん」のコントローラーが沙羅の肉体を動かし、マロンちゃんとして行動しているからだ。沙羅の肉体は駆動装置として酷使されている。


 そうしたなか、事故が発生した。いつものように「マロンちゃん」として雑踏の中でお客様の案内をしていた時、強風で倒れてきた看板に驚いた群集に突き飛ばされ観客輸送用の馬車に轢かれてしまったのだ。


 馬車に胸の部分を引かれた「マロンちゃん」の人形の表面は剥がれ、沙羅の胸の部分が割れてしまった断面から露出してしまった。しかし沙羅の肉体が直接露出したわけではなく、沙羅の皮膚の上に塗られていた赤い組織が流れていた。その組織から流れるのは血ではなくなんらかの循環液のようなものだった。


 沙羅には「おかあちゃん、お人形さんが血をながしているよ、かわいそうよ」という子供の声が聞こえていた。少なくとも沙羅の肉体には問題はなかった。しかし「マロンちゃん312号」のダメージはひどく機能喪失を起こしていた。


 馬車の下敷きになった「マロンちゃん312号」は、ただちに救助活動が始まったが、その間沙羅は体温調整機能が喪失したため、炎天下であったこともあり猛烈な暑さに襲われていた。「私は、このまま人形の姿のまま蒸し焼きになって死んじゃうのかな?」と弱気になったが、なんとか馬車の下から救助され修理工場に搬送された。


 「それにしてもひどいもんだ。312号だけど、馬車に踏まれたのが胸部だけでなく頭部や足も相当なダメージを負っている。かわいそうだけど廃棄処分は免れないかもしれない。まあ直してはみるが、そうなるだろう」と修理主任が言った。


 「廃棄処分? 私は人間よ、壊れたぐらいでゴミ箱行きなの? 私も小さいころ人形の手が千切れたといって捨てたことがあったけど、それはあんまりだよ」と思っていた。すると「なあに、中の人になっているどこかの娘さんよ。取り合えず、あんたは312号から卒業だ。しかし契約期間が残っているので別の人形になってもらうよ」といった。どうやら「マロンちゃん」の人形の中からは出してくれるようだ。


 「そうそう、あんたはこの際辞めさせてほしいと思っているかもしれないが、それは出来ない相談だよ。いまは本当にうちは書き入れ時なんだ。アルバイトも人形にしてやっているけど人数が少ないのだ。だから今度はアルバイトが敬遠する人形になってもらうよ。そうだね、今度は魔女ということで」といった。


 壊れたのを、もっけの幸いとばかりに今度は魔女に改造するみたいだ。しかも私に選択すらさせてもらえない。本当に自由はないのだ。憲法で職業選択の自由が保障されているとはいえ、やはり「中の人」は対象外のようであった。


 修理主任は上司の「人形管理部」に連絡をして「さきほどの事故で大破した312号ですが、全面的に部品を交換しないといけないかもしれません。それで一時的に312号は欠番ということにしていただいて、今誰もやり手が無い”黒魔法少女ジョアンナ”の人形に中の人を入れてもいいですか」と言っていた。


 沙羅はよくは知らないが、確か新番組の魔法少女作品のアニメの中に登場する悪役の名がジョアンナと聞いたことがあった。いつも悪さをしては”正義の”魔法少女にやっつけられる役回りだったと思い出した。まあ量産型の「マロンちゃん」よりもマシかもしれないが、今度は悪役、しかもやられ役というのも駄目だと思ったが、沙羅には決定権がなかった。「中の人」だからだ。修理主任からすら沙羅の名前を呼ばれていない。ちゃんと「益山沙羅」と名前があるのに、ここでは「中の人になっているどこかの娘さん」だ。ここは刑務所と変わらないと思った。


 大破した「マロンちゃん312号」から出された沙羅の体は肉饅頭のような内臓の固まりに覆われていた。そのうち破損した胸の部分を交換することになり、その部分が除去され沙羅本来の豊満な胸の膨らみが半月ぶりに露出したが、それもすぐ元に戻された。


 沙羅の肉体の上には新しく「ジョアンナ」の人形の外側が運び込まれ、再び沙羅の肉体はその中に閉じ込められてしまった。沙羅は「ジョアンナ」に生まれ変わったのだ。そしてジョアンナの「衣装」がはめ込まれていった。


 「黒魔法少女ジョアンナ」の衣装は、黒い西洋の甲冑に黒いマント、そして黒い帽子を被っていた。顔はマロンちゃんがどこにでもいそうな可愛らしい少女であったが、ジョアンナは「クール・ビューティー」といえる美しさだった。しかし、沙羅は身体を動かそうとすると、大変窮屈だった。「か、身体が動かしにくい。甲冑が窮屈だ。やり手がなかったという理由はこういうことなの? 」と気づいた。


 「やっぱり動かしにくいのだね。まあじきに慣れると思うよ。まあマロンちゃんと違って舞台でパフォーマンスするのが中心になるから、今日みたいに馬車にひかれるなんてアクシデントにあわないとは思うよ。まあ、頑張ってね」と送り出された。


 「ジョアンナ」にされた沙羅はあることに気づいた。「マロンちゃん」の時よりも身体を動かす自由があることを。それでジョアンナの衣装を確認した。着ているのは昔世界史の教科書で見た中世ヨーロッパの騎士が着用するような甲冑であったが、なぜか女性的な体型をしており胸の膨らみは女性らしさをアピールしていた。また紫色のマントとあいまってなかなか格好良いと思った。


 そのため沙羅は自分を覆う人形にうっとりしていたが、スタッフから「ジョアンナβ、次の午後4時からのステージに出てくれ、もう一人のジョアンナαの着ぐるみがトラブッたからダウンした。代わりに出演してくれ。それと舞台演技は自動モードにすれば後は勝手にしてくれるぞ。頼んだぞジョアンナβ」と言われた。


 マロンちゃんからジョアンナになっても自由がないことに代わりが無いと思った沙羅だった。

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