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解放されるというのに!

 沙羅はジョアンナβの着ぐるみが気に入っていた。顔は可愛いしスタイルもよく、なによりも身に着けている女性らしいフォルムの西洋風甲冑が美しいと思ったからだ。また長い髪をなびかせているのも良かった。


 その理由といえば、やはり沙羅にはないものばかり持っていたからだ。「人間」の時の沙羅は平凡を絵に描いたような女性で、高校を卒業してからフリーターを続けていたためスキルもキャリアもなく、そこで一念発起して資格を取ったものの正社員になれず、契約社員となっていたところ契約が更新されず失業状態になっていた。


 その境遇と比べ、今の沙羅は着ぐるみに覆われていることで「夢の国」の住民として暮らしているのだ。そこで暮らすために人間として自由に振舞える権利が奪われ、備品扱いされる屈辱をうけることになったが、数多くの人々から見つめられる事がうれしかった。


 昔、フリーターで知り合った人から遊園地で着ぐるみに入るバイトをした時の体験を聞いたことがあった。その着ぐるみはウサギの着ぐるみで、頭に空気を送るファンが付いていたので、多少は涼むことができたが、炎天下のバイトであったことから猛烈な汗をかいてしまったという。


 その反面、着ぐるみに覆われる事で別の自分にチェンジした気になり、解放感にあふれていたという話だった。その時には、暑さで気がおかしくなっただけだとおもっていたが、今の自分を考えると理解できた。


 彼女が着た着ぐるみと違い、生身の人間を着ぐるみと融合させる特殊な着ぐるみを今自分が着ているが、変身願望は叶えられたのかも知れないと思う。「沙羅」という人間は今は存在しなくなっているが、「ジョアンナβ」に宿る魂としては今存在している。だから、このバイトも悪くは無かったかもしれない。


 後悔することといえば、夏に何か異性との出会いがあるという期待感は無駄だったということが確定したぐらいかもしれない。それとお盆に郷里に帰ることも出来なかった。そういえば、心配性の両親は探しているのだろうか、それとも連絡あるまで放置しようとしているのだろうか、知りたいところである。


 来園者がいなくなった夜の遊園地の舞台で私は一人舞っていた。この時間になると制御コンピューターの拘束が外れるからだ。いくら踊っても強力な体温調整機能のおかげで、快適な気持ちで踊れる。それは素晴らしいことだ。


 またジョアンナβの甲冑に反射する月光をキラキラさせながら踊っている姿もまた私は陶酔してしまう。ほかの人から見れば大きな人形が勝手に動いているだけだと思われるだろうが、今のこの瞬間が幸福に思える。やはり着ぐるみに閉じ込められた自分が幸せだと感じている。


 しかし、月末には大きな決断をしなければならなかった。雇用契約の延長の有無だ。契約書によれば雇用主が延長を希望すれば延長される。ただし被雇用者が拒否すれば延長はしないとある。遊園地側が契約を打ち切れば人間に無条件で戻れるが、延長してといわれたら私が判断しないといけないということになっている。


 最初はこんなに人形の姿でいるのが嫌だったはずなのに、なぜ人形から出ることが出来るのに未練があるのだろうか。決断のときは近いが、私は人形から卒業できるのだろうか?

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