交換条件 梨亜
「これなの。頼める?」
「おぅ。全部はきついが、半分なら全然平気だぞ、半分くらいなら二人で持てるだろ?」
計人は、私の方は向かずに返事をする。――まだ怒ってるなぁ。
でも、ぼうっとしていた私が悪いので、仕方がない。とにかく一緒にいて、謝り倒すしかない、と、美奈に協力を依頼したのだから。
今は、二つ返事で頷いてくれた美奈だけが頼り……
「ううん、私は他に呼ばれているから、二人でお願い!」
「え? 美奈!?」
驚く私をよそに、よろしくと手を振って去っていく美奈。とっさに伸ばされた手は、がくりと力なく落ちた。
……いや、頼んだのは私だけど。一緒にいる機会をくれるって言ってたけど。だけど、お願い! この状態をどうすればいいのか教えてから消えてー!
祈りながら美奈の去っていった方を見るが、戻ってはこない。
「……おい、それくらいなら持てるか?」
「え?」
「その量なら持ってけるか、って聞いてんだ。駄目なら、上乗せろ」
いつの間にか、大半の荷物は計人によって持たれており、残るのは嵩張るけど軽いものばかりだった。
「あ、大丈夫。ありがと」
慌てて私が残りを持ったのを見ると、さっさと歩き始めてしまう。
無言で歩く計人の少し後ろをついていく。沈黙が重量を持っているかのように、重々しい。
う……。えーい、ままよ!
「あの……、計人。ごめんね?」
「……」
「み、美奈が今日、新作のお菓子作るからおいでって。私の分、食べていいし、ね?」
その言葉に、ふぅとため息をつき、ちょうどあった空き教室に入って荷物を置く計人。
私も慌てて続くと、こちらを向いてじぃっと見つめられる。うぅっ、怒ってるよぉ。
けれど、そんな計人が言った言葉は意外なものだった。
「――悩まねぇか?」
「え?」
「……意味ねぇことで、うだうだ一人で女々しく悩んだりしねぇって約束するか?」
女々しく……。私、女なんだけど。
この状況で、思わず言葉じりを捉えてむっとしたことを気付かれぬように返事をしようとすると、
「あぁ? どうすんだ?」
いきなり顔が目の前にあった。
「ちょっ、計人! 近い近い近いっ!」
反射的に後ずさりする私の腕を取り、顎を掴んで無理矢理向き合う形にされる。慌てふためき暴れようとする私は、そのまま壁に追い詰められ、身動き取れないようにされてしまった。
「計人っ、セクハラ! 暴力反対!」
「そっぽ向くのが悪ぃんだろうが。で? どうすんだ?」
「分かった! 分かったから放して!」
パニックになる私を無視して、ますます近付いてくる計人のせいで、顔が茹でダコのようになっていくのが分かる。
だって、仕方がないじゃないか! 父さんと兄上以外にこんなに顔近づけられたことないし! こんなの、お休みの時のほっぺにちゅ、するくらいの距離だもん!
「絶対だな?」
そんなの気にせず、計人が確認してくる。
「絶対! 絶対だから!」
だから放して!
「俺に言うな?」
「言う! 言います!」
なので放せ!!
下手に動いたらぶつかるため、頷くことすら出来ず、半ば叫ぶように返事をする。そんな私にぎりぎりまで近付きながら、耳元に息を吹きかけるように囁いてくる計人。
「悩むことがあったら、俺に全部相談するなら許してやる」
「します! 計人に全部相談しますからぁ……」
羞恥で涙目になりながら、懇願するように返事をすると、ようやっと解放された。
「絶対に相談しろよ?」
念を押す計人に、慌ててこくこくと頷くと、にっと笑いながらぽんぽんっと頭を撫でられる。
「おし、いい子だ」
私の年の端数も生きていない人間に、いい子とか言われたくない!
体中の火照りが収まるのは、暫く後のことになりそうだ……。




