喧嘩 計人
喧嘩した。
誰とかって? 梨亜だ。
あいつ、俺が楽しみにしてた、美奈謹製黒蜜プリン食いやがった! 最後の一個!
しかも、抗議した俺に対し「あ、計人のだった?」とか言いながら、ひょいぱくひょいぱく食べ続けやんの。
その上、食べた後に「美味かったか?」って聞いてやったのに、完全無視!
頭きて揺すったら「あ、呼んでた?」とかすっとぼけやがって。もう許さねぇぞ!
昼。いつもの様に、中庭でランチ。
梨亜と全く話さなかったことを、友人に指摘された。――元々、普段学校ではそんな喋ってねぇのに、何で分かったんだ?
「喧嘩したのか?」
「何!? ついに振られたか! 寂しいか? 侘しいでででっ! ギブ! ギブッ!」
とりあえず、バカが安定のうざさだったんで、さくっと締めておく。
「でも、計人には山口さんもいるからなぁ。万年お独り様のお前より楽しいと思うぞ?」
「調子に乗るなよ!? 山口さんはお前だけのものじゃないんだからな!」
びしっと指を差して高らかに宣言される。中庭には人は少ないが、いないわけではないってのに、よくもこうバカを晒せるな。
「昨日だって、山口さんが落としてしまった筆記用具を一緒に拾ったら『ごめんなさい、拾ってくれてありがとう。素敵なお・か・た』と、蕩けるような笑みをだな……」
誰だそれ。
「誰だそれ。山口さんはそんなこと言わないだろ」
思わず思考がはもった。
「なにおー!」
「おい」
十人中十人が突っ込むであろうことを言われて暴れようとしていたバカは、真剣な顔した俺の剣幕に圧されておとなしくなる。
「な、なんだよ」
「いいか、真面目に答えろよ?」
「お、おう。何だ?」
「美奈は、本当にお前にそんなこと言ったか?」
一瞬ぽかんとするが、すぐに正気に戻って答えてくる。
「い、言ったぞ。……そりゃ、言い方はほんの少しばかり違うかもしれんが」
「もう一度聞くぞ。美奈は本当にそんなこと言ったのか? ――具体的には、ごめんなんて言ったのか?」
「え、そこ!?」
さっきまで面白そうな顔して傍観していたやつが後ろで驚いているが、ここが重要なんだ。
「拾ってもらってありがとう、は美奈は言う。犬が棒拾ってきてくれたって言うくらいだからな。素敵ってのだって、優しいね、くらいを誇張していると考えればいい」
「うっ」
図星か。まぁ、そこはいい。
「だがな」
一旦、言葉を切ってから続ける。
「ごめんね、は言ったのか?」
「い、いや。そう聞かれれば、ありがとうとは言われたが、ごめんねとは言われてない気もするが……?」
「なぁ、そこそんなに重要か?」
「あぁ、重要だ」
物凄く重要だ。俺は頷いて、バカにもわかるように説明する。
「いいか? お前は、ごめんねと言われるだけの価値がない人間だ。もし本当にお前が謝られていたとしたら、俺は美奈の幼馴染みとしてやらなければならないことがある」
ぶっ! という変な咳が友人の口から飛び出す。風邪か?
「ひでぇ! 真面目な顔して言うから、本気で聞いてたのにこれか!?」
「勿論、この上なく真面目な話だ」
重々しく頷く俺とは対称に、我が友人は腹を抱えんばかりに喜んでいた。
「あっはっはっ! ……あー、おかしい。た、確かに、こいつにゃ、謝るほどの、価値、ないかもなぁー! ……ぶふっ!」
「お前らー!」
「「何だ?」」
「何だじゃねーよ、何だじゃ! お前らそんなに性格悪いと、山口さんにも嫌われるんだからな!」
「何言ってんだ、これだけ友達想いな俺らが、意味なく嫌われるわけないだろ?」
「そうだぞ。俺が美奈に嫌われるなんてこと、あるわけねーだろ」
「や、山口さんは……!」
「呼んだ?」




