後悔 梨亜
いつの間にやら、日も傾いてきていたらしい。私は、自分にかかった影を感じ、顔を上げた。
「梨亜」
いつの間にか、計人が私の目の前にいた。
両手に持ったマグの片方を私に差し出し、隣に座る。
「――あの機械は、何であんなとこにあったんだ?」
穏やかな声だった。まるで、責めてないから安心しろ、というように。
「ごめんなさい」
私は、渡されたココアを見つめながら言う。
「俺も美奈も、お前が悪いとは思ってねーよ。ただ、何があったのか知りたいだけだ」
元気づけるように、頭をポンポンと叩かれる。
「あれは……、多分試したんだと思う」
「試した?」
「前に言ったと思うけど、美奈は地界人なのに天界で力を使えたことが、少し問題視されてて」
「あぁ、それでたいちょーさんが監視することになったんだろ?」
頷きながら、計人が答える。
「でも、私達は美奈が脅威とならない証拠が出せていない」
私達も、何もしなかったわけではない。
まず、美奈が念を感知できるのは分かっていたので、地界では力がないとはいえなかった。
意識を集中させていなければ感知出来ないことはないだろうか、と期待もしたが、美奈は計人よりずっと自然体のまま感知できている。
では、感知だけ出来てもそれに対処するだけの力がなければ大したことはないといおうとしたのだが、武器を貸したら普通に消し去った。武器は、念を消すのが楽になるというだけで、力のないものが持っても何の威力もないのに。
却って、この世界に戻っても力が存在することを証明してしまったことになる。
もう破れかぶれで、術を教えてみた。
術は通常、何年、何十年かけて覚えるものなので、使えないからといって脅威にならないという理由としては少し弱いが、もうどうにかして『美奈が出来ないこと』を見つけたかったのだ。
――それなのに。
美奈はあっさりと使いこなしてしまった。
これには、隊長も頭を抱えてしまった。美奈が、超一級の力を持っていることを証明してしまったのだ。
当然、これらの結果を報告できる訳がない。したが最後、即座に危険因子として対処が求められる。
ここまで力があるにも関わらず、私達が美奈を危険視しないのは……。
「力があろうがなかろうが、美奈がお前んとこの世界に悪さするわけねーのにな」
そう。美奈の性格。そんなことするはずがない、ということを私達が知っているだけ。
でも当然、それが上には通用するはずはない。やろうと思えば出来ることが問題なのだから。
「今は、美奈がどんなに頑張っても、うちにたどり着く力はないってのを示せないかと思ってるの」
それさえ証明できれば、美奈はこちらに来ることが出来ず、脅威ともなり得ないという結論にもっていける、と今後の方針を固めている最中だったのだ。
けれど、遅かった。
ずっとはっきりとした報告をよこさない ――毎回、隊長が適当な報告でのらりくらりとかわしてくれていた―― ことで、強硬派が行動に出たのだろう。
「今回、美奈が引っかかって抵抗もみせずに倒れたことで、ひょっとしたら少し安心したかもしれない」
ひょっとしたら、それで満足して落ち着いてくれるかもしれない。……でも、
「反対に調子乗って、美奈への嫌がらせが激しくなるかもしんねぇってことか」
私の心配を先取りして言葉に出す。私はこくんと頷く。
「厄介だな……」
ため息をつく計人に、何も言うことが出来ない。
私があの時、役目を放棄せずに二人を案内していれば。
せめて、行く前にきちんと説明するか、兄上に頼んだ伝言がきちんと伝わっているかを何度も確認していれば……。
「ごめんなさい」
「お前のせいじゃないんだ、気にすんな」
慰めてくれる計人の声が、心に突き刺さっていった。




