術とは 1 計人
美奈は一つ頷くと、説明を始める。
「まず、術というものについての前に。私達を構成する要素について」
「生物は『肉体』『記憶』『魂』『力』の4つで構成されており、無機物なんかは、『肉体』『記憶』『力』の3つで構成されているの」
ほほぉ、生物かそうでないかの違いは、魂があるかないか、なのか。
「そして、『肉体』『魂』については、大体結びついていて、それらの結びつきが途切れることが『死』と呼ばれるの」
ふんふん。
「『記憶』は、その『肉体』から生まれ、他の肉体へ移ることはないけれど、記憶世界に落とされた記憶は、他者も見ることが出来る」
美奈は続ける。
「『力』は特殊で、『肉体』や『魂』に結びついてはおらず、世界中にただあるものなの。いうなれば、水とか空気みたいなものかな?」
自分自身固有のものって訳でもないんだけど、ないと存在できないからね、と言われ、何となく納得する。
「で、術というのは、その『力』に形を与えること、と考えるのがいいんだと思う」
「『力』に形を与える?」
首をひねる俺に、噛み砕いて説明し始める。
「そう。元々『力』というのはそこら辺に漂っていて、明確に形や方向をもってはいないんだけど、それをどの様に作用させるかを決めるのが術というものなの」
例えば……、と言って美奈は、自分の前に光の球を生み出す。
「これは、周りにある『力』を圧縮させて発光させたもの。発熱や冷却も、周りにある『力』の密度を変えることで起こせる」
それから、と美奈が言うと、美奈の周りに風が吹き始める。
「『力』の方向を一緒にすると、こんな風に風が起こせる。風の強さは、『力』の密度によって変わるよ」
そよ風から竜巻レベルまで、段々と変わっていく風 ――服や髪は全く揺れない。吹く範囲は限定されているらしい―― を見て、ふと疑問に思う。
「術名、必要ねーのか?」
確か、何やら沢山の術名があったと思うが。
「うん、これは正式な術ではなくて、『力』をちょっと動かしているだけだから、そもそも名称がないのよ」
ほほぉ。それだけで十分な気がするんだが。――まだ数え終わってねー木が雷に打たれて倒れたし。ちっ。
「術名が必要なるのは、『力』の流れだけでなく、性質まで変容させる場合と思えばいいと思う」
「性質の変容?」
段々難しくなってきたな。
微妙に面倒になってきたのが、長い付き合いの美奈にはばればれだったようだ。
倒れた木の方を向いていた顔に手を伸ばし、くいっと美奈の方を向かされる。
「そう。今私がやってるのは、水を混ぜて波を作ったり、水滴を上から落として飛沫にしたり、とその程度と思ってくれればいい」
「ほぉ」
今ので、ねぇ……?
「ただ、水を氷にしたり水蒸気にしたりするには、冷やしたり加熱したりすることが必要でしょう? それは、流石に人間が簡単に出来る様なものじゃなくって、機械とか環境とかで、その状態を作り出さないといけない」
ふむ。
「そして『力』の場合、冷やしたり加熱したりする機械ってのが、術名に相当すると思えばいいかな」
成程。
「ちなみに計人の持ってる武器も、『力』の変容の一種よ? 術名がいらないのは『力』の方に法則が施されているだけで」
「『力』に法則?」
いまいちイメージがつかめなかった俺を見て、補足する美奈。
「うーん、形状記憶合金みたいに、形を記憶していると考えれば分かりやすいかな? 基本的に『力』は流動的で、その状態に応じて姿を変えるんだけど……」
「流動的?」
「えっと、さっきも言ったように、私達にとって必要不可欠だけれど、『肉体』みたいに自分自身のものが決まってるわけじゃないってこと」
あ、そっか。空気や水みたいに、あるかないかが重要であって、同じ個体でないとならない訳じゃないってのと同じってことか。
「そう。そんな風に、普通はどこに存在している『力』か、なんてことは気にしない。だけど、武器は『力』を固めて、簡単な合図一つで自分たちが使いやすく変化するように加工しているの」
――ほほぉー、つまり『力』の固まりなのか、こいつ。
思わずまじまじと箒を見てみるが、当然ながらどうやって出来てるかなんて分からない。
「てことは、普通の掃除機能も最初から使えるように設定されてたってことか?」
「そうなるでしょうね」
戦いの武器に日常お助け機能を盛り込んだやつがいるってことか。そいつは結構愉快な性格していそうだな。




