相談 梨亜
一晩明けて、冷静になった。
あの時は、とにかく放してもらうことに必死で何でも肯定したが、今考えると結構すごい約束をしたんじゃなかろうか。
――悩みを全部計人に言うって。。。
出来ない約束は守らなければいい、という人もいるかもしれない ――無論そうしたい―― が、あの後、計人に止めとばかりに脅されている。
『もし、約束守らなかったら……。覚えてろよ?』
ご丁寧に、私の腰を抱いて引き寄せ、耳元に囁く様にのたまわった。
声だけでも、顔が意地悪く笑っているのが分かるくらい、楽しそうに仰ったのだ。
これを無視して約束破ってばれた日には、何となく我が身の破滅が訪れる気がする。
……。
よし、やめよう! 悩むのをやめてしまえば何の問題もないじゃないか!
…………。
いやいや、悩んじゃ駄目だ。悩んだら計人にばれる。ばれたら白状しなくちゃならなくなっちゃう。
平常心、平常心。私は何も悩まない人。そう、悩みのない性格の人。
「よぉ」
自分に言い聞かせながら部屋を出ると、丁度計人と出くわした。何というタイミング!
「けけ計人、お早う」
多少ビックリしたけれど、大丈夫。何も疚しくない何も考えていない。
「……お前、どうした? 手と足が同時に出てんぞ?」
ひぃ! ……平常心、平常心。
眉をひそめて喋る計人に、いつもの通りに返事を返す。そう、余計なことは考えず、平常心で。
「な、何を言っているのやら。古来より日本人は手足を同時に出して歩いていたのだし、その歩き方は決しておかしいものではないのよ。知らないの?」
「……」
上手く誤魔化したと思ったのに、計人は無言で胡乱な眼を向けてくる。仕方がない、話をすり替えてしまおう。そうしよう。
「その歩き方は、なんば歩きと言って、昔は着物を着ていたことや、武士が刀を扱うのに……」
「で? 今度は何を隠してんだ?」
ズバッと切り込んできた。必死に不自然でない話題で方向転換しようとしていたのに! これを知ってるとちょっとだけいばれるかもしれない雑学なのに!
とはいえ、こら! 人の努力をばっさり切るな! とは言えない私は、何か言わなければ、上手く誤魔化さなければ、と慌て……
「み、美奈がぎゅむって抱き付いてくる時の豊かな胸の弾力を直に感じてドキドキする私は大丈夫だろうかって悩んでました!」
とにかく何か悩みを、と咄嗟にでっち上げたのがこれ。……えぇーっと、一体全体、何でこんなの思いついた? 私。
「……は?」
一瞬ぽかんとした計人は、次の瞬間盛大に吹き出した。
「ぶはっ! そ、それ、は、重要な悩みだな……。ぶふっ」
何がそんなにつぼに入ったのか、体をくの字に折り曲げてお腹を抱えて大笑いし始めた。うるさい! おかしいのは分かってるから、それ以上は触れないで!
「ひぃーっ、笑い死にするかと思ったぜ。――梨亜、お、俺は別に、そういう悩みまで俺に言えとはいってねーよ。そ、それを、律儀に……。ぶはっ」
幾らなんでも笑いすぎじゃないだろうか。上手く誤魔化せたのはいいけれど、ここまで本気で信じなくたっていいのに……。
私のじと目を受けながら、ひとしきり笑った計人は、涙を拭って
「俺が全部って言ったのは、俺らが原因でそっちがごちゃごちゃして、無茶なこと言われたりしてんなら、隠さず言えよってことだったんだが……。そうだな、相談されたからには答える必要があるな」
うんうん、と頷きながら馬鹿なことを言ってくる。
「結構です」
「遠慮すんな。……そうだなぁ。自分にないもんだから気になんじゃねーか? 自分も大きくなれば意識しなくなるさ」
にべもなく断ったにも拘らず、未だ笑い含みの声で、失礼なことを言う。
「そうですね」
もういい。疑ってないみたいだし、相手する必要ないでしょ。
くるりと背を向けて歩き出した私を追って、計人がついてくる。
私を呼ぶけど、無視だ無視。
「おーい、ちょっと待てって。……そうだ! 何なら、手伝ってやってもいいぜ?」
何をだ。
「勿論、悩み解決。揉めば大きくなるってゆーし」
ガゴンッ!
変態を素早く始末し、朝食を食べて学校へ。朝からとんだ時間を無駄にした。全く。




