害夢 4 計人
「……今の、何だったんだ?」
俺が梨亜に聞くと、梨亜は少し寂しそうに消えた化け物の方を見た。
「あれは、夢人の声。――この物語では、小さな少女が殺されてしまうの。お昼寝途中にトイレに行こうと寝ぼけ眼で歩いているところを、留守宅だと思って空き巣に入った男と鉢合わせして、ね」
物語にとって、特にこれといった何か意味があるようなものでもなんでもない、無意味に殺されてしまうだけの役割。それに納得できず、今回の化け物が出来たらしい。
「だから、あいつは物を透明にしたのよ。ものを、人を隠すことで助かってほしいと願ったから」
「今回、周りのものが破壊されていないでしょ? 気に入らない話を壊したいと思ったんじゃなく、死んでしまった子を助けたいという思いの塊だったから破壊行動に繋がらなかったのね」
何としても助けたいという思いが、この世界を脅かす力に変わる、か。
「なんともやりきれねー話だな……」
かといって、倒さねー訳にはいかねぇしな。
何となく重くなった空気を払うように、梨亜がピースサインをぐぐっと目の前につきだす。
「でも、ここで感情を爆発させていったことで、夢人本人は少しすっきりした筈よ。こっちも計人のおかげでちゃんと倒せたから問題ないし!」
ピースサインって子供かよ、と思っていると、何を勘違いしたのか慌てて言葉を紡ぎだす。
「それに、ここら辺の溜まった念をあれが集めたせいで、辺りは綺麗になったし!」
何かを誤魔化すような必死な姿が面白くて、そのまま口を挟まず見ていると、勝手に喋り続ける。
「それにそれに、計人だってほら、遠くまで出掛けて貴重な体験した訳だし! きっと人生経験多い方が大きな人間になれるって!」
段々自分でも何言ってんだか分かんなくなってきてんな。相変わらずのパニック体質に、笑いそうになるのを必死に堪える。
ついには返事をせずに見ているだけの俺に焦って、あわあわと手をこちらに向けたり下ろしたりと意味不明な動きをし始めた。
「ぷっ! ロボットダンスの練習かぁ?」
「なっ、計人! 騙したの?」
一瞬こちらをぽかんと見つめた梨亜は、次の瞬間顔をかぁっと真っ赤に染め上げた。
「お、俺の人生経験まで、か、考えて……、ぶはっ」
いつの間にか、先程まであった胸のつかえは消えていた。
――そうだな。例えどんな理由があろうと、俺はこの世界の方が大切だし、どこまでもお人好しな梨亜にも怪我なんてさせたくねぇ。
化け物が俺の大事なもんを壊そうとすんなら、理由はどうあれ倒す。それでいいじゃないかと思ったら、すっと心が軽くなって、何だか無性に笑えてきた。
腹を抱えて大笑いする俺を睨んでいた梨亜だったが、見ている内に怒っている自分がバカらしくなってきたらしい。
人のいない駐車場に、二人の笑い声が響いていた。
ずっとこんな風に笑ってられるよう、少しは頑張るかと思える時間だった。




