天界へ続く穴 計人
天界にて、というサブタイトルがあまりに続きすぎるので、タイトルだけ変えることに。うん、毎回変えるのも大変ね。タイトル考える才能は無い。
あ、内容は何一つ変わってません。
どこまでも落ちていけそうな底の見えない暗い穴。それが今、目の前に出現している。
落ちたら、確実に天国へ行けそうな。
――行こうとするには死ぬ必要があるから天界、とかいうんじゃねーだろうな。
阿呆なことを思いつつ、穴を出現させた人物を見ると、
「もう繋がってるよ」
と、事も無げに言われた。
――気にしてるのは、そんなんじゃねーんだが。
やっぱり、行くのや~めた、とか言えねーかな、と、往生際悪いことを考える。
が、そんな俺に梨亜が、入って入って、と促す。美奈は、と見ると、屈んで穴にひらひらと手を入れたり出したりすると、えいやっと勢いつけて飛び降りた。
見る見るうちに姿が闇に飲み込まれていく。
――しゃーねー。まさか、ここで死にはしねーだろ。
俺も覚悟を決めて、思い切り飛び込んだ。
最初は勢いよく落ちていたが、あまりの長さに、段々と上っているのか下っているのか分からなくなってきた。
いや、いつの間にか、落下が止まっていた。
ふわふわと無重力に似た感覚の中、流されるまま進んでいくと、目の前に立派な門が現れる。流れが止まった。
「異世界人の入国許可もらうから、まずここで待ってもらえる?」
「はーい」
「許可って先に取ってないのか?」
それぞれ勝手に返事を返す。
「本人が来てからじゃないと手続き出来ないのよ。大丈夫、二人なら許可出ない理由がないから」
そんなもんなのか、と門を見ていると、中から数人、こちらに向かってやって来るのが見えた。
「――すみません、結城梨亜さんですね?」
物々しい格好の上、何か上から目線のやつだ。何となく気に入らねーな。
「はい? そうですけど」
「ちょっとご同行願えますか?」
「はい?」
「北へお連れしろ、との命を受けておりまして」
美奈は、いきなりの命令に困惑しながらもきちんと答える。
「しかし、今地界人の入国許可をとろうとしているところでして」
「待っている時間はございません。申し訳ありませんが、従っていただきます」
随分と乱暴な物言いに、ふぅ、とため息をつく。
「――分かりました。二人共、悪いんだけど、ちょっとそこの待機所で待っててくれる? すぐ戻るから」
どうやら行くことに決めたらしい。即決だな、おい。
俺ら、置き去りかよ……。
「大丈夫?」
心配そうに尋ねる美奈に、にっこり笑って答えたる梨亜。
「うん。ごめんね、ゴタゴタして」
「何か気を付けないといけないこととか、ある?」
「うーん。ここからふらふら歩いて、いつの間にか密入国、とかなければ、別に」
「待ちくたびれて帰りてぇ、とか思ったらどーすりゃいい?」
梨亜への質問だったが、待機所と呼ばれた場所にいた係員らしい者が答える。
「お戻りの際には、お送りしますよ?」
「あぁ、ありがとうございます。その時はお願いします。――というわけで、あの人に頼んで?」
「りょーかい」
これで、飽きて帰りたくなっても帰れない、という事態は回避されたわけだ。
「では、ご同行願えますね?」
さっさとしろ、とばかりに会話に入ってきた連中に、梨亜は連れ去られていった。
「さて、どうするか」
さすがに、こんな訳の分からない場所に置いてかれるとは思わなかった。
大体、梨亜は何も疑問もなくお願いしていたが、あのおっちゃん、俺らの帰りたい場所へ返せるんだろうか?
この世界の外に追い出すだけとか、間違って違う世界にとかは、しゃれになんねーぞ。
段々と不安になってきた。
「最初から波乱万丈だねぇ」
しみじみと言う美奈に、その通りだと頷く。――中入ったら何か奢らせよう。
「その内、俺らも捕まって帰れなくなったりしてな」
ははっと笑いながら言うと、美奈に注意される。
「言葉には言霊があるんだから、変なこと言っちゃ駄目よ」
「言うんだったら、『皆無事に帰れる』とかにしておかないと」
人差し指を口の前に立ててたしなめる様に言われ、首をすくめる。
「まぁ、確かにこれ以上の面倒はごめんだな」
「そうそう。平穏無事が一番」
そんなことを言っていた俺らだったが。
『言葉には言霊がある』
暫く後、俺はこの言葉を思いしる。
――やっぱ、重要だわ。先人の話に耳を傾けるのは。