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ドール客室乗務員(前編)

 人の姿に戻った沙羅は久しぶりに帰省することにした。いつもは夜行高速バスを使うところだが、まとまった現金を手にしたので飛行機を使う事にした。たまたま格安航空券の広告を見たので使ってみる事にしたのだ。


 自宅アパートから電車にのって格安航空会社が発着する空港ターミナルに行ったが、沙羅は暇つぶしにと買った雑誌を見ると驚く事ばかり書いていた。一ヶ月の間、人形娘に閉じ込められていた間に世界が大きく変わっていたのだ。


 まず、着ぐるみを着たアイドルグループが大流行していたのだ。SKG47(Super Kigurumi Girl 47)といって、個性豊かな着ぐるみに入ったアイドルグループで、メンバーは着ぐるみを一度着用すると一週間脱がなくても問題ないという触れ込みだった。一番のメリットは着ぐるみなので同時に複数の会場で出演可能ということだった。そのため同じメンバーが全国各地で同時に観れるのだという。


 また、他にも廃止された原子力発電所の廃炉作業に使われる着ぐるみなどが活躍しているなどと紹介されていた。自分が人形娘の”内臓”になる前と比べ、いつの間にか人形娘の着ぐるみが市民権を得ているようだった。


 だが、沙羅からすれば何か嫌なものを感じていた。もしかすると人形娘に調整する事で人を奴隷のように扱う社会体制が作られているのではないかと。そう、あのネヴァードリームランドのように。


 この時、沙羅は契約満了となって”自由の身”になったばかりだったが、提示された正社員の話に迷っていた。先方の話では正社員になる条件は半年間”新型人形娘”の”内臓”の被験者になることだった。しかも”内臓”になっている間は一切の人格権は否定され会社の備品扱いにされるという非人道的な契約内容だった。


 本当なら、その条件なら拒否するところだが、成功報酬として総額850万円を約束するものだった。契約社員として三年間働いても得られなかった金額を半年我慢すれば貰え、しかも正社員になれるというのは、まさに魅力的であった。この契約の認否は一週間後までに決めて欲しいという事だったが、いま彼女は悩んでいた。


 この日、いまだ残暑厳しく日差しもきつかったが、ターミナルビルの中は冷房が効いていた。しかし、これから乗る旅客機は格安航空会社なので、ゲートからタラップまで歩いていかなければならなかった。沙羅は多くもない荷物をセキュリティーでチェックしてもらった後、暑さに蒸せながら歩いていった。


 思えば、どんな炎天下であっても人形娘の”内臓”になっている時は、胎児のように保護され快適だったので、汗を掻きながら歩いている今の方が自分の足で歩いている実感があった。この時、沙羅が着ていたのは安物の白いワンピースと青いスカートであったが、こんなものでも人形娘に全身を覆われているよりもマシと感じていた。


 「やっぱり、自分の肌で風と熱気を感じるというのは素晴らしい。もう人形娘に戻るのは嫌だから、実家に帰ったら就職先はないか探してみよう」 と感激しながらタラップを上がったところにいた二人の客室乗務員のうち片方の姿に沙羅は驚いてしまった。黒いドールだったからだ。


 この航空会社の客室乗務員の制服は極一般的なデザインで、ドールも一緒であったが肌が黒いエナメルのような妖しい輝きを放っていた。また顔も同じようであったが口は無く目が小さくついており、おかっぱのようなショートカットの髪がヘルメットのように覆われていた。胸には”CA003 キャサリン”とあった。


 沙羅はなんでネヴァードリームランドの受付人形娘シリーズ”ブラック・レディ”がいるのだろうと不思議に思っていた。その時、恐ろしい事に気付いてしまった。あの黒いドールの客室乗務員のなかに裸の女性が閉じ込められていると。


 「本日は、フェアリー・アローエア713便松山行きをご利用いただきありがとうございます。当機は間もなく離陸いたしますので座席のシートベルトはしっかりお締めください。当機の機長は橋本、副操縦士は島田、チーフパーサーはわたくし長井のほか池口、田河、キャサリンの4名の客室乗務員が皆様のお供をいたします。なおキャサリンは今話題のドール・キャビンアテンダントですので通りましたら気軽にお写真を撮ったりしてくださいませ」

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