違い 2 計人
美奈が、小説と現実との違いを説明し始める。
「あのね、まずこの女の子、小百合さんはヒーローの親衛隊なんかじゃないのよ」
「なんなんだ?」
「ヒーローである玲人の婚約者」
「は?」
あれか、婚約者がいる人を好きになっちゃって、とかいう話か? でも、そこら辺って些細な問題じゃねーのか? よくある愛のない親同士の決めた結婚とかいうやつだろ?
「まぁ、正式ではないんだけど。――元々、この二人のおうちって、家も近いし親同士も仲が良く家格も似たようなものだから、お互いに娘と息子が生まれたら結婚させようって言い合うくらいだったのね」
やっぱそうだよな。ヒーロー側は、特にその気もないがきっぱり拒絶もしねーから、事態がややこしくってのはよくある話だな。
俺は、うんうんと頷く。
「で、本人同士も『大きくなったら小百合を嫁にする』『大きくなったら玲人のお嫁さんになる』っていう関係で、幼稚園から小中高と、ずーっとべたべたに仲が良くて、エスカレータ式の学園の中で名物カップルだったのよ」
「……ほぉ?」
「二人とも美男美女だったし、明るくて一緒にいるのが楽しくなるから、まだ小学校くらいだと、我こそはってのが二人に告白するってのもあったんだけど、高学年にもなってくる頃には、言うだけ無駄だと諦められるくらい仲が良かったの」
「……そりゃー、筋金入りだな」
「事実、高校卒業と共に正式に婚約をし、大学卒業後結婚する予定だったしね」
「何で、先に婚約しとかなかったんだ?」
そこまで決まってんなら、幼稚園とかそこら辺から婚約しててもいいんじゃねーのか?
「一番最初に話が持ち上がったのが、お互いが赤ん坊の頃だからね。結婚させたいという希望はあったけど、本人達がどうなるか分からないし、恋愛結婚させてやりたいとは思っていたから、口約束だけにしていたのよ」
成程な。
「まぁ、結果は見事に両親たちの希望に沿う形になったから、中学くらいの時しちゃう? って話もあったんだけど、その頃になると、態々婚約式しなくても、もう決まっているから良いでしょ、という雰囲気になっていてね。一応最初に決めた高校卒業と共にやりましょうか、と言われていたのよ」
まぁ、ありうる話だな。
「それなのに、高校から入ってきた主人公が周りも見ずに猛アタック掛けたから、学園全体が怒っちゃって」
まぁ、理想のカップルに茶々入れようとすりゃ、気に入らないやつも出てくるわな。
「といっても肝心の二人は、『何か最近、変わった行動の面白い子にしょっちゅう会うんだよね』とか言うのに対して『そうなの? 私も機会があったら会ってみたいわ』なんて返すくらい、どうとも思っていなかったんだけど」
「平和だな」
「うん、だからこそ、皆も二人の平和を守ってあげたかったんでしょうね」
言いながら、小説を顔の前にあげるようにして見せる。
「この小説の中で、小百合さんの取り巻きに『玲人様と小百合様は昔から結ばれることが決まっている伝説のカップルなのよ! 貴方如きがそれを邪魔しようなんて、身の程を知りなさい!』と罵られるシーンがあるのね」
おぉ、見事な悪役の台詞だな。……二人が実際に付き合ってるんじゃなけりゃ。
「これ主人公が勝手に、自分が貧乏だから『身の程を知れ』といじめられてるけど負けない! と不屈の闘志を燃やして、読者に頑張れといわれるシーンなんだけど、実際は……」
「貧乏云々関係なく、身の程を知れ、だな」
「そう。お友達としても、別にお金持ちと貧乏人がつり合わないって言っているわけじゃなくて、二人の邪魔をしようとしていることを小百合さんが知って困る前に諦めてもらいたかっただけなのよね」
二人なら大丈夫だと思ってはいても、ファン心理としては、邪魔は入ってほしくないものねぇ、とぱらぱらとページをめくっていた美奈がため息をつく。
「学校中からのいじめだって、そもそも主人公が許可なく立ち入り禁止区域に入っちゃったり、学校の品位を下げるような在校生として相応しくない行動を取ったのを咎められているのが大半だし」
「おいおい、何でそれがいじめになるんだ?」
「彼女、校則を殆ど読んでないのよね。知らないから、注意されても全部いじめだと思っていたのよ」
おい。
「随分な自己中だな。そんな主人公のどこが人気なんだ?」
いくらなんでも、そんなバカは主人公にしても人気出ねーだろ。
「だって、本人の中ではそれが事実だったんだもの。学園中から、貧乏というだけでいわれのない差別を受けていて、それでも挫けることなく前を見据えてるのよ。ほら、ひたむきで前向きでしょう?」
「……そうか、本当はいわれがあるだけか」
一つ事実が隠されるだけで、えらく印象が変わるんだな……。




