害夢 2 梨亜
そもそも、しなくていいはずの仕事をやらなきゃならなくなった原因も、ろくに説明もしなかったのも私なのに、つい、計人を責めてしまった。
「まぁ、こっちも説明後回しにしてたのが悪かったんだし!」
慌てて言うと、少し表情が緩む。真っ直ぐこちらを見つめて笑うその表情を見て、顔がかぁっと熱くなった。誤魔化すために精一杯真面目な表情で注意する。
「だ、だから、悪いとかは思う必要ないけど、危険なことはしちゃ駄目よ? ……危険なことさせている私の台詞でもないけど」
言っている内に自己嫌悪で少し暗澹たる思いになるが、素直に頷いてくれたので、ひとまず今は害夢駆除を優先にすることにして話を進める。
計人には、改めてやってほしいことを言いながら、武器の形状を変化させる。
「これで暫く自分の身を守って」
手渡すと、興味深そうにあちこち触れたり動かしてみたり。――うん、使用に問題はなさそう。
これでどうすればいいのかと聞く計人に、私の術が使えるまで害夢の気を引いてほしいことを伝え、再び害夢のところへ戻る。
「おら、こっちだ、木偶の坊!」
計人の挑発で、害夢の意識がそちらに集中するのが分かる。
計人が危険にさらされているが、ここで焦って失敗しては却って危険になってしまうため、一つ深呼吸をして、術を唱える。
「街に舞いくる風に請う 平穏望みし我が意に沿いて 我が前に立ち塞がりし敵を 打ち払え」
「自由を纏いし風に請う 平穏望みし我が意に沿いて 怒れる敵を 縛りたまえ」
一旦弾き飛ばして怯んだ害夢を拘束の鎖で縛り、水の癒しを与える。
「御霊を護りし水に請う 平穏望みし我が意を汲みて 怒れる敵を 鎮めたまえ」
これでまだ暴れるようなら、消滅させなければならないんだけど……。
幸いなことに、その心配は杞憂に終わり、害夢の力が失われていくのが分かる。
よかった。
動かなくなった害夢の元に近付いていくと、計人が慌てて追ってきた。
「おい! 術解けたらどーすんだ、危ねぇぞ」
「大丈夫、もうこれは消えるから」
そう、これはもう危ないことはない。それより、なるべく近くで聞いてやらないと……。
計人に振り向いて言うのと同時に、害夢は段々薄くなり、パチンと消えた。
いつものように、言葉を残して。
《お願い、隠れてぇ!》
「……今の、何だったんだ?」
害夢の最期の声を聞いた計人が、恐る恐るといった体で聞いてくる。
「あれは、夢人の声」
私は、小さな命が理不尽に奪われたことが、今回の害夢の発生に繋がったことを説明した。
害夢は、世界に害をもたらす存在ではあるが、悪とはいいきれるものではない。だって、それは夢人がそれだけ世界に、物語に感情移入していた証なのだから。
だから、最期の声は私達が受け止める。世界の異物として消される存在であっても、その想いまでは否定しないというせめてもの償いだ。




