隠蔽工作 梨亜
困った。
計人が術に興味を持った様だったので、少し教えてみた。
とはいえ、出来るなんて思ってもいなかったんだけれど。
計人のいる世界では、術という概念はゲームや物語等、架空のものに過ぎない。
当然、理論立てたものになっている訳もなく、存在しないものなので、小さな子供が覚えようとするのとは異なり、今までの常識が足を引っ張って理解出来ない事が多い。
そうでなくとも、天界人だって術を使いこなすには十年以上かかることもザラなんだし。
むしろ、強制的に使っただけで同じことなら出来るというのは、凄いことだったりする。
僅かの違いを感覚で掴めているということなのだから。
それなのに、只今計人は絶賛やさぐれ中だ。
今は、放っておいても勝手に消える状態になっている念を執拗に攻撃している。まるで親の敵を見つけたかのような形相で、ひたすら箒を振り回している。
――まぁ、気持ちは分からないでもないんだけどね。
私だって、出来るものならやさぐれたい。
ちょっと見せただけできっちり理解し、その上応用まで出来るって……。
美奈の理解力はどうなっているのか。私が覚えるまでの苦労は一体なんだったというのか。失敗の悔しさを、成功した時の感動をどうしてくれるっていうの。
閑話休題。
困った。本当に困った。
別に、計人のやる気がいつになく最底辺になっているのが困るわけではない。――いや、そっちも十分困ってるけど。
美奈が、術を使えるようになってしまった。
私達の予定では、
術を教える→出来ない→大したことない→無害
というシナリオでいこうとしていたのに。出来ないどころか、教えてもないことまで出来、他人に教えることすら出来る始末。
却って危険な存在だって証明してしまった気がする。――どうしよう?
弱り果てて泣きついた夢守隊・第三隊隊長室 ――今は人払いがされて、隊長と副隊長と私しかいない―― でのお話。
「隠すしかない、な」
「ですね」
こっそりと相談しに帰った天界での結論は、私の想像通り、術を使えることは報告しない、というものだった。
「と、なると、美奈にも術を使わないようにしてもらう必要があるわけだが……」
まさか、馬鹿正直に「美奈の存在が危険視されていて、力があることをばれたくないから術使わないで」とは言えない。
何か、誤魔化せそうな案はないものかなぁ?
しばし、三人で首をひねって考える。
「確か、五十嵐さんは術を使うのに乗り気でないという話でしたよね?」
まぁ、乗り気でないというか、出来ないと思い込んでいるというか……。
「比較対象が悪すぎたからな……」
うちのやつらですら自信喪失しかねん実力を見せ付けられたからな、と頬杖をつく隊長に、思わず頷いてしまう。
「でしたらどうでしょう? 五十嵐さんが自信喪失しているので、術は使わないようにする方向でいきたい、とお願いしてみては」
成程。それはなかなかいいアイディアかもしれない。
「それなら、五十嵐が意識しないように、話題にも載せないようにする理由にもなるか」
隊長も、副隊長の案に賛成のようだ。
「じゃあ、それはそれでいいとして、だ」
隊長が机に頬杖をつきつつ、遠いどこかを見つめ始めた。
「下手に美奈と接していると、どんどん技能を吸収されかねんな」
必死に教え込んでもなかなか理解出来ん奴らが多い中、全くもって羨ましい限りだ、とぼやいているが、とてもじゃないが笑えない。
「とにかく、こちらに来る手段だけは会得されないようにする必要がありますね」
「だな。結城、お前絶対に美奈の前で道を開くなよ」
「はい、分かっています」
もし美奈がこちらに来る方法を得てしまったが最後、美奈は強制的に殺されるかこちらの世界に引きずり込まれる。
どちらにしても、美奈にとって辛い結果にしかならない。計人だって黙ってみてはいないだろうから、下手をすると二人とも犠牲となりかねない。
美奈といるときは、これ以上余計な力を身につけさせない様、気をつける必要がありそうだ。




