駅前のパフォーマーたち
ドール客室乗務員に別れを告げた沙羅は空港から松山市駅行きの連絡バスに乗った。沙羅の実家は物凄い山奥にあり、そこまで行くにはこれから何度もバスを乗り継いで行かなければならなかった。父が元気な時は車で迎えに来てもらったこともあったが、父が長期入院中なのでそれも叶わなかった。
松山市駅はJRの駅ではなく市内と郊外を結ぶ地方鉄道の駅であったが、こちらのほうが市の中心部にあって大きなバスの発着場があった。しかも、そこは繁華街に近く買い物客や観光客で賑わっていた。もっとも東京の繁華街に比べ落ち着いた雰囲気になるぐらいしかいなかったが。
沙羅はバスを待っている間、駅前にある市内線の電停付近に奇妙な格好をした一団がいる事に気付いた。メンバーは五人でいづれも獣の格好をしていた。顔はアニメ風にデフォルメされていたが、胴体は擬人化したかのようにリアルな作りだった。
獣はクマ、タヌキ、カワウソ、ウサギ、ネコでウサギとネコは胸が大きかったので女性型のようだった。それにしてもカワウソって何で? と思っていると。一団の事を解説したパンフレットを渡されたので見てみると”愛媛県の県獣”とあった。しかし、あれって絶滅したはずだよね思ってしまった。
五体、いや五人のパフォーマーは踊ったり歌ったりしていたが、沙羅は恐ろしい事に気付いた。五人は一度着用すると専用のラボでしか脱げないネヴァードリームの着ぐるみを着用しているようだった。普通の着ぐるみにあるような背中のチャックはなく、身体に完全に密着しているようだった。
男の着ぐるみの構造はよく知らないけど、ウサギとネコは”人形娘”だった! 知らない間にネヴァードリームの人間を人形化する事業が、地方都市にまで波及している事に驚いてしまった。しかも観客をみると何ら違和感を思ってもいない様子だった。
「東京から遠く離れたここまで影響力が波及しているというわけなの? それにしても見ているみんなは、この着ぐるみの正体を知っているのかしら? 人間を奴隷にするかのようなアイテムであることを」
そう思っていると、隣で見ていた中学生とおもわれる制服姿の少女たちが「あれって最高! わたしたちも着てみたい」と騒いでいた。それでパンフレットを見ると「着ぐるみ着用体験、今なら無料で出来ます」とあった。しかもよく見るとこのパフォーマーの後援組織にネヴァードリームランドが入っていた。どうも着ぐるみ技術の宣伝活動をしているようで、着ぐるみの”内臓”は地元の劇団員のようだった。
それにしても、晩夏だといえ物凄く蒸し暑いのに激しいパフォーマンスをできるとは、やはり着ぐるみの性能はすごいと思った。そうこうしているうちに目的のバスが出発する時間が近づいてきたので、目的のバスホームへと移動した。
バスホームからもパフォーマーの動きが見えたが、ウサギとネコの着ぐるみの尻尾が自在に動いていた。どうも尻尾も”内臓”の意思で動かしているようだった。また女性型はスマートだったので、沙羅のような華奢な体格の女が入っているようだった。
「それにしても、ネヴァードリームランドの目的っていったいなんだろうか? まさか日本中で人形化を推し進めようとしているわけなの?」




