異変 梨亜
「それじゃ、開始!」
私達の担当は三階紳士服売り場。地下一階ギフト売り場の美奈とは途中合流して、二階の若者向けファッション ――この階に甘味処がある―― をひやかすことになった。
とはいえ、既に元凶は潰してしまっているので、私達のやる気は最底辺だ。
「スーツなんて着る機会もねぇしなぁ」
「でも、ネクタイやカフスなんかをお父さんにあげるとかすれば喜ぶかもしれないじゃない」
「誕生日でも父の日でもなんでもないのに、いきなりプレゼントなんてしたら、喜ぶより怪しむと思うぞ」
「うーん、でも私、いつか計人のご両親にはご挨拶とお礼を言わなくちゃ、とは思ってるし」
「は……? はぁっ!? 何でお前が俺んちに挨拶くんだ?」
何故か大慌ての計人。
「何でって……。私のこと親戚だって証明してくれてるんだから当たり前でしょ? むしろ最初に伺うべきだったんだし」
機会がなくて ――というか、計人が実家を教えてくれない―― 会ったことないけど、親戚だってのに顔も知らないとか、流石にいい訳ないでしょうに。
「あ、あぁ。そうか、そうだな、そうだったな。――気にしないでいーんじゃね? うちの親大雑把だし。言われるまで忘れてるって」
なんとも投げやりな計人だが、そういうわけにもいかない。真剣に何か選んでみようかな。
などと思って見ていたら、店員に捕まり遅くなってしまった。美奈達がこちらに来ないのが不思議なくらい時間がかかった。
「美奈達も、店員さんに話しかけられちゃったのかな?」
「まぁ、引き止められてそうだな。……どっちにかは知らねーが」
――どっちにって?
とりあえず、合流すべく地下へ。引き止めてたのは店員ではなく、ペアの男子だった。――邪魔してごめん。
さて、四人に増えた私達は、次の受け持ちの二階へ。
「ついでに、ちょこっと洋服見ちゃわない? ふふふ、梨亜ちゃんのファッションショー」
「えー、美奈のじゃないの? 私美奈の色んな格好見たい」
「むぅ。それだと流石に時間足りないね。今度一緒に来ようか?」
「あ、賛成! 色々着せあいっこしようねー」「ねー」
当然の様に、同行が決定される計人。
「……金は出さねーぞ」
「いいわよ、荷物持ちしてくれれば」
「ポーターさんにチップくらい出すよー」
「なぬ! ポテチか?」
駄洒落なのか、本当にそれが食べたいのかよく分からない返答が返ってくる。
「それくらいなら労働しなくたって、いつでも作るよー」
ともあれ無事、労働力もゲット出来たようだ。
「俺も、一緒に……」
更に一緒にいたもう一人が、同行を希望しようとしたその時。
「美奈っ!」
いきなり、がくんと美奈が頽れる。
すんでのことで美奈を受け止めた計人は、私達に叫ぶ。
「梨亜、荷物頼む! お前は皆に知らせてくれ!」
言うだけ言って返事は聞かずに美奈を抱え、歩き出す計人に、私達も慌てて行動を開始する。
「お、おぅ、分かった!」
走って去っていく男子を尻目に、さっと屈んで床に落ちた物を持ってついていく。
「すみません、つれが倒れたんで、どっか休めるとこありませんか?」
店員は、奥の休憩室を開放してくれた。
「救急車をお呼びした方がよろしいですね」
親切心から言ってくれた言葉に、思ったより大きな声が出た。
「いえ、結構です!」
私の剣幕に圧されながらも、気遣わしげに美奈を窺う。
「ですが、突然意識がなくなったのなら、医者に見せた方がよいかと思いますよ?」
どうしよう……?
返事に困っていると、代わりに計人が答えてくれた。
「あー、こいつ主治医いて、そっちに連絡取ってんで。ちょっとかかるかもしれないんですが、それまでここ借りてていいですか?」
その言葉に、にっこり笑って快諾してくれる。
「では、何か入用なものがございましたら、遠慮なくお申し付けください」
「ご迷惑おかけしまして申し訳ありません」
「いえ、お気遣いなく」
一礼して去っていってくれる。
「で、医者に見せねぇ方がいいのか?」
店員がいなくなった後、計人が確認してくる。
「うん。だけど主治医が来るって……、どうするの?」
「あぁ、それなら今から美奈んちの運転手に来てもらう」
ちょっと頼むな、と美奈から離れてどこかに電話をかける計人をぼぉっと見ながら、美奈が倒れた時のことを思い出していた。
あの時、一瞬美奈にまとわりついた漆黒。そして、荷物と一緒に拾ったコレ。
――ごめん、美奈。ごめんね。
そっと手を握っても、美奈は目を覚まさないままだった。




