河童のおうち
沙羅はこんな山奥の村にもネヴァードリームランドの手が伸びている事に脅威を感じていた。そこでこんな妄想をしてしまった。今回の新型人形娘の仕事を断っても、拉致され無理矢理改造されるのではないかと。真由美部長がいうように、どうも沙羅は被験者として最適とされているようだから。
そんなこんなを考えているうちに河野満枝いや河童の夫婦が住むという町営住宅の前にいた。町営住宅といっても都会にあるような鉄筋コンクリート造りではなく、古い木造平屋建てであった。表札には河童のイラストの中に「こうの」と書かれていた。
その家の呼び鈴を鳴らすと河童女が出てきた。もし訪問販売か郵便局員だったら腰を抜かすところだけど、河童が出てくるのは判っていたので、驚かなかったが沙羅は呆れた表情で切り出した。しかも地元に戻ってきて気が緩んだのか、方言丸出しだった。
「久しぶり満枝、あんたは同級生のなかじゃあ、べっぴんで名が通っていたんのに、なんでえ河童なんぞに夫婦そろってなったんじゃよ? そぎゃあな事どーしてしてしまったんかい?」
沙羅が突然現われたので河童女こと満枝は嘴をかきかきしていた。それは人間だった満枝の癖だった。
「沙羅こそ、いつのまに戻ってきたんかよ? あんた死んでしまったんかと思っていたけど、まあ相変わらず冴えんなあ。都会にいったんだから、もうちーと綺麗な格好すればいいだろうによ!」
「そういうあんたこそ河童になったんはどういうことなんよ! あんた、結婚したんなんて帰ってきてから知ったんだけど、夫婦そろって河童なんぞならんでもよかろーによ!」
「そりゃ、わたしんもはじめは河童なんかになりとうなかったんよ。でも主人がお前も河童になれっていうから一緒に河童になったんよ。でも今は河童になって幸せさ。人間の姿じゃなくなってもふつーに暮らせているけん」
「へーへーそりゃよかったのう。でもその河童の姿って着ているだけなんだろう?」
「あっ、沙羅。玄関先で話するんもあれだから、家にはいりんさい。お茶ぐらいは出してやるけー」
そういって満枝に居間に通されたが、家の中は極普通の若夫婦が好みそうな可愛らしいアクセサリーなどが置かれていた。そこのなかにある写真は人間だったときのふたりのものだった。
「それにしてんお満枝、その身体どうなっていうるうんよ?」
沙羅がそういうと、奥から満枝がお茶とお菓子を持って来てくれた。その時、なぜか満枝はエプロンを脱いで河童の身体が完全に見えるようにしていた。
「この河童の体表はなあ、全て生体組織なのよ。簡単にいえば寄生しているようなものよ。わたしの皮膚に張り付いてから、栄養をとって維持しているわけなのさ」
「そういうことは、あんた生きた河童の組織に体表が覆われているわけなのさ? ちょっといいから見せてもらって」
そういって沙羅は満枝の身体を弄り始めた。ネヴァードリームランドのこういった妖怪は、着ぐるみ(沙羅が着せられていた人形娘など)かメイクが主流のはずなのに、このような自己修復も可能なスーツは見たことがなかった。どうもこれが新型スーツということらしかった。




