ドール客室乗務員(中編)
沙羅が思ったようにキャビンアテンダント・ドールのキャサリンには女性が閉じ込められていた。しかもネヴァードリームランドの着ぐるみと同じく肉体をドールの”内臓”にされた犠牲者だった。
キャサリンの”内臓”は藤野愛華というアルバイト客室乗務員だった。彼女はアルバイトで採用されたが、研修中の成績が不振で正式採用を見送られていた。その救済策として航空会社フェアリー・アローエアが彼女に提案したのは身体のドール化だった。
愛華は幼いごろから憧れていた客室乗務員になれるならと承諾したが、今は後悔していた。業務のために搭乗している間、心と身体に客室乗務員として必要な技能を否応無く叩き込まれるからだ。なお他に同じようにドール化された同期は八人いたが、彼女は三人目の被験者だった。
「いま話題になっているドール化措置でしょ、それ? あたしもお人形さんになるわけだよね」愛華はネヴァードリームランドが最近オープンさせた人形娘にする施設に担当者と一緒に来ていた。
「あなたは、これから一ヶ月間ドールになってもらうよ。無論一ヶ月の間人間の姿には原則として戻れないよ。そうそう、どんな外見になるかはそこの担当者が決めるから君は選べんないよ。でもドールになれば文字どうり手取り足取り鍛えてくれるから、もしかすると正式採用されるまで技量がアップできるはずよ」
客室乗務員養成部門の責任者である長井清実は彼女にそう言い聞かせていた。会社がわざわざこのような手を使うのは、話題作りだけでなく本当は教育費の圧縮もあった。新人の子を育てるのに余分な人員を裂くわけにはいかないからだ。しかもドール化しても給料はアルバイト扱い、ほぼ毎日シフトに入れても文句を言われる心配は無かった。なんだって人形だから。
「あなた、わたしがドールにされる研修ビデオはしっかり見ていたよね? だったらこれから起こる事はわかるでしょ! いま、このように人に戻っているのだから安心して人形に大人しくなりなさい! 」
清実は嫌がる愛華に装置に入る準備をするように促した。清実も一ヶ月の間、基本ソフトを構築するためとして試作ドールに先日まで改造されていた。そのため今でも身体に違和感があった。
愛華は着ているものを全て脱ぎ捨てた。これから一ヶ月間「人間」の服を着れなくなるのが切なかった。そして彼女はシャワールームで全身を清めたあと、ドール化装置の中に入っていた。そこは人の形をしており、立ったまま入れられた。外からは見えないが一糸纏わぬ姿の彼女はこれから自分の身に起きる事が不安で仕方なかった。
「できたら、いまからでも逃げたいわ。でもドールになったら憧れのキャビンアテンダントになれるはずよきっと! 我慢するのよ愛華」と自分に言い聞かせていた。
ますカプセルの中に気色悪いゲル状の液体がカプセル内に充填されそれが彼女の全身を覆っていった。その間に彼女の口と肛門といった体内に通じる人体の穴という穴に外部接続用のパイプ類が挿入されていった。その様子はまさに触手に侵略を受けているようだった。その痛みとも快感ともつかない衝撃に全身を貫かれてしまった。
「き、教官、やめてください! いくらなんでも愛華はこんな汚辱のような行為を受けたくありません! 今からでも辞めさせてください、い、痛くてたまりません! 」
「我慢しなさい! その痛みは私も受けたのよ! それに自動プログラムであなたをドールにしているのだから、終わるまで我慢しなさい。もうあきらめなさいよ、往生際が悪いんだからあなたは」
愛華は諦めるしかなかった。ドールに閉じ込められるように適合化の措置がとられゲル状の物質が彼女の無垢な肌を覆ってしまい体内にも何本もの管が挿入されていった。この時、愛華はお腹の中で蠢く酷い感覚に襲われ、泣き叫んでいた。しかしその感情表現も口の中にも何本もの触手のようなものが入り込み、口や喉を覆ってしまったので出来なくなった。
「藤野さん、これからが本番よ! 身も心もドールになってもらうわよ。 あたしもドールにされたけど気持ちよかったわよ。 なんだって作り笑いする必要もないし、無理に人間らしく振舞う必要も無いわ。なんだって大きなお人形さんになるのだから」
愛華はこの時完全に視覚が遮断されていた。頭部がすべてゲル状の物質に覆われたからだ。その下には自慢の長い髪もあったが、完全に頭部に密着していた。また身体は全身を油脂を塗り込められたような姿をしていた。その姿は研修用のビデオで見せられたものであったが、教官の清実の身体に起きた変化をしっていたので、それから起こることを考えると憂鬱になった。
愛華の身体を閉じ込めたゲル状の人型の上にエナメルの艶がある外骨格がはめられていった。嵌められるたびに愛華はロボットのような姿へと変貌してしまった。その時愛華は先ほどまでの苦痛がウソのような気持ちよさを感じていた。
この時彼女は呼吸もしなくなっていた。肺に特殊な液体が挿入され、その液体を通じて外から酸素を取り入れるようになった。また消化器も同じように触媒のような物質が入れられ体内に必要な栄養素と水分を供給するようになった。この瞬間から彼女は息をすることも食事をすることも必要なくなっていた。
「わたしって変なの? あんなに嫌だったのに。しかしなんで外の景色が見えるのよ? わたし瞼開けていないのに」
この時愛華の顔は完全に覆われていたが、外部の情報は直接彼女の脳波に送り込まれていたのだ。その時すでに彼女の行動管理が始まっていた。
「愛華、あなたのドール化作業は終わったわ。そうそう、あなたはそのポットから出た瞬間から人間ではなくキャビンアテンダントドールのキャサリンとして扱われるわ、覚悟しなさい!」
キャサリンになった彼女はその日からドールとして会社の備品扱いされるようになった。”内臓”の都合など誰も考える必要はないからだ。




