違い 1 計人
早速美奈に聞いてみることにした。
「――って言うんだけどよ、実際にあったことを話にしてんだから、誰が話にしようと変わんなくね?」
勿論、文章作りの上手さによって、面白いかつまらないかは変わるだろうが。
「うーん、結構、人によって話って変わるよ?」
賛成してもらえると思って話していたのだが、意外にも、美奈も梨亜の意見に賛成のようだ。
「そんなもんか?」
美奈の作ったマドレーヌを食いながら、首をかしげる。
俺の疑問に、美奈は少し考えた後、そうだ、と手を叩いて鞄を探り始めた。
「計人、このお話、内容知ってる?」
そうして美奈が鞄の中から取り出したのは、最近流行ってる恋愛小説だった。
――確か、今世紀最大の泣けるピュアラブストーリー、だったか。
「確かよくある、金持ち学校に奨学生として入った主人公が、そこで君臨してるやつと恋に落ちてなんやかんやでハッピーエンド、とかいうやつだろ?」
「そうそう。最後に、今までいじめの黒幕だった親衛隊隊長を実家から絶縁させたヒーローが、主人公をずっと守っていくことを誓うという物語なんだけど……」
人気作だったから試してみたんだけど、計人も読む? と言われるのを断り ――美奈が面白かった、と言わないものが面白かったためしはない―― 、それが一体どうしたのかを聞く。
美奈曰く、小説のストーリーと事実は全く違うらしい。
「まぁ、出来事は勿論一緒といえば一緒なんだけどね? でもこの小説、主人公の意識を基本に物語が出来てるから、本人の思い込みが事実ということになってるのよね」
「思い込みが事実に?」
それが何か問題あんのか? だって、そいつの話なんだから、そいつの意識が追えてりゃ十分じゃねーの?
訳の分からない俺に対し、美奈から衝撃の言葉が発せられた。
「いじめっ子、いじめてないんだよね」
「は?」
「その女の子がやったことって基本的に『いじめを止め切れなかった』『目の前で水を被った主人公を助けず、ヒーローがやって来て女の子がやったと誤解したのを否定しなかった』くらいだもの」
「はぁ?」
やばい。何言ってんだか分かんねぇ。いや、分かるが、訳分かんねぇ。この話、いじめに負けずに立ち向かう健気な主人公がうりじゃなかったか?
美奈が言ってんじゃなけりゃ、即座に嘘つくなと突っ込みいれてるとこだ。 ――生憎、美奈は俺に対して嘘をついたりしないんで黙ってるが。
「もし、私が先に同じ時間軸でこのいじめっ子が主人公の話を書いて出していたら、読者は健気な主人公の悲恋物だと思ってくれる自信あるよ」
正反対じゃねーか。高飛車で裏で学園牛耳ろうとしてるいじめ役だろ?
俺は、世間で言われている小説の評価と、美奈の言った話のあまりのギャップに訳がわからなくなった。




